吾輩はエスピナスである   作:RKC

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8話

 視界不良の煙霞~ 

 番人気取りの 悪たれ坊

 獲物めっけと 舌を巻いて~

 迷彩纏いて~ 辻強盗~

 慢心の権化~ 不届き千万~

 賊 許すまじ~ 捉まえろ~

 

 泥棒避役

 【霞龍 オオナズチ】

 

 

 心の琵琶法師が一句読み終えた頃。オオナズチは邪魔な霧を退け、わざわざ姿を現し、狩人4人に見せつけるがごとく強奪した荷物を踏み潰した。

 

 古龍は知能が高いが、悪知恵の方に偏ると相当な厄介者である。前世でも猫は鼠を転がしながら狩ると言うし、鴉も鹿の糞を生産者の耳に詰めると聞いた。生存に意味の無い暇つぶしで他生物をいたぶるのは人間の専売特許ではないのだ。

 

「こいつは……?」

 

「ハンターズギルドの本部で姿絵を見たことがありますわ。確か名前はオオナズチ。霧を操る力に、透明になる擬態化能力で目撃情報が古龍の中でも圧倒的に少ないとされていますわ」

 

「こ、こんな事ならランダムボール持ってくれば良かったですぅ……!」

 

「長生きはするものじゃな。まさか神仙に出会えるとはのう」

 

 狩人たちがそれぞれ抜刀しようとする中、ロリババアだけは荷車からシーツを抜き取り、腕に巻いた。

 

 オオナズチは再び荷車に向けて舌を伸ばす。ロリババアはその舌を腕で受け、シーツだけを盗ませていた。

 

「奴の狙いは積み荷じゃ! 殿は儂が引き受けるからおぬしらは離脱せい!」

 

「気付けにが虫貰いますわよ! おらっ! 二人も召し上がれ!」

 

「う”ぼぉ”おえ”っ”!!」

「ぢゅ”いぃ”いい……!!」

 

 シュールストレミングを食べたユーチューバーのような声を出した二人を連れて、太刀使いが荷車を引いていく。

 

 オオナズチは荷車の方に走っていくが、急に立ち止まった。頭を振ってロリババアをねめつける。

 

「古龍というのは耳が良いのう。甲高い音は嫌いかえ?」

 

 恐らく人間や吾輩の可聴域を超えた高周波でオオナズチの敵視を取ったロリババア。自分の耳ですら聞こえない音を操るとは、よほど狩猟笛に精通していると見える。

 

 オオナズチは目障りな騒音ババアに毒液を吐く。しかし彼女はのらりくらりと躱す。なまじ狙いが良いぶん避け易し、といったところか。

 

 オオナズチは地団駄を踏みながら、かっこんかっこんと毛玉を吐く寸前の猫のごとく謎の予備動作を取る。次の瞬間には上を向き、噴水のように毒液をまき散らし始める。

 

 無造作な攻撃だがロリババアは慌てない。よく観察し、自分の元に毒液が飛んでこないと分かったのだろう。一歩も動くことなくやり過ごす。

 

 しかし、オオナズチは面白くないようだ。元々の爬虫類然とした無表情よりも不満そうに見える。

 一瞬で濃霧が辺りに満ち、オオナズチが輪郭を失った。

 

 

 

(Side:霧の中のロリババア) 

 

 古龍というのはつくづくいい加減な生き物じゃ。これだけの霧を発生させるわ、透明になるわ。ポッケ村近くの雪山に現れるきりんやくしゃるだおらも同様。

 天候を操るとは自然そのものを相手にしておるようで恐れ多いのじゃ。

 

 普通のもんすたぁ相手でも十分に準備をしてから狩猟を行うのが基本というのに。古龍という災害相手に初見で立ち向かわなくてはいかんとは。

 

「享年、いくつになるかも分からんなってしもうたのう……」

 

 自嘲気味に呟いてから目を閉じる。狩猟笛からは吾輩が最も聞き取りやすい周波数の音を垂れ流す。

 

 いかに姿を消すとはいえ、存在はしているはずなのじゃ。物体が動いた時の音の反響の差を聞き取ることが出来れば対応できるやも。

 ただ、霧のせいかいつもより音がこもっておるのが難儀じゃ。

 

 ……奴が動く音は聞こえんのう。姿を消すのであれば、音を消す術も心得ておるか。

 

 刹那、音の聞こえ方が変わった。右後ろ、5時の方向。

 儂が前転した後に何かが通り過ぎる音がする。その後も何度か攻撃を仕掛けられるが、同じように躱す。

 

 ここまで時間を稼げば、あ奴らは無事な所まで逃げおおせたじゃろう。しかし儂はどうかのう。

 

 心配したそばから、大きな音が目の前から聞こえた。そして目の前には曖昧な輪郭を叩きつけようとしている古龍。

 

 これじゃ。龍と戦う時はなまじ特異な能力に頼られるも、その身体能力を存分に振るわれる方が厄介。しかも半透明なせいで間合いを掴みづらいのう。

 

 大げさに飛びのいて避ける。しかし風圧に吹き飛ばされた。頭部を庇いながら地面を転がると、背中に硬い物が当たる。

 

 岩かと思い一息つけば、背中を押された。見れば、えすぴなすと呼ばれる奴が儂の背中を突いていた。

 

 そういえばこ奴が居たのう。にが虫を噛んだ時にこ奴を察知して、同じところを巡っておるのに気づいたのじゃが。もしかするとあの古龍は方向感覚を狂わせるような毒をつかうのやも。

 

 今はそんな事を考えても仕方ない。この場をどう切り抜けるか。音を頼りにできるとはいえ、姿が見えないのはあまりに辛い。全力で逃げるにしてもこの霧が厄介。

 しかし、三人と荷物を逃がすという役目は果たした。儂がどうなろうと問題は無い。

 

「無いのじゃが……。すまんのう、既に死兵の身とはいえ若人に責任を感じさせるような最後はできるだけ避けたいのじゃ」

 

 えすぴなすの前に立つ。古龍はすでに音を隠そうとしておらず、恵まれた体格と力の輪郭を隠しながらこちらに近付いてくる。

 

 古龍は恐らく後ろ足だけで立ち上がり、儂を押しつぶそうと構えた。儂は数歩だけ後ろに下がり、えすぴなすの頭部に寄り掛かる。

 

 えすぴなすは先と同じように頭を振って儂を追い返す。その反動を利用して古龍の懐を一気に駆け抜ける。

 そうなると古龍がのしかかるのは当然あ奴の上。

 

「擬態するのは得意でも、擬態されるのは苦手のようじゃの」

 

 地が揺れるのと同時に、何かが折れる鈍い音が響く。

 

「ビィィィイイィ!!!」

 

 身じろぎもせず草木に紛れる山が怒った。

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