腹が空いた。嵐が始まって2,3日は寝床の洞窟にいる生物を手当たり次第食い散らかしていたが、ついに誰もいなくなった。この雨では外からの来訪者は期待できない。
目を開くのも憚られる弾丸雨を我慢し、洞窟の外で粘るがやはり可食生物はやって来ない。辺りをうろついて探そうにも、気を抜けば台風の日の生中継リポーターが持つ傘のごとく吹き飛ばされそうになる。
その上、このような異常気象で他の生物がどこに隠れているのか知識が無い。近くの洞窟を覗いてみたが、傷付いたドスランポスが一匹。吾輩のような生き残りだろう。
嵐の中、大変な思いをした割にはリターンが少ない。
止む無く自粛するが、嵐は一向にやむ気配がない。恐らくクシャルダオラの仕業。古竜は天災とも例えられるが、まさにである。
とはいえ、このまま飢えるのも納得いかず。風に飛ばされないように肩をすくめて積乱雲の元へ向かう。
雨ニモマケズ、風ニモマケズ
竜ニモ狩人ニモマケヌ丈夫ナカラダヲモチ
食慾ト睡眠慾イガイハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニ寝テヰル
一日ニランゴスタ十合ト
毒蛙ト少シノ麻痺蛙ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンダケヲカンジョウニ入レ
大陸ノ密ノ林ノ
小サナ洞ノ窟ニヰテ
東ニイャンクックノコドモアレバ
行ッテタベテヤリ
西ニ死ニサウナライゼクスアレバ
行ッテソノ口に接吻シテヤリ
南カラクルオオナズチアレバ
頭ヲカチワッテヤリ
北カラクル狩人アレバ
失禁セザルヲ得ナクスル
我輩ハサウイウモノトシテ生キテキタ
大竜巻を前にしてサウマトウが頭ヲよぎる。1つだけでも町が滅びそうな規模にもかかわらず、それが4つも。
根付の悪い木々は根こそぎ空に掬われ、風の石垣を補強している。
宙の本丸には翼の端を銀朱に染める鋼竜。恐らく怪異克服個体。
「バリスタのほとんどを持っていかれましたけど、これからどうしますの!?」
「どうするもこうするもねぇよ! 他のハンターも見えねぇし作戦は失敗だ! 散り散りに逃げるしかねぇだろ!」
「あぁも空に逃げられてはのう……」
「イブさんが翔蟲で追っかけるのはどうですかぁ……?」
「蛮勇が売りの私でも流石に自重しますわよ、この嵐は」
例の4人がなんのかんのと言い合っている。人もこの嵐には耐えかねたようで、討伐隊を出したようだ。それも失敗に終わっているようだが。
「うわっ、エスピナス!」
「傷付じゃのう。お前さんも迷惑こうむって文句言いに来たのかえ?」
「あ、あの……ちょっとクシャルダオラを地面に引きずり落として貰ったりってぇ……」
我輩に気づいたハンターたちはぼやきながらも、我輩を風避けに使える位置に動く。
ただ、太刀使いの金髪ツインテールだけは動かず。ゴーグル越しに目が合う。この嵐のお供として正直羨ましい。
「……あーッ!!」
ツインテールが我輩の後ろを指差し、急に叫んだ。嵐の中でも良く通る声。釣られて振り向いた。
瞬間、我輩の身体に鉄蟲糸が巻き付く。完全に虚をつかれた操竜。ツインテールは我輩の背中に飛び乗ろうと跳躍。
「オバアァーーッ!!」
しかし、突風に煽られて正月の凧と化す。我輩に巻き付いている鉄蟲糸だけが頼り。
なんとか近くの木にしがみついて一命を取り留めていた。再び目が合う。
「お、おほほほほ……! 嫌ですわ軽いジョークじゃありませんかちょっとした冗談というやつでありますので勘弁いただけないでしょうか……!」
風に煽られて軋む木にしがみつきながら懺悔してくる。嵐なので漏らしているかは分からない。
我輩の狙いは彼女らではないのでスルー。上を見上げれば、相変わらず竜巻の城に引きこもるクシャルダオラが見える。
翼を広げてみるが、強風に煽られて転がってしまう。元々、空を飛ぶのは得意ではないのに加えて、この風ではまともに飛行できない。
激怒モードで運動能力を上げても結果は同じだろう。つまり、正攻法ではクシャルダオラの元にたどり着けない。
どうしたものかと考える。
「あっ」
ツインテールの声。大きくはないが良く通る声。先程よりも素っ頓狂な声は聞く者を思わず振り向かせる力を持っている。しかし、二度同じ手に引っ掛かるほどこの吾輩、安くはない。
次の瞬間、横っ面に風で飛んできた大木が直撃した。やっと再生してきた頭の角が再び折れる。
まぁ、そのダメージで吾輩は激怒できたのだが。