百二十七話
始皇十四年(紀元前233年)――秦軍は六大将軍の中で現在、趙で前線を築いている李信に王翦、桓騎、楊端和の四人による趙北部の攻略を始める事となった。
趙は李牧の置き土産である長城によって、『平陽』と『武城』からの侵攻に対して堅い守りを用意していたからだ。
だが、その代わりに邯鄲は長城によって、南から逃走する事が出来なくなったのだ。
いまのところ趙は南と西、邯鄲近くの北で『閼与』を秦に抑えられており、もう一つの敵国である『燕』に東を抑えられている状態だ。
ほぼ包囲されているがそれでも死に物狂いで脱出すればなんとか、北に逃げれない事は無い。なのでその北に蓋をするべく、『宜安』と『番吾』を取りに秦軍は動いた。
この秦軍の動きに対応するのは政争で敗北し、趙王都から一度、『雁門』にまで逃れた李牧達。
急遽、総司令の座に返り咲く事が出来たのだ。
李信にとっては李牧との決着をつけるために戦う事になる。
そうして、李牧との決戦に向けて万全を期すために昌平君に文を送り、秦の北東部軍、総勢二十一万を動かし『太原』から趙北部の『宜安』攻略に向かう秦軍との合流をしてもらう事を了承させた。
その後、秦北東部軍は迅速に太原に集結しながら、そのまま合流地を目指して東へと出陣していく。
だが、こんな大軍の動きを眺めている者達が居た。
「ふふ、やはり李牧様の読みは正しい」
「当たり前だ、あの李牧様だぞ。秦軍があの時、勝てたのは天の気まぐれでしかないのだ」
「ともかく、やるぞ。このまま合流させるわけにはいかぬ」
李牧の指示で秦の北東部軍に奇襲するべく、『狼孟』に数か月前に派遣されて数か月、奇襲するための鍛錬を積んでいった趙軍である。
そうして、すぐに彼らから見て呑気に行軍している秦軍へ奇襲を仕掛けようとしていたが……。
「ふむ、本当に奇襲するために趙軍が来た……李信将軍、貴殿の言っていた通りだな」
「その年で大将軍になるだけの実力は確かにあるようだな」
「くく、優れた将の元で戦うこの空気はやはり堪らない」
「ええ、まずは思う存分、錆落としをしてください
数万の趙軍の奇襲部隊の様子を見ながら、李信へと話をするのは額周辺に特殊な刺青がある斉の将軍、顔聚と副将で獣にも思える見た目をした雷磐、同じく顔聚の副将で黒髪は長く、容姿も整っている史穴勝の三人だ。
彼等は斉の国王である王健王が静観を決めたので練兵はすれど力を発揮する事が出来ず、焦れていた。
そんな時に李信が王健王を通じた提案で傭兵として雇った事で顔聚達は戦える喜びでいっぱいである。
「ふっ、本当に感謝しているぞ李信将軍。我らに戦いをくれた事を」
「戦えぬのは辛いですからな」
「斉の武勇が強大である事、証明してみせましょう」
「実に頼もしい。ではいきましょうかっ!!」
そうして李信は趙軍の奇襲部隊に奇襲をし返すために編成したそれぞれ、数千の複数の精鋭部隊を率いて顔聚達と動き出すのであった……。