李信は現在、楊端和と共に趙北部の『番吾』の統治に励んでいた。攻めた事で壊れてしまった建物の修理もそうだが、番吾の周辺の村々への巡回、更には戦地での食糧自給をするための『屯田』も行っている。
この『屯田』に関しては『宜安』周辺から更に広い範囲で行ったりはしているが……。
それとは別に奇襲などを警戒するための警戒及び意識も含めて体を鈍らせないための鍛錬に調練も欠かさない。統治が安定したところで秦の咸陽に呼び出される事に放っているが……。
その中で李信はオルドが捕虜として捕らえて身柄を差し出した趙の王族であるが、父である趙の前王、悼襄王の抜かりない仕込みで玉座を悼襄王の末子である幽繆王に取られてしまい、李牧と共に王都である邯鄲より追放されてしまった嘉太子と接触する。
追放されたとはいえ、嘉太子は趙の王族で彼を野放しにすれば後々、神輿となって秦に対しての反抗勢力などになる可能性が高いので李信は放っておかなかった。
なんとしてでも確保し、咸陽に送って軟禁状態であり、飼い殺しの身にすべき存在であったのでオルドに彼の身柄を確保するように頼んだのだ。そして、それは上手くいった。
そうして、嘉太子を咸陽に連行するまでの間は自分が常に傍にいる事で監視しながら交流する事にした。
嘉太子は李信に対して李牧を討ち取った事で怨敵として認識しているが、飼い殺しにする身である以上、それまでは監視はすれど、外には出すし、話もするという情けをかけてやるのだ。
「……これが国は亡ぼすが、人は滅ぼさないという事か……」
「ええ、人を滅ぼすなんて意味ない事ですからね」
李信は特別に嘉太子に対して自分の仲間になっている元、趙兵や紀彗に触れさせたり、兵士の一人に変装させながら宜安の様子を見せたし、村での様子など色々と自分たちが趙人を虐殺したりしない様子を見せるし、親密な交流をしている様子などを見せていく。
嘉太子は秦が国を貪り、人を虐殺するような侵略者であり、獣と認識していたが全くそんな事は無かったので衝撃を受ける。
「中華統一というのは秦以外の国を亡ぼす物だと思っていた」
「むしろ、大陸の国々を秦という一つの国として取り込もうとしています」
「……成程……趙の民が平穏に、幸せに過ごせるなら私としてはそれで良い。負けた私が言うのもなんだが……どうか、趙の今後を頼む」
「ええ、その言葉しっかり聞き入れましょう」
嘉太子が頭を深く下げるのに対し、李信も返礼して誓いの言葉を告げた。
そうして……。
「紅飛、いつもありがとうな」
「ブルルル……」
厩で李信は自ら、紅飛に対して豚の毛で出来た刷子で毛並みを整えながら、語り掛ける。鍛錬の終わりや戦の終わりなどにおいても李信は紅飛の毛並みを整え、手入れしながら語り掛けるという時間を設けている。
紅飛は李信の手入れに心地良さそうに息を漏らすのであった……。