キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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王都奪還編
序章


 

 紀元前245年 中華西方の国――『秦』。

 

 とある村に信という名前の少年が生まれたがしかし、彼は少しして戦争孤児となってしまった。

 

「……信、今日から儂がお前の面倒を見てやる。ただし、下僕としてお前はしっかり働くのだぞ。良いな」

 

「……分かりました……精一杯、働きますのでどうかよろしくお願いします旦那様」

 

「ああ」

 

 里典(集落の長)である男はその役目として信を下僕として引き取る。信はそれを受け入れつつ、頭を下げる。

 

「それとお前の前に漂という子がいる。丁度、同い年くらいでもあるし、その子に仕事を教わり、面倒を見てもらうのだ」

 

「はい」

 

 信は自分が生きるためには里典に面倒を見てもらわなければならないので受け入れた。元々、自分は何かを考えて動くより、誰かの指示に従い、こなすのが向いている性分だと理解している。

 

 そうして……。

 

 

 

「漂……今日から一緒に住む信だ。お前と同じ孤児だ。仕事を教えてやれ」

 

「分かりました……俺は漂だ。よろしくな信」

 

「ああ、よろしく漂」

 

 里典の家の外で仕事をしていた顔つきの良い自分と同じくらいの背丈の少年が握手を求めてきたので応じる。

 

 信と漂は納屋を部屋として借り、一緒に住むようになったが……。

 

「来いよ、信」

 

「おい」

 

 里典から頼まれた外への使いをこなす途中で信は漂に連れられる。

 

 

 

「信、お前運良く拾われたなんて思ってるかもしれないけど、甘いぜ。結局、俺も信も里典の家の下僕だ。奴隷と大差ない」

 

「そして下僕は大人になっても下僕。どこかの下僕の女と結婚して、その子供もやっぱり下僕になる」

 

「そういうもんだろ」

 

 漂は草原を歩きながら、語りつつ落ちている棒の一本を拾う。信は諦めに達観混じった声で言うが……。

 

「いいや、そうじゃない。そうじゃないんだよ信。剣だ」

 

 

 

「剣?」

 

 漂は棒の枝を折って信へと手渡しながら、堂々と告げる。

 

「ああ、俺達のいる『秦』は中華の中でも最も恩功制度の強い国だ。戦で武功をあげれば爵位を授かり、下僕から抜け出せる」

 

 漂は熱にも思える何かを放ちながら言い、それは信の身体の内を燃え上がらせていく。

 

「出来るのか……そんな事が?」

 

「出来るさ、俺とお前の二人の剣なら」

 

 初めて感じる熱に戸惑いながら、信は漂へと尋ねれば確信を持ったように漂は頷く。

 

 そうして、二人で下僕として里典に仕えながら、剣の鍛錬に励み始め……。

 

 

 

 

 

「なるぞ、信。俺たち二人で天下の大将軍に」

 

「俺に負け続けてるのにか?」

 

「剣も大事だが、将軍っていうのはそれだけじゃないんだよ」

 

 数百は超える程に手合わせをしている信と漂のそれは信が勝ち続けていた。信が言及すれば漂は苦笑しながら、答える。

 

「言ってる事が前と違うぞ……まあ、俺はお前より要領良くは無いからな」

 

「だろ、互いに足りないところを補えばだれにも負けない大将軍になれるから、それで良いんだ。大将軍が二人じゃ駄目なんて話も法も無い」

 

「そうだな、俺達らしいとも思う」

 

「じゃあ、決まりだな」

 

「ああ、なろう。大将軍に」

 

 そうして信と漂は二人で天下の大将軍になる事を誓い合う。

 

 十の年が過ぎたある日の事……。

 

 

 

 

「お前たち、見事な手合わせだった」

 

「……ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 手合わせをしていた信と漂は顔つきも雰囲気もなにもかもが高貴な士族に声をかけられ、頭を下げる。

 

 何のために手合わせをしていたのかと聞かれ……。

 

『俺達二人で中華全土に響き渡る天下の大将軍になるためっ!!』

 

「ははははっ、中々大した度胸と意思だな」

 

 素晴らしいと笑ってその士族らしい男は馬車に乗って去って行ったのだが……翌日、仕事から返ればその士族の男がいて、漂だけ里典と共に連れられ、そうして士族の男であり昌文君という王宮に侍る大臣から王宮で働くように言われる。

 

 

 

 

 漂は信も連れて行くように頼むが、それは断られた。一日返事で待つように言い……。

 

「行けよ、漂……大将軍になるための近道みたいなもんだ。だから、先に行け」

 

 信は夜中に手合わせした後、漂へ王宮へ行くよう勧めた。

 

「……だったら一度くらい、勝ちを譲ってくれよ」

 

「そういうのはお前は嫌だろ?」

 

「ああ、嫌だ……信、俺は行く。そして、お前が受け入れられやすいようにもしてやるからな。俺たち二人で大将軍になるために……」

 

「頼んだ」

 

 そうして、二人で抱擁を交わし……翌日、漂は王宮へ……。信は下僕としての生活を続けながらも時間の空きを見つけては日中に夜中でさえ剣の鍛錬に明け暮れた。

 

 一か月後のある日、王宮内で王弟による内紛が起きたと聞き……信は不安を覚えたがそれでも自分より、要領の良い漂ならば上手く対応出来ると思いつつ、不安を感じる己の心を抑えていたが……。

 

 納屋の外から、音がしたので開けて外を見れば……。

 

「漂……」

 

 漂が腹部から血を流した状態で倒れていた。

 

「ただいま……信」

 

「あぁ……お帰り」

 

 漂は喋るのもやっとといった状態ながらも笑みを浮かべる。そんな漂をもうすぐ、死ぬと判断しながら、穏やかに声をかける。

 

 少しでも楽になるようにゆっくり、体を抱え上げ仰向けにする。やはり、漂は重傷を負っていて助からなそうだった。

 

 

 

 

「っ、漂!? 信、何があったのだ!?」

 

 異様な雰囲気でも感じたのだろう、里典に妻と子供が現れ、異常な事態に驚愕する。

 

「……王宮で王弟の反乱があったと聞いている。それだな」

 

「王宮の事がお前の耳にまで入っていたか……なら、話は早いな。王弟の勢力は王都を転覆させるほど大きく強く、執念深い……血を辿って間もなく、ここへ来るだろう」

 

「なっ!?」

 

「里典、その時は見知らぬ人間が勝手に納屋で死んだという事に……どうか亡骸はそのままに」

 

「俺は何をすれば良い?」

 

「ここより西にある黒碑村へ、この地図に従って行ってくれ……託したぞ」

 

 漂は懐から紙きれ状の地図を信に渡す。

 

「分かった……漂、俺はなるぞ天下の大将軍に……」

 

「ああっ、勿論だ。俺達は一心同体だ、信……お前が羽ばたけば、俺もそこにいる。行こう、天下へ」

 

 信は漂を抱き締め、漂も弱弱しいながらに抱き締め返すとそう言い合い……漂は死んだ。

 

「信……一体、これはどういう事だ。王弟の反乱とはいったい、何の事だっ!?」

 

「決まってるだろ、王宮で内紛があったんだ……集落の方で噂になっていたぞ。思えば、漂が王宮に連れられたのも……」

 

 言いつつも漂が持っていた鞘に納められた剣を背負う。

 

 

 

 

「俺は行く、漂に託された事をしに……里典様、追手が来た時にもし勘づかれて尋ねられたら正直に行き先を教えて良いです……では、今までお世話になりましたっ!!」

 

 信はそういうと駆け出し、物盗りや人殺しが全土から流れてくる無法者たちの村である黒碑村へと向かっていく。

 

 そうして……。

 

「へへへ、良い剣背負ってんな」

 

 人相悪い者たちが武器を手に信の前へと姿を現す。

 

「退け、俺は急いでいるんだ。お前たちに構っている暇は無いんだぞ……それとも俺の憂さ晴らしに付き合ってくれるのか?」

 

『ひ、ひいいっ!!』

 

 男たちは信から放たれた今まで浴びた事の無い憎悪に怒りと殺意によって、慄き、地に尻もちをついて震え出す。

 

「それで良い」

 

 そうして、地図に従った信は川の合流地にあるほったて小屋に辿り着き、中へと入れば……。

 

「……漂は貴方の影武者に……」

 

 立派な衣装を着た漂の生き写しとも呼べる顔の男を見、すべて理解した。

 

 昌文君が何故、漂の顔を見て一瞬驚愕したのもそして、王宮に連れていった事も……。

 

 

 

「ああ、そうだ。私は政と言う」

 

「俺は信……漂の親友であり、義兄弟でもある者です。漂の死を無駄にしないために貴方の剣となる事をお許しください、王よ」

 

「聞いていた通り、中々に鋭いな……良いだろう、我が剣となる事を許す」

 

 そうして信は王だと直感した政に対し、漂の代わりを務めるために願い出て、政はそれを受け入れた。

 

「では、まず追手を始末します」

 

 そうして、外へ出れば……。

 

「……何者だ、ガキ?」

 

「お前が殺した男の親友であり、義兄弟だよ」

 

 信は背中から剣を抜きながら、剣を背負い、外套に身を包んだ者へ告げる。

 

 

 

「その剣……なるほどな。確かにあのガキは大したもんだった。致命傷を負いながらもこの俺から逃げ続けたのだからな……良いだろう、あのガキの後を追わせてやる」

 

 追手は背中から剣を抜きながらも信から放たれる圧に震え、警戒していた。

 

 

 

「俺の名は信だ」

 

「朱凶だ」

 

 二人は剣を構え合い……。

 

 

『勝負っ!!』

 

 そうして動き出し……次の瞬間、信は跳躍する事で朱凶へと勢い良く、かつ素早く迫っており……。

 

 

 

「はあああっ!!」

 

「がっ!? み、見事だ……」

 

 袈裟に振り下ろされた壮絶なる剣閃に朱凶は切り裂かれながら、信の武威を賞賛しつつ、地へと倒れ伏した。

 

「朱凶、この信が討ち取った」

 

「ああ、良くやった信」

 

 信の勝利宣言に政は王として讃えたのであった……。

 

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