『金安』から趙の王都圏にあり、邯鄲に近い場所にある『鄴』へと攻め入るために進路を変えた李信達、本軍の二十六万五千とは別に曹波広を総大将に秦の北東部軍十三万五千は趙西部攻略の前線基地と化した『黒羊丘』へと向かった。
しかし、実は趙西部攻略において秦が拠点として使えるのは『黒羊丘』だけでなく、『離眼城』もであり、更にはその周囲の城も紀彗の説得によって秦に降伏している。
よって、趙西部攻略において秦軍は結構な兵站を築けているのだ。
李牧は趙西部において秦軍の侵攻に対して広範囲に複数の城を築き、複雑な防衛網を構築しようとしていた。それは秦軍の力を消耗させるために長期戦へと持ち込もうとしたが故である。
だが、李牧が西の防衛に力を注いでいるのは趙の王都を守る自然の盾である『
しかし……。
「いくぞ、李信将軍に勝利を捧げるのだぁぁぁっ!!」
『うおおおおおおおっ!!』
「な、なんだこいつらっ!?」
趙西部攻略を開始した北東部軍は破竹の勢いで李牧が築いた防衛線を破壊していく。
それは李信が北東部軍へと授けた軍略に基づいて動いている事、数多くの攻城兵器と飛信隊における攻城兵が多く北東部軍に属しているのもある。
しかし、一番大きい要因と言えば……。
『(今こそ恩をっ!!)』
実は北東部軍の中にはかつて秦の大后に嫪毐が起こそうとしていた『毐国』による反乱に無理やり加担させられそうになり、李信が機先を制した立ち回りをしなければ反乱者として一族代々に渡るまでの罪人になるところであったのを救われた者も多く、そうした者達は李信へと恩を返すべく戦意も士気も凄まじく高いし、この侵攻前の飛信隊による訓練においても声をかけられ、西部攻略を頼まれているのでやはり、戦意に士気は高いのだ。
こうして、次々に趙の防衛線を破壊していき、必然的に『太行山脈』から援軍を送らねばならない状況になっていくも北東部軍の勢いに圧され続けていくのみであり、『太行山脈』へと近づかれていってしまうのであった……。
二
鄴へと攻め入るための李信率いる本軍二十六万五千は趙王都圏の入り口で国門となる『列尾』を半日足らずで陥落させた。しかし、それは……。
「
今は全軍列尾の中で休んでいる秦軍だが、李信は副将である王翦に楊端和と桓騎、王賁に蒙恬とこの軍の将たちを集めていた。
因みに軍の構成としては李信率いるのが六万五千、王翦が七万、楊端和が五万、桓騎が六万、王賁と蒙恬が一万ずつというものである。
「李牧の考えとしては俺達が列尾を抜いて王都圏に侵入したとき、太行山脈に伏せてある軍を南下させ再び列尾を奪い返し、出口を塞ぐ事で脱出口と補給線の両方を失った俺達を王都圏の各軍でゆっくり包囲殲滅しようという考えだったようだ。これについてはもう手を打ったがな」
列尾の現状を言いながら、李信は李牧の考えを話す。
そして……。
「まず、兵站についてだがこの列尾をそれにせずとも『什虎』から『黄河』を使う手もある。そして太行山脈の軍についてだが、別軍の曹波広将軍たちは良くやってくれているようで趙西部の攻略を進めている。つまり、列尾を奪い返せる余裕がなくなっている。だから、列尾での企みは打ち砕いたから安心して此処を補給線として使えるから安心してほしい」
「はは、流石李信だよ。抜かりが無いね」
「ああ、頼りになる大将軍様だ」
「お見事……」
「頼もしいにも程がある」
「……」
李信の言葉に蒙恬は驚きながらも次には笑みを浮かべ、桓騎はそれでこそとばかりに笑い、王翦は無表情のようでいてしっかりと敬意を込めていた。楊端和も李信に改めて惚れ直しながら言い、王賁は複雑な表情だった。
「そして、これからの事だが楊端和将軍にはここから太行山脈一帯の勢力を纏める『
「勿論、軍略は考えているのだろう?」
「ああ、大前提としては太行山脈一帯からの兵を止める事で趙西部攻略の軍の侵攻を助け、最終的には合流する事だ。そうすれば此処とも兵站が繋がり、一気に戦力を増して攻略できるようになるからな。詳しい話は後でな」
「ああ、承知した」
楊端和との話を終え……。
「残りの俺達は勿論、鄴攻略を目指す。だが、鄴はかなりの城らしくて普通に攻めるのは困難との事だ。だから……」
李信は王都圏の地図を広げつつ……。
「鄴までの間には八つの城と一つの小都市があるんだが、そこへ足並みを揃えて西から順に陥落させ、兵糧を全て奪って民たちを東の鄴へと追いやる」
「民を使った鄴への兵糧攻めか……」
『っ!?』
「ははは、民を城を落とすための武器にするのか……随分と大人になったな、李信」
李信の説明に王翦が感心したように意図を察し、それに王賁と蒙恬が驚き、桓騎は愉し気な笑みを浮かべた。
「どうも……ただ、この策には桓騎軍の協力が必要不可欠だ。財宝の略奪は許すので食糧を探す事と民への凌辱や殺戮を禁止という事で説得出来るか?」
「安心しろ、俺の兵は皆、お前の事を気に入っている」
「なら、良かった。そして王翦将軍、付け加えるなら兵糧攻めは副次的な物だ。本来の目的は俺の軍の優秀な工作部隊を潜入させる事。そうすれば十日ぐらいで城内を混乱させ、城門を開く事が出来る」
李信は王翦へと鄴についての事を言い……。
「鄴を解放しようとする王都圏における複数の各軍に対しては王翦将軍の七万で対応をお願いする。工作部隊が城を開けるまでの間だ」
「心得た」
李信の指示に王翦は頷く。
「俺と桓騎将軍、蒙恬将軍と王賁将軍は鄴を一撃で解放する力を持つ王都圏北西に鍵をかける『
『応っ!!』
そうして、李信達は軍議を終了し……。
「ハダマ殿、コダマさん……大事な話を」
「うむ、良いぞ。李信将軍は話しやすいからな」
「李信将軍は中々、良い頭してますからね」
山界の賢者で幾多もの目玉が付いた仮面を被った『
『百眼族』のハダマ達は楊端和の影の参謀として戦略と戦術を練って授ける事で支えている。楊端和は彼らが狙われないように存在を自分の部下たちにさえ徹底的に隠しているが夫である李信にだけは打ち明けているのだった……。
三
趙の東部へと攻め入り、趙西部を攻めている秦軍と合わせるように東の防衛線を次々と破壊している燕の大将軍であるオルドは王都に近い場所まで攻めていたが……。
「ふっ、やはり出てきたか……さあ、今度こそ屠ってやるぞ
オルドは燕との戦にて何度も自軍を追い詰めてきた将軍であり、その功績から邯鄲での守護を務めるようになった事で『邯鄲の守護神』と呼ばれるようになった燕国の宿敵とも呼べる扈輒との戦いに胸を震わせながら挑もうとするのであった……。