『燕』の大将軍であるオルドが率いる『燕軍』は趙東部の防衛戦を突破し、これ以上突破されれば致命的になるという段階で『邯鄲の守護神』であり、かつては燕との戦にて武勇を示し、燕国の脅威となり続けている扈輒軍と激戦を繰り広げていた。
「流石に手強いな……防衛戦もだいぶ崩したし、劇辛を討った事と合従軍で秦に痛手を負う羽目になった落とし前としては十分だ。退くぞ」
オルドはなにやら扈輒がこちらに大打撃を与えようとしているのを感じ取った事と十分に防衛線を崩した事から一度、撤退する事に決めた。
「それにしても李信め……この俺を利用してみせるか。『青歌』の事や司馬尚の事を知っていた事といい、趙軍を大きく翻弄している事といい、中々に恐ろしい男だ」
自分が東部の防衛戦を突破している間に李信が列尾を抜けて鄴へと向かう軍と趙西部を攻略する軍に分かれて行動する事により、大きく趙軍に後手を踏ませている李信に対し、賞賛しながら笑みを浮かべるのであった……。
二
オルドが燕への撤退を開始している中……李信は鄴周辺の九つの中・小都市を陥落させて難民としながら、鄴へと向かわせた。そうして鄴に受け入れさせながらその難民の中に飛信隊の工作に諜報などと言ったいわゆる裏の活動をしている部隊の精鋭、数十人を紛れ込ませた。
主目的は勿論、城内に侵入させた部隊に鄴を解放する事であり、副次的な物としては『兵糧攻め』である。
こうして、李信は鄴に対して難民を受け入れさせつつ、籠城させると鄴解放のために王都圏周辺から攻めて来るだろう軍の相手を王翦に任せ、自分と桓騎に王賁と蒙恬の軍で楊端和に任せている『橑陽』に並ぶ大都市である『閼与』の軍を抑えるために進軍を開始した。
「秦の獣共から即刻、鄴を解放するぞぉぉぉぉぉっ!!」
『おおおおッ!!』
鄴へと秦軍が迫り、包囲を始めたのを知った『閼与』軍はすぐさま鄴を解放するために大軍を率いて進軍を開始するも……。
「そりゃ、来るよな」
『っ!?』
李信達は『閼与』から鄴へと向かう進路を踏まえて迎え撃ちやすい地にそれぞれ『飛信隊』、『桓騎軍』、『王賁・蒙恬軍』の軍として布陣させ、そうして迎え撃ち始めた。
「ルアアアッ!!」
『ば、化け物ッ!?』
鄴へと向かおうとした閼与軍は初戦、李信と彼の麾下千人の騎馬隊の中でも精鋭の数百人、羌瘣に『離眼』の紀彗、桓騎軍や『王賁・蒙恬軍』の騎馬隊を率いる者とその兵から少数精鋭で構成された騎馬隊による奇襲を仕掛けて大きく勢いを蹴散らしながら、蹂躙を始める。
やはり、凄まじいのは一つの巨大な獣の如く暴れる李信とその麾下の騎馬隊による武威だ。これによって大きく蹂躙されてしまうのだから……。
「くう、て、撤退、撤退だぁぁっ!!」
そうして、『閼与軍』は一度大きく後退して体勢を立て直さなければならない羽目になるのであった。
「後はしっかり、構えるだけだな」
李信は撤退する『閼与』軍に追撃を仕掛けつつ、ある程度のところで切り上げ、撤退を指示したのであった……。
三
李牧達は数日かけて『邯鄲』へと戻り、そうして『邯鄲』にて待機していた
そして、それとは別に自身の副官の一人で白い髪の若い男である『
しかし……。
「………………は?」
舜水樹が『橑陽城』付近に到着し、様子を見れば『秦』の旗が立っており、必然的に『橑陽』が落ちた事を悟らざるを得なかった。
そう、『橑陽城』は楊端和軍によって陥落した。
城付近にある中で一番大きなラゴの森に用意されていた脱出口にして地下道を使われたからだ。
まず、楊端和軍は朝からロゾ王と交戦しながら、少数精鋭で地下道から城へと襲撃する別動隊を放った。
そうして別動隊は城の中にいたロゾ王たちに人質にされていた者達を解放し、そうして大きく外へもそれを広めた。
楊端和も自分に降伏するなら、解放者になるとロゾ王たちに圧政を強いられていた者達へと告げた事で戦況は激変。
恐怖で抑えつけられていた犬戎族の多くがロゾにゴバ、ブネン、トアクの三兄弟に反旗を翻したのだ。
因みに味方を犠牲にする戦法を好んで使っていたブネンは死んでも尚、犬戎族の兵たちにその亡骸を蹂躙さえされた。
ロゾ王は楊端和が討ち取り、そうして楊端和達は犠牲も少なく、更には犬戎族の軍勢さえ加えたのである。更に太行山脈から兵が出されなくなった事で趙西部を攻略し、続々と太行山脈を突破する曹波広率いる別動隊と合流しつつ、兵站を『列尾』とも繋げ始めたのだ。
「それで、後は鄴へ向かうのですかな?」
「いや、我らが向かうのは……」
曹波広が尋ねると楊端和は別動隊となっていた北東部軍と合流した際に李信に指示されていた事を実行しようとするのであった……。