李信は鄴方面から、趙の王都である邯鄲周囲にある『
「守護神だけあって、大したもんだな。扈輒大将軍」
李信は扈輒による防衛網としての布陣の様子を見て中々に強固だと評する。下手に攻め込めば大きな犠牲を出すと思わせる程の物だったのだ。
もっとも本格的に攻めるのは趙王都で起こっている李牧関連の動きを見てからだし、強引に攻め込んで追い込めば、李牧を解放したりするかもしれない。
今は次への侵攻の準備と地盤固めをするべき時である。
だからこそ、閼与方面では趙の北部に対して邯鄲の援軍として動けないように前線を敷いて、こちらも威圧をかけている。
その上で他には農民の兵からなる『屯田兵』――戦地にて食糧を自給自足するための兵を使って田畑を耕したりもし始める。
そうした準備をしていく中で更に李信は……。
「此処が『
「ええ、青歌の城主である司馬尚殿の力量を感じますな」
旅の商隊を装って閼与から山を抜けた先にある趙の中都市の一つ、『青歌』へと紀彗を連れて小部隊で李信はやってきていた。
この『青歌』は李牧が三大天の一人に推挙したほどの傑物、司馬尚が治めている都市である。
生活のままならぬ難民、流民で作られた都市で自治国家の体を取る程の国力を有する程になっていた。その都市内の様子を見て司馬尚の実力を李信達は把握する。
そんな傑物の司馬尚は趙王を嫌い、我関せずを貫いているし李牧による三大天の推挙も病気の身だとして嫌っているのだ。
「なあ、司馬尚様はどういうお人だ?」
「とっても偉大な人だよ」
青歌の人に尋ねてみれば、誰もが司馬尚と彼に仕える武将たちを褒めたたえた。それに旅の者にも偉大さを知ってもらうと熱を上げて語る。
「(良し……)」
『青歌』の様子と司馬尚達の人となりを把握した李信は……。
「我が名は秦の大将軍、李信……司馬尚殿に話があって来た、これは献上品だ」
堂々と司馬尚の城に対して告げながら、全員に武装解除を命じ、持ってきた金品に物資などを献上する事を言いながら、その後については『青歌』に任せるようにする。
そうして……。
「私が司馬尚だ……秦の大将軍、李信……話とはなんだ?」
髪を二つに分けて結び、後ろ髪は巻き髪にしている大男である司馬尚が李信達へ問いかける。
司馬尚の傍には髪を三つに分けて結んでいる美しい容姿の男であるカン・サロと筋骨逞しい大男のジ・アガもいた。
「まずは即処断なんて事をしなかった事、大変感謝します。司馬尚殿」
「貴殿は礼を尽くし、武装も解除してこちらの指示に従った。ならばこちらも礼を尽くすまで」
李信が頭を下げると司馬尚はそう返す。
「話ですが、この『青歌』と友好的関係を結びたいと思っています」
李信は友好的関係を結びたい事を伝えた。
まず、秦は『青歌』の自治権を趙を攻め落とした場合でも認める事、そもそも青歌には不可侵とする事、他の国が青歌を攻めた際に秦は積極的に助ける事……『青歌』にとってはとんでもない好条件を出したうえで国交を結ぼうと持ち掛けたのだ。
「もし、貴殿の要求を呑むとして見返りは?」
「趙の戦に今後も干渉しない事、それさえ守っていただければ」
李信は一つの条件だけを出した。趙との戦に参戦しないという事だけを……。
「無論、後でしっかりした書状を秦王に頼んで出させてもらいます」
「司馬尚殿、私も李信殿に似たような条件を出されて受け入れた身ですが、李信殿は誓いを守るお方です」
李信の言葉に続いて紀彗も李信が誓いを守る男だと保証していく。
「勿論、此処ですぐに答えを出せとは言いません。まずはゆっくり関係を続けていく中で互いを知ったうえでという事で……」
「ふむ……こちらとしては争いが降りかからねばそれで良いし、友好的な関係を結びたいというなら応えぬ理由も無い。まずは貴殿の言う通り、国交を始めてからだ」
「ありがとうございます」
こうして、李信は『青歌』とまずは交流を始める事になったのであった……。