キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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十七話

 

 

 秦と魏の蛇甘平原での戦から三か月後、秦の王都である咸陽では血に塗れた異変が起こっていた。

 

 政界での昌文君の協力者が十五人も殺されたのだ。そして、その中には王宮関連の任を受け持つ者がいて、刺客を放った者の狙いは秦王である嬴政だと、前は竭丞相についていたが今は嬴政についている政界においてはかなりの経験を有する肆氏は察知し、そうして……。

 

「そうか、まさか肆氏がな」

 

「ええ、こっちにとっても意外でしたけどね……」

 

 秦王の命を獲るべく、複数の刺客集団が王宮内に忍び込んだ今夜。信はかつては敵であった肆氏の手引きによって貂と共に王宮内に忍び込む事が出来ていた。

 

「私にとっては貴方達が大王様の護衛なのが意外なんですけど……」

 

 そう声をかけるのは政の心の伽を務めている若き宮女である『向』であり、彼女は急に現れた信と貂の存在に戸惑っている。

 

「何おう、良いか地味宮女……信はこの前の蛇甘平原で大活躍をしたんだぞ。その成果として百将にまで一気に上り詰めてるんだからな」

 

「余計、疑わしくなりましたよ。というか、地味って言わないでください……」

 

「向、信の実力は俺が頼りに出来るほどだ。信じていい……それとこの前の戦はご苦労だった」

 

「どうもありがとうございます」

 

 そんな話をしながらも信は政の案内により、王族しか知らない抜け道へと向かう。

 

 そうして、広い部屋に辿り着いた一同、後は正面の扉を抜けて地下道に入れば良いだけだったのだが……。

 

「っ、やはり外側から鍵がかけられているようだ」

 

「ここまでの事をするんだから、そうだとは思いましたけどね。それでこの道を知っているのは?」

 

「亡き父、荘襄王に直接、教わったこの俺とかつて荘襄王に仕えその全てを把握していた男――呂氏だ」

 

 呂氏――それはこの国の丞相でありながら、荘襄王に対する献金と言う事あって場合によれば王族にさえなれるほどの権威と勢力、影響力を有する『呂不韋(りょふい)』の事である。

 

 少し前の王弟成蟜と竭丞相による内紛においてはむしろ、彼らに政が殺され王座を奪われる事でそれを口実に王宮に乗り込んで排除しながら自分が王になろうと『待ち』の動きを見せた者でさえ、あった。

 

「……とうとう、自分の手で排除に来たようだな」

 

「ああ、どうもそうらしい」

 

 信の問いに煮えたぎる怒りを抑えた表情で答えた。

 

「刺客が来たようだ……出て来いよ、羌瘣」

 

「……忠告はしてやったのに来たのか、信」

 

 この部屋へと出入りできる唯一の扉の方へ呼びかければ羌瘣はそう言って、姿を現した。彼女の側には外套で全身を覆った三人の男たちも続いている。

 

 

 

「お前、俺の事知ってたんだろう……こうなる事も予測済みだった筈だ」

 

「まあな」

 

「そして、そっちの三人の恰好には見覚えあるな。確か『朱凶』だったか?」

 

「ならば、お前か……徐完を返り討ちにした小僧というのは…」

 

「あのようなガキにやられるとは我ら『朱凶』の恥晒しめ」

 

 信が問いかければ、信の大切な存在であった漂に致命傷を負わせ、信が敵討ちを果たした相手である者の一族、『朱凶』が問いに応じる。

 

「お仲間はまだ待たなくて良いのか、十一人が王宮の屋根を飛び回っているのを見たんだが……」

 

「『号馬(ごうま)』か……ふん、我等で十分、事足りる」

 

「そうか、じゃあさっさと掛かって来いっ!!」

 

『っ!?』

 

 そうして、信が放つ殺気と威圧感に『朱凶』の者たちが完全に威圧される。信の実力が自分たちを上回っていると分からされたのだ。

 

 

 

「あの男の相手はお前達では無理だ。私がやる」

 

 羌瘣が真剣な表情であり、冷や汗を流しながら背の剣を抜いて前へと歩いた。

 

「お任せします、蚩尤(しゆう)様」

 

 『蚩尤』――闇世界で一千年も前から魔物と恐れられてきた幻の刺客の一族の名である。

 

『朱凶』はそんな『蚩尤』に仕えた一族であった。二百年以上も前の話であるが……。

 

「やるのか、羌瘣」

 

「ああ、本気でやらせてもらうぞ信……」

 

 信の問いに答えながら、羌瘣は剣を持つ手と持たない手を交差させ……。

 

「トーン、タンタン……トーン、タンタン……」

 

 独特な呼吸をし始める。

 

「こっちの方が良さそうだな」

 

 信が矛を横へと放り、背中の剣を抜く中で羌瘣は独特な呼吸と共に片足で独特なステップをもし始めた。

 

 

 

「トーン、タンタンッ!!」

 

 そうして、羌瘣は幽玄的な動きを持って信へと迫り、変幻自在な軌跡を描く剣閃の舞を繰り出した。

 

『蚩尤』は太古の世、巫女体質の者が剣を触媒に荒ぶる神を堕とし、舞い祭りそれを鎮めたその技術を殺人技術へと変化させた。

 

その技術の名は『巫舞(みぶ)』――神を自分に堕とす事で意識を陶酔させ、舞って目に付く人間を斬殺する技であるが……。

 

「ふっ!!」

 

 動きは幽玄的であるために読めず、それから繰り出される剣技は変幻自在であるため対応できない必殺の奥義を信は相手が攻撃を繰り出す瞬間にだけ対応できるよう、意識を集中させながらかつ自分が攻撃するまでの間、脱力しそして、斬撃を繰り出す瞬間に全力を込めた。

 

 それによって繰り出されたのは爆発を思わせるような強烈なる斬撃だ。

 

「がっ!?」

 

 羌瘣は自分の一撃を弾かれ、更に余りの威力と衝撃に吹っ飛ばされながら壁に背中から激突し、そのまま意識を失った。

 

 

 

「ふぅ……まだ、やるか?」

 

「我々は降伏する」

 

 信の問いに『朱凶』は実力差を完全に悟らされ、降伏をする。

 

 

 

「なら、その場から離れろ。来ているぞ」

 

『っ!?』

 

「ち、分かってやがったか」

 

 信の声に『朱凶』がその場から離れると口元に覆面をし、背中に剣を背負った十一人の刺客集団である『号馬』だった。

 

 

「こいつらで最後か?」

 

「そうだ」

 

「なに、教えてやがる。てめぇっ!!」

 

 信の問いに『朱凶』の若き長である燕呈(えんてい)は此処に来るまでに『堅仙』と『赫力』が全滅しているのを見ていたので答え、『号馬』は怒る。

 

「なら、さっさと来い」

 

『舐めるな、小僧っ!!』

 

 信の誘いに『号馬』は怒り、彼へと攻め込んでいく。

 

 

 

「ふっ!!」

 

 そして、信は鋭く流麗でありながら、凄まじい武を内包する轟閃の剣舞を繰り出し、瞬く間に『号馬』を全滅させたのであった……。

 

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