吾輩は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の古龍を除かねばならぬと決意した。吾輩は、ただ寝ていただけである。地に寝そべり、甲虫を食んで暮らして来た。
けれども外敵は慮るという概念を知らぬ愚か者ばかり。あちらもこちらも滅ぼすに限る。
汚らわしい足を乗せている不遜な獣を跳ね飛ばす。そしてのしかかりで折られた頭の棘から濃毒血をまき散らしながら頭突き。
全裸で透明化して忍び寄り裸体を別種族に見せびらかす露出狂のクズはすぐに飛びのき霧の中で姿を消す。
露出狂の迷彩トリックは三段構え。霧と表皮の変色、そして五感を鈍らせる催眠ガス。
霧は冷気でも操る事ができればすぐに対処できたが、エスピナスの体ではどうしようもない。
催眠ガスはたしか神経毒だったはず。気合でどうにかなるものでは無いと思うが、試してみるだけ無料だ。
吾輩は地面に生えている草木を土ごと根こそぎ喰らう。そのまま頭を壁に打ち付けながら咀嚼。
痛みと苦みで目が覚めるかと思ったがそんな事はない。毒への対処は適切な解毒薬を飲むに限る。
……と思いきや、こちらに近付いてくる露出狂の輪郭を僅かに捉えることができた。
ウカムルバスのように下顎で地面を抉り食った中に、解毒に有効な成分を持った草でもあったのだろうか。
そのまま見えない間抜けのフリ。すると間抜けのフリに騙される間抜け露出狂の尻尾叩きつけ。
それにタイミングを合わせての胴回し尻尾ギロチン。見事、露出狂の頭部を破壊する。
「カァアアアァン!!」
露出狂は大声を上げながら逃げていった。排泄後に拭くこともされていない汚らしいケツに何発かブレスを吐きつける。惜しくも避けられ、仕留める事は叶わなかった。
しかし奴の頭部は周りの状況を認識し、円滑な透明化を図るためのセンサー。ここから先、奴は商売道具を失ったまま生きていくのだろう。
次第に霧が晴れていく。すると、やや遠くで狩猟笛を盾に縮こまっていたクソババアも視認できる。
「さ、流石なのじゃ~。油断していたとはいえ古龍を撃退するとは。お礼というには少ないが、生肉喰うか……のうッ!」
クソババアはひらひらと生肉をこちらに見せつけ、吾輩の背を越す放物線を描いて生肉を放り投げる。吾輩は飛び上がり、空中で生肉を咥えながらクソババアに飛び掛かる。
「”い、いんてりじぇんと”かつ”ぷりみてぃぶ”じゃぁああッ!!」
狩猟笛を吾輩にぶつけた反作用で逃れるクソババア。そのまま武器を納め、わき目もふらず全力で逃げていく。
すでに肉を丸のみしていた吾輩はクソババアの死角からブレスを放とうとするが、しばし待て。
こちらを一瞥もしないクソババアだが、ちかちかと手元が光る。鏡のようなものでこちらを観察しているのか。
下手なブレスは時間の無駄だ。吾輩は翼を一振り、脚を二振りで宙に舞う。そこからクソババアの進行方向に拡散ブレス。
息を止めようが体の穴という穴を塞ごうが、侵入すれば肌を焼き、そこから毒素に侵される麻痺毒煙幕。クソババアは当然そこを迂回……はしないだろう。
恐らくクソババアは状態異常、少なくとも麻痺を無効化する旋律を吹いているに違いない。それを良いことに煙幕に突入、吾輩の視線から逃れた隙に、茂みの生い茂る右方向に離脱。
などと考えていると、クソババアが読み通り煙幕に突入した。
吾輩は右を注視。狙い通りクソババアが煙幕から抜け出る僅かな煙の動きを捉える。そのまま翼を振り上げ、反作用と重力の力を借りて強襲。
その前に煙幕から飛び出て来た黄色の玉が爆ぜた。
あれは前世で遊園地でフリーフォールに乗った時だったか。時速100kmを越える速度で下に引っ張られた吾輩は一瞬で気を失い、目の前が白くなったのを覚えている。
その時に比類する速さで吾輩は白の世界にいざなわれた。直後に目の奥が痛む。閃光玉だろう。
視界というのは平衡感覚を保つのに重大な役割を持つ。目を閉じただけで片足立ちの難易度が劇的に上がるのが良い証拠。
つまり視界を封じられたまま空を飛ぶというのがどれほど難しい事か。バランスを崩して墜落するが、タダでは転ばない。
体を広げ、出来るだけ大きな面積を巻き込むように墜落。そこからもやたらめったらと尻尾を振り回して手当たり次第に攻撃する。
知恵比べで負けた分は体で取り戻す。尻尾を回しすぎてほぼドボルベルクになりかけていた時、何かが当たる手ごたえが。木とは違う、確かな生き物を叩く手ごたえ。
同時にバランスを崩し、回転しながら地面を滑る。目を開けるが、視界は白い。
まったりと寝そべっていると、次第に視力を取り戻す。辺りには人っ子一人いなかった。
すでに棘や甲殻から血の気は引いており、体は休憩モード。それでも疫病神が来ないように一仕事。
回転中にへし折った木を積み重ねて、荷車が来たルートと去ったルートを塞ぐ。
そして巣穴に戻り、寝そべる瞬間に思ふ。
……運搬クエストで急に道が塞がれるのはこういう理屈だったのだろうか。
しかし、ゲームではバカでかい岩が道を塞いでいたのを思い出す。そのサイズに見合うテツカブラを想像している内に眠りこけた。