キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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十二話

 

 秦と魏による蛇甘平原での戦は魏軍が有利な状態であった。この戦況を打破すべく、この戦に徴収兵として参加した信が配属されている千人将である縛虎申の隊は敵歩兵中央を突破して丘に陣取っている魏副将宮元の首を取ると号令した。

 

 そうして敵の戦車隊を蹴散らした時に手に入れた馬に乗っている信も騎馬隊として続くように言われたので信はそれに応じる。

 

 

 

「よし……いくぞぉぉぉぉぉっ!!」

 

『おおおおおっ!!』

 

 こうして縛虎申の騎馬隊と歩兵は総突撃を始めた。

 

「ふっ、はっ、せいやあっ!!」

 

 信は騎馬隊の後ろに付き、そうして馬を巧みに操りながら、進路上にいる敵兵へ剣を舞い踊らせるように振るい、鮮血に染めながら戦場に死体として倒れさせていく。

 

『(て、天才だ……)』

 

 超絶なる信の騎乗の技と剣の技に騎馬隊の誰もが目を惹かれ、敬意を抱く。

 

「皆、気合を入れてついてこい。切り開いた道を進めば大丈夫だ」

 

『おおおおっ!!』

 

 信が時折、気合を入れる声をかけてくれるので勇姿も含めて歩兵たちは全力で騎馬隊を追う。しかして、当然敵の防御も中々……結構な数が取り残される形で脱落していく。

 

 

 

「ぬ、抜けた……」

 

 敵陣を六十人程で抜ける事が出来、丘近くに到達する事が出来た。

 

「良いか、ここからが本番だ。これより丘を駆け上がって副将宮元を討つ。この戦、秦軍の勝利そのものにかかわる大事と心得よ!!」

 

 縛虎申は歩兵たちにもそう、声をかける。

 

「貴様らにもはや余力が残っていない事は知っている。しかし、甘えは許さぬ。頂上まで来なかった者は俺が斬る!!」

 

 更にそう、厳しく言い放った上で……。

 

「だが頂上まで来た者は此度の戦の最大の功労者としての戦を手にできる。普段の十倍の恩賞を約束しよう!!」

 

 しっかりと縛虎申は歩兵たちに対して鼓舞も行う。

 

「小僧……お前も今からは歩兵たちの事は構うな。丘へと突撃する事にだけ集中しろ。それに宮元の首さえ取れれば、戦況を打破でき、歩兵たちを救う事にもなるんだ。良いなっ!!」

 

「はっ!!」

 

 此処に突破するまでなるべく、歩兵たちが駆け抜けられるように動いていたのを見られていたようだ。注意されたそれに信は返事をする。

 

 

 

「皆、そういう訳だ。なるべく早く、片を付けてくる」

 

「おお、やっちまえ信」

 

「小僧のお陰で俺たちはやる気十分だ」

 

 歩兵たちに信は声をかけると歩兵たちは皆が頷いて返す。

 

 

 

「中腹までは速さはいらぬ。歩兵の足に合わせてゆくぞ。全員に気配を消す事を徹底させろ」

 

 丘を観察していた縛虎申はそう指示を出した。そうして、中腹までゆっくりと移動し……。

 

「縛虎申隊、出撃っ!!」

 

 そうして信は丘を駆け上がる縛虎申の騎馬隊の一人として同行し、油断していて遅く動いている敵兵を蹴散らしながら突破していき……。

 

 

 

「ここで歩兵を切り離す。騎馬隊全力前進!!」

 

『おおおおおっ!!』

 

 そうして、一気に信も含めて縛虎申騎馬隊はひたすらに速度を上げて駆け上がっていく。頂上が見えた時……。

 

 

 

 

「矢だ、矢が来るぞぉぉぉぉっ!!」

 

 観察し、注意深く気を張っていた信は不穏な何かを感じ取り、皆へと呼びかける。

 

 そうして、騎馬隊に向かって敵陣から矢の雨が降り注ぐ。

 

 

 

「はあああっ!!」

 

 信は馬を巧みに操って、矢の雨を潜り抜けるように動かして回避し、あるいは自分の身体を少し動かして回避、剣で切り払う事で矢の雨に対処する事で突撃の速度を上げていく。

 

 

 

「っ、なんて小僧だ……あの小僧に負けるなぁっ!!」

 

 信の騎馬の技に縛虎申も瞠目し、敬意を抱きながら指示を出して続いていく。

 

 

 

「むっ、ふっ!!」

 

 明らかに自分を狙って飛来してきた矢を剣にて受け流す。

 

「ほう、大した小僧だ……良いだろう、勝負っ!!」

 

 信に対して矢を放ったのは『中華十弓』と呼ばれる程の高い弓の腕を誇る黄離弦だった。自分の矢を凌いだ信の実力を讃えながら、狙い撃つ。

 

 

 

「しっ!!」

 

 信は迫り来た矢をわずかに体を動かす事で回避する。その後も剣で切り払う。馬を巧みに操って回避など次々と黄離弦の矢を回避して……。

 

 

 

「はあっ!!」

 

 馬を狙って来た矢に対し、信は馬を飛び上がらせた。

 

 

 

『飛んだっ!?』

 

 人馬一体の極致が成すその技に縛虎申とその騎馬隊、敵兵も驚愕した。

 

「(……見事だ、小僧)」

 

 戦慄を覚えると共にあまりにも凄すぎる騎馬の技を黄離弦は讃えながら、信が自分の元へと迫りくるのを眺めるしか無く……。

 

「ふしっ!!」

 

 信は黄離弦に剣を振るい、その身を切り裂く事で鮮血を飛び散らせると共に地に倒れさせるのであった。

 

 

 

「小僧、そのまま宮元の首を取れぇぇっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 黄離弦を倒し、駆けていく信の背に縛虎申の声に応じながら、駆けていく。

 

 

 

「(ば、馬鹿な……何故……)」

 

 宮元はしっかりとした防備を食い破られた事に驚愕し、混乱する中で周囲にいた兵を蹴散らしながら、信が迫りくるのを見ていた。

 

 

 

そうして、信は宮元とその護衛達に接近すると共に剣閃乱舞を繰り出し……。

 

「敵将、宮元……この信が討ち取ったぞぉぉぉぉぉっ!!」

 

 宮元の首を刎ねた信はそう、叫んだ。

 

 

 

『おおおおおっ!!』

 

 そうして縛虎申たちも声を上げた。

 

 

 

「小僧よ、良くやった。本当に見事だ……名は?」

 

「信です」

 

「その名前覚えておこう、そして大手柄だ」

 

「ありがとうございます」

 

 信は自分の活躍を讃えた縛虎申へと礼をしながら、頭を下げる。

 

 

「良し、これから丘を降りて中腹の守備隊を……」

 

「っ、待ってください。あそこをっ!!」

 

 信は丘から周囲を見渡せばとんでもないものを発見したので声をかける。

 

 ここから奥の丘にある魏の本陣が丸裸。そして魏軍の総大将呉慶率いる軍勢がこちらへと迫り来ていたのだった。

 

 

 

「あれが総大将の呉慶なんですね」

 

「ああ、そうだ」

 

 丘から信はこちらへと迫りくる総大将で白髪、顔に赤い墨を施した男の姿を発見し尋ねると縛虎申は答える。

 

 

 

「降りるしか……む、あの軍は?」

 

「王騎将軍」

 

 呉慶軍とは『秦』の旗を掲げつつ、反対の方向から無人の野を行くが如く、凄まじい勢いでこちらへと駆け走る軍団を見つけた。そうして……。

 

 

 

「お久しぶりです。王騎将軍」

 

「ンフフフ……お久しぶりです。童、信……貴方は本当に派手ですねぇ、中々楽しませてもらいましたが」

 

 信は馬から降りて礼を尽くすと王騎は返答をする。

 

 

 

「信、本当に君はとんでもないな。大手柄だぞ」

 

「……ふふ、頼もしいガキがいたもんだぜ」

 

 王騎の隊には壁と尚鹿もいて、宮元を討ち取り、その丘の陣を奪還した信に対して賞賛の声をかけたのである。

 

 そうして、一先ずこの陣に『秦』の旗を立てるのであった……。

 

 

 

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