李信はある程度の軍勢を引き連れて現れた李牧軍に対し、総大将である自ら先鋒となって進軍した。これは李牧軍の攻撃を誘う物であり、自分に対し猛将たちを差し向ける手であった。
本来ならば自殺行為としかいえない手だが、李信の武はこの大陸の中でも超越したものである。その武で趙の猛将たちを倒しその戦力と戦意を削るための手であった。
こうして李信は実際に自分の目的通りに趙の猛将四人のうち、一人は重傷によってしばらく戦闘不能とし、残りは全て討ち取った。
また、それはそれとして飛信隊の部隊に桓騎に王賁と蒙恬軍には趙軍を包囲するように布陣させたので趙軍は大軍に包囲されながら討ち取られていき、多くの兵を失い、壊滅に近い状態となったのである。
だが、これだけには終わらない。
李信はオルドの動きもちゃんと情報収集しており、そうしてオルドの相手をしたという扈輒大将軍が率いる東部軍が李牧の援軍として向かってきているのも知っていた。
なので数万ほどその妨害と待ち伏せ攻撃へと向かわせた。
更に『橑陽』を陥落させた楊端和軍は李信が李牧軍を敗退させ、陣に帰っている間に『閼与』を陥落させており、今、李僕の援軍として向かってきている北部軍を襲撃したりしつつ、李牧軍へも迫る事で圧力をかけ始めていた。
「それじゃあ、向かうか」
李牧を詰ませながら、李信は一人で駆けていき……李牧軍の陣から少し離れた場所で待機する。
「流石の胆力ですね、一人で来るとは……まあ、馬南慈達数人を一度に相手して倒せる超絶した武勇を持つなら当然ですが」
李信の意図を察した李牧は一人で近づいてきた。とは言っても距離は大分離れているが……。
「お褒め頂きどうも。趙の三大天である李牧殿……改めて俺は秦の大将軍の一人、李信です。こうして会うのは初めてですね」
「ええ、ずっと貴方とは直接話したいと思っていました」
「俺もですよ……もっとも分かっているだろうが、貴方は詰みだ。李牧殿」
「でしょうね」
李牧は自分たちの状況をしっかり把握していた。
扈輒が引き連れる援軍の妨害とかなりの傷を負いながらもやってきた舜水樹から楊端和軍が『橑陽』を陥落させ、『橑陽』を占拠していた犬戎族を取り込んだ事に自分たちが李信と戦っている間に『閼与』を陥落させ、趙北部軍の援軍を妨害しながら自分たちを包囲している事もだ。
自分たちはどうしようもない状況にある事を悟っていた。
「ですが、私達は貴方たち、侵略者である『秦』には屈しません。最後の最後まで戦います。その結果、死んだとしてもっ!!」
「六国による合従軍で俺達を潰そうとした者が良く言ったものだ」
「それはそもそも、秦が六国を滅ぼそうとしているからでしょう」
「まあ、滅ぼす前に滅ぼすってのは有効な手だ……ですが李牧殿、貴方は自分こそが正しいと思っていますね。だから、自分が人を導いてやるという意識がある。その意識と態度……今の趙王を見下している事でしょう」
「っ!?」
李信は李牧の態度から色々察して告げた。
「貴方は暗愚や奸臣と言ったものを言葉では適当にしながらも内心では見切りをつけたり、見限っている男だ。上手く歩み寄る事すらしない。案外、歩み寄れば良い結果を出せる事もあるだろうに」
「何が言いたいのですか?」
「貴方は無意識に自分が相手より上だと意識しているという事ですよ。そして人間不信だ。人を信じ切ってはいない」
「そんな事はありませんが」
「じゃあ、列尾のあれはどういう事だ。何で列尾を守る者達に敢えて欠点だらけにしている事を伝えなかった? それを踏まえていればもっと上手い誘い方をしたりもしただろうに」
「……」
「貴方は軍師として犠牲を当たり前だと思っている。俺が言える事じゃないが、軍師なら可能な限り、犠牲を少なくする努力をするべきじゃないか?」
「……我が国と他の国を侵略しようとしている貴方達に言われるとは……」
李牧は李信に対し、意見を言いながらも苦々しい表情を浮かべていた。
「ともかく、これ以上は止したらどうだ? 降伏しろとも言わん……邯鄲に戻って再起を図るんだな。じゃないと犬死だぞ。少しだけ待ってやるから考えるんだな」
「……」
李信は李牧へ言うと秦軍の陣へと戻っていった。
そうして、自軍に帰った李牧であるが……。
「李牧様……今すぐ王都邯鄲へご同行願います」
王都邯鄲より
「(国門である列尾を弱くしたのは間違いだったな)」
この事もまた李信による策略である。
「(さて、どう転ぶかな……どう転んでも趙は荒れるがな)」
どう転んでも趙国内が荒れてゆく手を李信は打ったのであった……。