趙の北部にある『雁門』はとある問題があった。
中華から先にある北の騎馬民族である『匈奴』が国境を超えようと襲来してくるし、当然、近くの村や集落も襲って殺戮や略奪をする。
今までは李牧が守っていたのだが、その李牧を李信が討ち、雁門自体は燕が領している。なので現状、趙が滅ぶまで共闘関係を築いているオルドがそれに対応する事となっている。
しかし、『匈奴』は以前、李牧の策により、十万騎を嵌め殺されたが故か意地になっているからか二十数万騎をもって、雁門を超えようとしていた。
オルドは李信に共闘を要請し、李信はそれに応える。
こうして、秦と燕による対匈奴戦線が築かれた。
「それでどう戦うのだ?」
「どう戦うも何も向こうは大軍ですからね。嵌め殺すのが一番でしょう……なるべく相手に恐怖と衝撃を与えねば」
「その手があると」
「ええ、ちょっと考案していたものを試すのに良い機会だ」
そうして……匈奴の襲来に向けて李信の指示に従いながら秦と燕軍は陣を作っていく。
秦と燕で合わせて五万五千の騎馬隊を並べ、その背後で素早く柵を組む。二十里(約八キロ)にも及ぶ長い柵が外周で、その内側に十里(約四キロ)の柵があり、弓兵も配置されているというもの。
そして、その柵の後ろ数里離れた丘の頂に李信考案の本陣があった。柵から本陣までの間は歩兵が魚鱗の陣を組んでいた。騎馬は両翼に数万ずつ、本陣の前の丘の斜面にも数千の騎馬隊が配置されていて総軍で十万ほどである。
「ム、『秦』ニ『燕』ダト?」
「趙ハ滅ンダノカ?」
「李牧ガイナイナラ問題ナイ。アノヨウナ陣スグニ破壊スル」
匈奴は陣から『秦』と『燕』の旗が立っている事に戸惑いながらも対峙するなら攻め滅ぼすとばかりに突撃を開始した。
「始めろっ!!」
「始めいっ!!」
そうして、前衛の秦と燕の騎馬隊が匈奴と戦闘を開始、ある程度争うと秦と燕の軍が敗走を装って退却する。
「クソ、面倒ナッ!!」
秦と燕が組んでいる外周の柵は組んであるだけの簡略的な物だが、崩すには歩兵がいるし崩す間に弓兵で狙い撃ちされる。この時点で騎馬民族の長所が殺されるのだ。
それでも大軍の利を活かし、ある程度の者を歩兵にして外周の柵を破壊していくが、弓兵は匈奴の歩兵が柵に近づいた時点で迷路のように作られ、人が通り抜けられるほどの隙間が何十か所か空けてあるその内側の柵へと消えていく。
その内側の柵においては秦軍と燕軍が矢だけでなく、槍まで突き出していく。匈奴は機動力を殺されている事もあって、次々に討たれていく。
「オノレエエエエエッ!!」
匈奴はそれでも大軍なので犠牲を無駄にしないとばかりになんとか、内側の柵も破壊していく。その度に柵を守っていた秦と燕軍はやはり、敗走を装って退却した。
「フフッ、コレデオワリダッ!!」
そうして秦軍と燕軍が用意した柵を突破し、魚鱗の陣を組んでいる歩兵を襲おうとしたが……。
「馬鹿が」
李信はただ、そう言う。
そうして、歩兵たちは地面から伸びている縄を引く。すると……。
「ナッ!!」
『グワアアアアアアアアッ!!』
匈奴は自らの勢いで槍に突き刺さっていき、それを回避した者も結局は立ち止まるしかなく、機動力は発揮できなくなる。
李信は騎馬殺しの道具として台の両脇に十本ほどの槍が穂先を並べている物で横木をわたして十本を固定し、下にわたした丸太の穴に石突きが突っ込んである物を用意していた。
縄で引くと穂先の方だけが持ち上がる仕掛けで柵を越えた地面に埋めてあったのだ。それを匈奴の騎馬隊が駆け込んだ時に縄を引く事で槍の原野を誕生させたのだ。
「狩り尽くせ」
『オオオオッ!!』
こうして罠に嵌めた事で戸惑い、機動力も奪われた匈奴を李信の号令の下に秦と燕軍は攻め滅ぼしたのであった。
「やはり、流石だな李信……それと王がお前と話をしたがっている。燕に来てくれんか?」
「そういう話だと行くしかないですね」
匈奴の大軍を滅ぼした後処理をしているとオルドに言われた事もあって、李信は『燕』国に一度、足を運ぶ事となったのであった……。