趙北部の『宜安』の近くにある平原、『宜司平原』で行われている実質的には秦と燕に斉の連合軍七十万と趙軍四十五万による大戦は勝敗が決まろうとしていた。
無論、趙の敗北という形でだ。まず、四十五万という大軍を何とか用意でき、本来は秦軍を包囲殲滅できるという策略でそのための準備や鍛錬までしてきたというのに秦軍が七十万という自分達を二十万は上回る大軍で押し寄せ、逆に包囲殲滅を決めてきた事。
さらに仲間だった筈の味方が十万は裏切り、攻撃してきた事。そして広められる裏切りの報告。
これにより、最初の時点で意表を突かれた事や調子を崩された事に加えて『裏切り』による大混乱などが重なり、趙軍は次々に劣勢へと追いやられ立て直しすら出来なくなっていった。
「ルアアアアアアッ!!」
『ウオオオオオオッ!!』
そんな趙軍に止めを刺すべく、李信は麾下千の騎馬隊を率いて一つの巨大な獣となって戦場を駆け始める。
李信とその麾下千の騎馬隊はただでさえ、騎馬隊としてはこの中華大陸において最強と称されている。そして、それは誇張では無く、真実だ。
そんな最強の騎馬隊が混乱に混乱を重ね、ただでさえ劣勢な趙軍へと突撃すれば……。
『り、李信だぁぁぁぁぁっ!!』
趙軍は絶望の声を上げながら、叫ぶしか無いし意識も集中せざるを得ない。
李信とその騎馬隊は獣と化し、目の前にいる趙軍を蹴散らし、食い破っては蹂躙して進軍していく。彼等に対抗できる者など存在しない。
「はあああっ!!」
李信は只々、己の武威を込めた矛を超絶なる技量によって絶斬の暴風に変えながら振るって趙軍を切り裂き、彼の乗る紅飛も趙軍を踏みつぶしていった。
『させるかぁぁぁっ!!』
大体の敵が李信の超絶な部位とその技量に抵抗の意思すら無く、蹂躙される中、抵抗しようとする者も現れる。仮にも李信は大将軍だ。討つ事さえ出来れば大いに敵の士気さえ低下させるし、起死回生の一手になる。
とはいえ、それだけでは無く脅威に抵抗しようとする恐怖や生存本能からの動きでもあるが……。
「無駄だ」
だが、そもそも李信の武威に戦技は限界知らずであり、全てを超越した域にある。ひたすらに敵を打ち破り、そして下手に李信へと集中したが故に趙は陣形も乱れていく。
「うおおおおっ、李牧様には触れさせんぞぉっ!!」
「必ずや討ち取りましょう、父上っ!!」
前回の朱海平原で李信に致命傷を負わされたが復帰した馬南慈と息子で容姿が整った馬風慈が李信へと向かっていくが……。
「ルアアアアッ!!」
「がっ!?」
「ぐはっ!!」
五を越えるか越えないかくらいの数合の打ち合いが生じ、そうして李信の斬閃により、馬親子はどちらも切り裂かれて、討ち取られる。
「ここだぁぁっ!!」
「死ねぇぇ、李信!!」
馬親子を討ち取った隙を狙って、それぞれ違う方向であり死角から傅抵と瞬水樹が李信を討ち取るべく、突撃して一閃を振るった。
「無駄だ」
矛を手元にて振り回し、柄によって二人の斬閃を事も無げに凌ぐと更に矛を尋常ならざる技量を持って振るう。
「づ(カイネ……)」
「!!」
傅抵は胴体から横に切り裂かれた事で上半身と下半身が分かれる事になり、瞬水樹は首を刎ねられてしまった。
そうして更に進軍してみせた李信の向かう先は……。
「くっ……天よ、何故この李牧だけでなく、李信を生んだのかっ!!」
李信が目前に迫る中、李牧は天へと絶叫の如き声を上げ、嘆く。
「李牧様……共に参ります」
カイネは李牧の様子を見て、彼へと只近づき、抱き締める。
「じゃあな、李牧……色々苦労させてくれたのは大したもんだったよ」
李信は李牧へ彼なりの称賛をしつつ、李牧と彼の傍にいたカイネを二人纏めてその斬閃を持って薙ぎ払い屠った。
「趙軍総大将、李牧……この六大将軍の一人、李信が討ち取ったぁぁぁぁぁっ!!」
そうしてこの戦での勝利宣言を李信は行ったのであった……。