李信は鄴が陥落するまでの間、王翦に鄴の包囲とその間に鄴を解放しに群がり、襲撃を仕掛けてくる王都圏の相手を任せた。
そして、自身は桓騎と王賁・蒙恬軍を率いて王都圏の中でも大軍勢を率いる事が出来る大都市である『閼与』の軍勢の相手をしにいった。
またもう一つ、『太行山脈』周囲の勢力を率いる『橑陽』もいるがそっちは楊端和、それに趙西部を攻略するだろう曹波広率いる北東部軍に任せている。
そうして、目的通りに『閼与』の軍勢を待ち伏せつつ、襲撃する事でその勢いを削ぎながら、敗退へと追い込んだ。
そんな中……。
「やってくれたか」
楊端和達からの連絡が来た。無論、『橑陽』を陥落させた事と更に『橑陽』を支配していた大騎馬民族の犬戎族を取り込んだという連絡が来たのだ。
「これで更に奴らを追い込めるな」
楊端和達には『橑陽』を取った後の行動も楊端和が束ねている山界の隠れし参謀となっている百眼族の長、ハダマ達と軍議をして決めており、それは確実に『趙国』を追い詰める手である。
何故なら、李信達が引き続き『閼与』の軍勢、それに恐らくは今の状況から考えて趙北部の軍も来るだろうがそれらの相手をする間に楊端和たちに『橑陽』と更にその近くにある山脈を占拠させる事で北部軍の動きを封じつつ、閼与軍と言うよりはもうじきやって来ると聞いている李牧たちを包囲しながら追い詰めて、可能ならば殲滅する事である。
「しかし、今回は総大将だから色々と軍略も巡らせたが……結局は一番前で暴れようとする事、暴れるのが一番、血が滾るし充実感を覚えるんだから俺は単純だな」
「……でも、信はそう戦うのが一番似合うよ。今までそうしてきたんだし」
「ああ、むしろお前が戦場で暴れないと私達は調子も狂う」
李信は自分の性質を自嘲する。そして、これより李信は総大将でありながらも先鋒にて武威を振るおうとしていた。
そんな李信の自嘲に河了貂も羌瘣も戦場で戦う事こそが一番だと伝えた。
「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃあ貂、陣頭指揮は任せる」
「うん」
李信は貂に言いながら兜を被り、そうして愛馬である『紅飛』の上に乗る。
「出陣だ、総員配置に付け」
『はっ!!』
李信が動くのに続いて副官である羌瘣が『飛信隊』に指示を出すと皆がそれに応じる。
「紀彗、お前にとってはまた複雑な心境になる相手だろうが、よろしく頼むぞ」
「私はもう、『飛信隊』の将です。力の限りを尽くして敵軍と戦う事を誓いましょう」
「ああ」
一度、傍に来た『離眼軍』を率いている紀彗に声をかけると誓いを述べながら、頭を下げる。
そうして、李牧軍が五万を率いて向かっているというところへと進軍しながら、桓騎軍たち含めて予め決めていた陣形になっていく。
陣形の役割としては先鋒となっている李信達、『飛信隊』が敵を突き崩しながら、桓騎軍たちが更に包囲するようにして殲滅していくというものである。
対して李牧軍は……。
「まあ、そうせざるをえないよなぁ。お前達が窮地を脱するためには取るべき手だ」
苛烈なる覇気を有する猛将たちを先陣に用意しつつ、集めた攻撃的な陣形である。
無論、それはこの軍の総大将である李信が先鋒に出ているからだ。李信を屠りさえすれば『秦軍』の勢力も士気も大きく落ちるし、一番厄介な存在を潰せるのだから……。
「だが、逆に言えばお前たちにとって優秀な武将を潰せる可能性も出てくる」
李信にとってはこれは趙軍の猛将たちを出させるための誘いでもある。その猛将たちを屠れば趙軍の武力は落ちるのだから……。
そうして、戦場にて距離を取りながら秦軍と趙軍は睨み合うように対峙し……。
「聞けぇっ、秦の武人どもよっ!! あれに見える軍勢こそ趙の三大天最強と呼ばれる李牧の軍だ」
李信は先鋒にて矛を趙軍へと向けながら、檄を飛ばし始める。
「李牧はどうやら自信が溢れているらしい。これは大王様より聞いた事だが、李牧は咸陽に密かにやって来て、こう言ったそうだ。『自分がいる限り、秦は趙を討つ事はかなわぬ』と、『秦の将全員が纏めてかかってきてもこの李牧の相手ではない』と!! これ程に侮辱的な挑発があろうかぁっ!!」
『おおおおおっ!!』
李信は趙へと攻める前に嬴政から聞かされた話を皆に聞かせる。実際は『斉』の王もいたりしたそうだが、ともかく李牧は嬴政に向かって、天下統一を止めるように言ったり、七国同盟をするように言ったり、そうして今、李信が言ったように挑発までしたのだそうだ。
李信はこれに対し、切れていた。自分の尊敬する武将たちを侮辱してきたのだから当然である。
「(李牧、お前は言ってはならんことを言ったぞ。秦の『武』全てを侮辱したその罪、許されないと知れ)」
その怒りの決意のままに軍略を練って、繰り出す事で李牧を追い詰め、苦しめているのだ。
「侮辱された以上は李牧へ、趙へ思い知らせてやろうじゃないかっ。我が国の武というものをっ、その強大さを……良いかぁっ!!」
『うおおおおおおおおおおおっ!!』
李信の言葉に全軍が咆哮したっ!!
「全軍、突撃だぁぁぁぁっ!!」
そうして李信が先に駆けつつ、号令を出せば皆が一斉に駆けだした。
それに対し趙軍も突撃を開始し……。
「ぬううんっ!!」
「はあああっ!!」
「ふんっ!!」
「おおおおっ!!」
李信に対し、李牧の副官の一人で勇猛でありながら知略も有している老将の男である
四人の猛将に襲撃された李信であるが……。
「ルアアアっ!!」
『なっ!?』
壮絶にして絶大な矛の一閃が馬南慈達の攻撃を押し返した。
「ふっ!!」
「ごっ!?」
そうして李信は刹那次に岳嬰へと一閃を振るい、袈裟状に切断する。
「ふしっ!!」
『ぐっ!?』
すかさず矛を旋風の如く、振り回すようにして岳嬰を討った隙を衝こうと動いた尭雲と趙峩龍の攻撃を弾き返す。
「ぬおおおっ!!」
「ルアアッ!!」
突撃しながら矛を振るう馬南慈に対し、李信も壮絶なる一閃を繰り出し……。
「うぬおあああっ!!」
馬南慈の一閃ごと彼の身を深々と切り裂きながら、馬上より大きく吹っ飛ばした。
「正に鬼神の如くだな……それに……」
「ああ、主の言う通りだ」
尭雲と趙峩龍、二人の主である藺相如はいつもではないが時折、予知夢を見る事が出来、予言を二人に残していた。
『鮮血の如く赤く、化け物のような馬に乗った鬼神が現れ、趙を滅ぼしに来る』とそれに対抗するため、尭雲と趙峩龍は主亡き後も生き続け、激しい鍛錬をする事で鍛えてきた。
だが、李信も自分の武に慢心も過信もする事無く、たとえ短い時間でも激しく過酷な鍛錬をする時間を設けて励んでいるし、『什虎』にいるときは蒙武、王騎に騰、麃公らなど強大な武を持つ者と幾度も手合わせをしてやはり、激しく鍛えてきたのだ。
「来い」
『いくぞおおおぉぉぉぉぉぉっ!!』
李信が矛を構えて誘えば、尭雲と趙峩龍は突撃を開始し……そうして激しく壮絶な武の一閃による舞いが、激突に応酬が始まり……。
「力、及ばずか……」
「見事……」
「お前達もな」
そうして数合の剣戟が繰り広げられると趙峩龍に尭雲はそれぞれ、李信の絶撃によって討ち取られたのであった。
「良し、徹底的に殲滅するぞぉっ!!」
『はっ!!』
趙の猛将を蹴散らした李信は麾下一千の騎馬隊に指示を出しながら動き、麾下の騎馬隊と一つの巨大な獣の如く駆け始めると趙軍を次々に蹂躙していく。
更に飛信隊の他の部隊に桓騎、王賁と蒙恬の軍が大きく包囲するように趙軍を襲っていき、徹底的に蹂躙していった。
「……李信の武がこれほどとは……く……」
岳嬰に尭雲、趙峩龍は討たれ、馬南慈も生きてはいるがかなりの重傷を負わされており、軍としても全滅に近い状態に追いやられた事で李牧は打ちひしがれるのであった……。