趙の大将軍であった扈輒を破った李信と桓騎は『平陽』を守ろうと防衛線を築いていた扈輒の部下の一人である龍白公と戦い、そうして勝利した事で龍白公と彼の息子たちに兵の多くを降伏させた。
すると龍白公は一度、李信に捕虜として捕らえられたのに無事に解放された上に食事や飲み物を振る舞われるなどの温情ある扱いを受け、今回も降伏したのに何もされなかった事から李信を認め、『平陽』にいる知り合いの重鎮を通して説得し、降伏を勧めた。
こうして、趙の王都邯鄲に近いのもあって、かなり厳重な防備が用意されていた『平陽』の城の無血開城に成功し、入場する事が出来た。
桓騎軍のために財宝こそは出させたが、後で補填する事、命の保証どころか手厚い扱いなどそうした事を民に平陽の文官、武官に約束しつつ、そうして自分達が使う城としての調整をしていく。
それらが済んだ後はある程度の将兵を守りのために残しながら、李信に桓騎、王賁等は王翦が攻めている『武城』へと援軍として向かっていく。
これにより、『武城』の前線を守っていた趙軍は李信達にも力を割かざるを得なくなり、そんな状態では秦軍の侵攻を防ぎきる事は出来ず、押し込まれていく。
結果としてどうにもならなくなり、『平陽』と同じく、趙の王都である邯鄲に近いために厳重な防備が用意されている『武城』に籠城する事となった。
一応、『平陽』を守っていた趙将による説得などを行ったが『武城』の者は降伏勧告には答えなかった。
なので李信は井蘭車は勿論、床弩に色々と投石機に衝車等、色々と開発に力を入れている攻城兵器を持ち出した。
するとなんと、桓騎軍からも井蘭車が持ち出されたと報告を受ける。
実際、確認するとかなり風変わりで牛を用いて動かすものであるが、確かに井蘭車であった。
何故か『
「桓騎将軍も井蘭車を用意してたんですね」
「いや、あれは俺も初見で今、存在を知ったところだ……」
李信が桓騎に井蘭車の事を聞きに行けば、桓騎軍の者達も口々に『うちに井蘭車なんてあったのか!?』と戸惑っており、桓騎ですら本気で戸惑っていた。
「ふふふ、驚いているようだな桓騎、そして李信将軍……あれこそ我が紅春だ」
ご機嫌気味に桓騎軍所属で短い髪を整えており、額と両頬近くに丸い点のようなものがある
「貴方があれを作ったんですね」
「ああ、前に李信将軍の井蘭車を見た時、長年この氾善の頭の中にあった巨大兵器がついに見えたのだ」
李信からの問いに氾善は堂々とそんな事を言ってのけた。
「いや、モロパクリじゃねえか。それにふらついているぞ」
「そこが儚くて良いんだ。あれこそ、歩く芸術、ああ、なんて美しい」
「美しいですか?」
桓騎と李信が危うげな様子で進む井蘭車である紅春を見ながら、感想を言っていく。
「もう、コケそうだが」
「紅春はコケん。ふふ、我が才能が本当に恐ろしい。設計と製造と失敗を繰り返し、六代目の紅春で成功したのだからな。六大紅春だ」
「響きが六大将軍みたいでなんか嫌なんですけど……あ、滅茶苦茶集中攻撃されてる」
氾善にツッコミながら様子を見ていると流石にふざけた井蘭車にだけは意地でも侵入されたくないのか集中して武城の城壁にいる趙軍から攻撃を受けていた。
「ところで『紅春』には一体、どんな由来が?」
「ふっ、それは秘密だ」
李信は名前を付けたのなら由来があるのだろうと聞いてみたのだが、氾善は答えなかった。だが、後ろから肩を叩かれ……。
「昔、告白して振られた女の名前です」
「……うわぁ」
氾善の部下だろう者からの言葉に内心、こんなことするような男だから振られたんだろうなと思ったのであった……。
とはいえ、攻城兵器の活躍もあって、損耗少なく『武城』も取る事が出来たのであった。
「問題が発生した」
そして李信と桓騎が武城を取るために攻めている間に平陽と武城の中間地点を探りに行った王翦軍が近づいて来た。
王翦の話によれば平陽と武城の後ろには砦と小山を土塁で繋いだ事で二百五十里は続く長城があった。
「安心してください、王翦将軍。想定済みですよ。結局は悪あがきでしかなく、向こうは南下の選択肢を自ら放棄してしまったんですから」
「ほう」
「くく、本当にお前は期待させてくれるな李信」
李信の言葉に王翦も桓騎も興味深げな表情を浮かべる。
「年明けも近いですし、今は休息しながら準備に入る事としましょう。李牧を討ち取るための準備を……」
李信は二人に対し、そう楽しげな表情を浮かべて言うのであった……。