李信は韓の王都である『新鄭』の本殿に入る前、韓非子に『人は生まれながらに善か、悪か?』、『人の本質とは何か?』と問われた。
その問答の答えを本殿にて秦国の使節団に王騎軍、韓の武官に文官、そうして寧姫や王安王たちの前で言った。
『人の本質は水』だと……。
「な 何故水なのだ? り 理由も聞かせてほしい」
当然、その考えになった理由を韓非子は李信に問いかける。
「勿論」
李信は頷き……。
「まず、韓非子様は人は生まれながらに善か、悪かと聞きましたよね。そっちから答えましょう」
性善説か性悪説についてからの話を始める事とした。
「そもそも、善と悪の定義が難しい。その人個人、その人以外の人間、あるいは複数の人間、それぞれの価値観で変わる。例を挙げるなら、合従軍……秦を滅ぼそうとした楚と趙に魏、韓に燕はそれぞれにとっては善だと認識していた筈だ。だが、この五国は秦にとっては悪だ」
「……う うむ。そ それはそうだ」
合従軍の出来事を例にして話し始める李信に韓非子は頷く。
「戦での毒殺は味方にとっては善で、敵にとっては悪、略奪についてもそうだ……もっとも、戦場では善も悪も関係無いが……戦場以外でも良い事をしていた人間が突然、理由も無しに悪い事をする事もあればその逆もあるんだ。何故なら、人は変わりゆくもの、流れゆくものだから」
「だ だからこそ、ひ 人の本質は水だと……」
「そうです。そもそも人生こそ、大いに広がる黄河のように行くべき方向に行くべき先が何も無い只、広大なものです。それを行く人間は幾らでも生き方を変えられるし、染まっていく。人間は人生を生きる中で流動的で変わりゆく者なんですよ」
いくらでも生き方を変える流動的であり、変わりゆく者で染まりゆく者だと言ってみせた。
「そ その考えにはい 一理ある……」
「ええ、ですが……私の意見を大前提にしてもらった場合、民衆に対し良い生き方をさせるための方向、良い者として染めるのが『法』になる」
「あ ああ。ひ 人は愚かゆえにほ 法で御す事が必要なのだ」
李信の法の考えに韓非子は頷く。
「でも、愚かだから、悪というのはまた違う」
「っ!?」
「悪と断じるのは諦めだ……人を良い者に染めたいから、良い生き方へと流れさせるために人の事を考えて、法を作る人の事を思って、人生をかけて人について考えている韓非子様は私にとっては『善』に染まり、その道を流れゆこうとする人間に見えます」
「ハ ハハハハ。ア ハハハハハハハ……そ それではわ 私が性善説の人間だと い 言っているように聞こえるぞ、り 李信将軍」
「そう思うなら、そう捉えていただいても構いません」
「な なんて屈辱だ……だ だが、妙に納得させる力もある。た 楽しい問答だったぞ。が 学者以外の者から聞くのは正解だった」
李信は楽し気に笑いながら言うと秦に行く事を伝えるのであった……。