キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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百話

 

 趙王都圏の入り口にして国門である『列尾』を攻略した秦軍。

 

 夜が明けると李信は五万を率いている楊端和に飛信隊から二千の兵と八千の兵を率いている壁将軍を援軍として加えさせ、『太行山脈』一帯の勢力を纏める『橑陽』を攻めに行かせたのである。

 

 そして、李信は更に飛信隊から一万の兵を『列尾』の守りに回すと進軍し、鄴の途中にある小城の『吾多(ごた)』、『丁城(ていじょう)』、『辛城(しんじょう)』、『干城(かんじょう)』、『山旦城(さんたんじょう)』、『赤城(せきじょう)』、『平城(へいじょう)』、『石城(せきじょう)』、『許城(きょじょう)』という鄴付近にある計九つの中・小の都市を李信、王翦、桓騎、蒙恬と王賁の二つの軍という四軍に展開しながら進軍させて攻略させ、食糧を全部奪わせて都市を守っていた兵に都市内の民を難民にさせる事で東へと追いやった。

 

 

 

「鄴攻略はお前達にかかっている。苦労させるが、よろしく頼むぞ燕呈」

 

「はっ、必ずややり遂げてみせましょう」

 

 そしてその難民の中に飛信隊にて工作に情報収集や場合によれば暗殺を務める部隊を率いる燕呈と精鋭の数十人を紛れ込ませたのであった。

 

 李信達は難民が全員、趙国第二都市である鄴へと向かい、入っていく様子を斥候にて探り、難民全員が入ろうというところで鄴に進軍を開始。

 

 これにより、鄴は難民全員(飛信隊の工作部隊も)を城内へと入れながら、城門を閉じて籠城を始めた。

 

 

 

「こうしてみると本当に完璧な城だな、鄴は……俺が持つ攻城兵器と攻城部隊を使えば落とせない事は無いが、それでも結構かかってしまう」

 

「確かに……あれは本当に落とすのは困難だ」

 

 李信達は軍を展開して城を包囲しつつ、鄴の巨大な望楼や城門に城壁、堀などを見ながら評価をするし圧倒される兵たちもいた。

 

「だから、普通じゃない方法をとった……鄴の城主である趙季伯(ちょうきはく)は善君で民を大事にする者だと聞いていた。難民を絶対に見捨てはしないと思ったから難民を使った策を使ったんだ。まさか全員を受け入れるとは思わなかったが……」

 

 確かに李信は民を難民にし、鄴へと入れさせる事での『兵糧攻め』を目的とした策を行った。だが、一番の目的は飛信隊の工作部隊を潜入させる事で中から鄴を搔き乱しつつ、城を開けさせる事である。

 

 

 

 とりあえず、難民を少人数でも受け入れさせれば良かったし、九つの城の難民全てを受け入れる程の善君とは思わなかったのである

 

 

 

「正しく運をも掴んでみせたという事でしょう」

 

「ああ、そうだな……じゃあ、後は手筈通りによろしくお願いするぞ、王翦将軍。武運を」

 

「そちらこそ、武運を。李信将軍」

 

 王翦に鄴の包囲に鄴を解放しに王都圏から続々と来るだろう趙軍の対応を任せると李信に桓騎、王賁に蒙恬を率いて鄴を解放しにくる王都圏の軍の中で一番強大な戦力を有する『閼与』軍の対応をするために進軍したのであった。

 

 

 

 こうした李信達の動きは全力で駆けに駆けて、邯鄲へと向かっている李牧たちにも伝わっており……。

 

「くうっ……こ、こんな手を使おうとは……李信将軍、どこまで……」

 

 李牧は李信による凄まじい軍略に追い詰められていた。

 

 趙西部の防衛線を次々に突破し、『太行山脈』へと迫っている秦軍の別動隊の存在だけでもかなり脅威なのに『太行山脈』を纏める『橑陽』へと山の民の王だという楊端和を向かわせる事で『太行山脈』から趙西部への防衛を止めさせる事で趙西部の攻略を速くさせ、合流させる事で『橑陽』を陥落させようとしている。

 

 更に鄴に対して九つの都市の難民を受け入れさせる事での『兵糧攻め』もこちらから判断力を奪うのも含めて驚異的な策である。

 

 

 

「一刻も早く、邯鄲に向かわねば……)」

 

 李牧にとって痛手となったのは『列尾』の罠に対しての狙いをどっちの方面でも完全に対策されてしまった事にやはり、大軍を別々に行動させる事でまんまと攪乱させられてしまい、後手を踏まされ、出遅れてしまった事だ。

 

「(だが、『橑陽』も『鄴』も私が邯鄲に着く時までは持つ筈……)」

 

『橑陽』には実は隠されし事があり、それは大いに秦軍を苦戦させるだろうと思っているし、幾ら九つの都市の難民を抱えようとある程度は持つと考え、まだ時間的に猶予はあると李牧は考えていた。

 

 

 

 しかし、李牧は自分が考えるよりも時間的猶予が無い事を知らなかった。

 

 まず一つは李信が難民を使った『兵糧攻め』は自軍の精鋭の『工作部隊』を潜入させる事であるという点。

 

 そして、もう一つは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『橑陽』は確かに趙の領土であるがその実情はかなり特殊である。

 

 趙軍においての『橑陽軍』とは実はあくまで周囲一帯の城々から集められた軍という事になる。

 

 ならば『橑陽城』はどうかというと……その中には趙人とは異なる人種の人間が巣くっている。

 

 『橑陽城』はかつて、(しゅう)王朝をその手で滅ぼした大騎馬民族にして大犬戎(けんじゅう)族の末裔に占拠されているのだ。

 

 趙は犬戎族を取り込むために『橑陽城』を与えたという面もあるが、橑陽は犬戎の自治権があって趙にとっては治外法権の領域である。

 

 そのため、趙の要人ですらも李牧以外は近づかない。無断で入ろうものなら殺されるからだ。

 

 しかし、李信はこうした事情を飛信隊の諜報部隊の犠牲を出しながらの活動によって知ったし、それに山と一体化して砦となっている『橑陽城』の地形などもある程度把握していた。

 

 楊端和軍は援軍も得ながら、この『橑陽城』へと侵攻し中々の戦闘能力である以上に王であるロゾとその幹部たちは兵や幹部となる者の家族を人質に取る事で無理やり死を恐れない狂暴な兵に仕立てている事や更には部下の命を何とも思わない味方を巻き添えとした悪辣な策略を用いるので苦戦していた。

 

「ふっ、当たりだ李信将軍……それにしても本当に恐ろしいお方だ」

 

 しかして、この戦闘前に壁の軍に加わっている那貴は李信から一つ、探る様にと言われた事があるので実行していた。

 

 それは森林の中に隠されているだろう橑陽城からの『脱出口』を見つける事。

 

 幾ら治外法権で『橑陽城』は趙人でさえ、近づかない領域になっているとはいっても趙がその気になれば、滅ぼせる戦力差ではある。

 

 だからこそ犬戎族は森林の中に脱出口を作っていると李信は読んだ。そして、野盗のためにこうした事に勘が働くだろう那貴に探すよう言ってみたのである。

 

 

 見つからなければ、橑陽を抑える事で趙西部を攻略する北東部軍と合流して攻めれば良いのだから……。

 

 そうして、那貴は見事に『橑陽城』の脱出口にして侵入口を見つけた。こうした事を読んだ李信の戦略眼であり、戦術眼に畏敬の念を抱きながら……。

 

 

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