秦軍は趙北部の『宜安』と『番吾』を取りに進軍を開始した李信に桓騎、王翦と楊端和軍による本隊とは別に秦国の北と東方面の城などから兵を集め、結果、二十一万の大軍とし『太原』より本隊の援軍として向かわせた。
「(さて、そろそろといったところか)」
その二十一万の北東部軍を指揮するは数年前、李信達が本軍として『鄴』を取りに行く中、趙の西部攻略をする別動隊の指揮を務め、見事趙西部の攻略を果たした上で『橑陽』を攻略した楊端和と合流をし、『閼与』を攻める助力までした曹波広である。
曹波広は進軍する二十一万の軍の様子を見ながらもそろそろ趙軍が奇襲を仕掛けてくると察していた。
無論、少し前に北東部軍を集めて自分達と鍛錬をした李信が趙軍がそのように動くと言ったからである。だからこそ、自分達は『狼孟』より出てくる趙軍の精鋭奇襲部隊に対する陽動部隊として動けと指示もされた。
そして、その陽動に引っかかった趙軍に対し李信達が奇襲するので後はその状況に応じて呼応し、趙軍を挟み撃ちにしろとも……。
それが出来るように鍛錬をしてきたのだから……。
「(いつでも来い)」
曹波広は時が来るのを待ち受ける。
そうして……。
「良し、いくぞ」
「ああ、目にもの見せてやる」
「我らの力、思い知れ」
崖の上より数か月前から李牧の命で『狼孟』へと行き、そうしてこの作戦が成功せねば趙は終わると兵たちに必死で鍛錬させてきた趙北部のとある将の三人はそう言いながら、進軍している秦軍に向けて動き出そうとしたところ……。
「ん……?」
なにやら音を聞いた気がして、ふと周囲を見回し……。
『おおおおおっ!!』
『なっ!?』
左方面から猛烈な勢いで迫りくる『紅』とその後方より、『秦』の旗を掲げて向かってくる軍勢を目撃する。
「くっ、我らの策がばれていたのかっ!?」
「止めに行け」
「いや、待て……あれはっ!?」
次に右方面より、やはり『秦』の旗を掲げて襲いくる軍勢を目撃する。
左の軍は李信であり、右の軍は今回、傭兵となっている斉の顔聚と雷磐、史穴勝である。
更に……。
「報告、いますぐ崖を駆け上がれと」
「良し、訓練通りにやるぞっ!!」
『おおおおおっ!!』
李信からの伝令によって、曹波広は崖を上がるように指示をし、北東部軍は動き出す。
『お、おのれぇぇぇぇっ!!』
こうして趙の精鋭奇襲部隊は超絶的な武威と戦技を持つ李信と静観続きで今まで武を振るえなかった分、今回、戦意が異様に高い斉軍、そうして崖を駆け上がって来た北東部軍の三つの軍に挟まれ、そのまま圧殺されるようにして趙軍は壊滅してしまったのであった……。