趙北部の二つの城である『宜安』と『番吾』を攻め獲った秦軍はしっかりと統治に励んでいく。
李信は楊端和と共に『番吾』を統治する事にし、『宜安』は桓騎と王翦に任せた。
もっとも『宜安』は無血開城をする事が出来たが、『番吾』においては武人たち皆が負けても降伏などはせず、自分たちにとって英雄である李牧に準じる覚悟をしていた。
なので民や文官は逃亡しており、いるのは武人だけであった。そして、李信達が攻め入ると全滅させられ、更に桓騎が率いる野盗たちによっていろいろ荒らされているので李信達がやるのはその修復とかが主となる。
そんな日々の中で李信は李牧が治めていた地の『雁門』、邯鄲からの亡命地になる確率が高い『代国』を攻めていたオルドの様子を窺っていた。なぜなら、オルドには代国に亡命した趙の王族であった嘉太子がいるからでもし、可能なら身柄を引き渡す事を要求していたからだ。
嘉太子が生きていると趙を獲ったとしても後々、不穏分子を纏めて大規模な反乱などを起こしてくる可能性が高いからだ。そうでなくとも色々状況をかき回すのなら、嘉太子を担いで人を集め、反逆する事が出来るなど厄介な事が起こる。
しかして、オルドは嘉太子を捕える事に成功し、約束通りに李信の元へと身柄を引き渡した。
そして、嘉太子は自分が趙を救う者だと心酔、信奉していた李牧を討った李信を怨敵として睨みつけ、憎悪を叩き付けたのである。
「くそ、秦国め。我らが国を荒そうという侵略者であり、虐殺者たちめぇ……なぜ、李牧が負けたのだ。こんなのは間違っている」
「そんな事を言われても俺達が勝ち、李牧達は負けた。これは揺るぎなき真実なのですがね。それに虐殺者とは酷い言いようだ。嘉太子、貴方様も大概でしょう」
「なんだと……私のどこが虐殺者なのだっ!!」
嘉太子は李信からの指摘に怒りの言葉を上げた。
「悼襄王が死んだ当時、貴方は王の座を取り、李牧を救いながら地盤を固めようとしていたのは知っています」
「っ!?」
李信のとんでもない情報収集力に嘉太子は驚愕する。
「その際、貴方は悼襄王を諫めて投獄されていた賢人をまだ王座を継承さえしていないのに解放しましたよね?」
「……」
「結局、悼襄王にしてやられた事で幽繆王が王の座を継いだ事で賢人たちは一族郎党処刑された。これは貴方が考え無しに先走ったせいで起きた虐殺ですよね?」
「ぅ……く……」
嘉太子は痛いところを突かれて顔を歪める。
「ともかく、秦国に帰るまでまだ時間はある。その間、色々と話をしましょうか」
李信は秦国に帰るまで色々と嘉太子と話をする事にしたのであった。今後においては彼は咸陽で飼い殺しのような生活になるからでもあるが……。