キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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一話

 

 天下の大将軍になる夢を誓い合った信にとって親友であり、義兄弟と言える存在の漂はある日、大臣である昌文君によって身請けされたが、その一か月後に秦国の王宮内で王弟が起こした内紛により、致命傷を負いながらも信のいる村まで逃げ延びた。

 

 そうして、信に黒碑村にあるとある場所を示した地図を渡し、漂を看取った信がその場所へと駆けつけると秦国の王である政がいて、彼の顔が漂そっくりだったので影武者として王宮内に連れられたのだと悟り、だからこそ漂の死を無駄にしないために政の身を守る事に決め、更に漂の仇である追手も討ち取ったのであった。

 

「っ、刺客の次は軍か」

 

 少しすると村の周囲にある草原や村自体、船に乗って川を移動しながら……ありとあらゆる場所から兵士たちが姿を現す。

 

「軍系統は全て弟側か……」

 

「王……漂が守った貴方の命をそう簡単に奪わせはしない。必ず、生き延びていただく。突破口は俺が開きますっ!!」

 

「それしかなさそうだ」

 

 そうして、信と政は軍へと切り込もうとして……。

 

「ちょっと待った」

 

 梟の被り物とミノムシを思わせるような衣装を纏った小柄な者が信たちの前に飛び込む。

 

「抜け道を知っている。ついてこい」

 

「抜け道だと、この包囲網を脱する抜け道があるのか?」

 

「当然だ。ここはお尋ね者たちの村だぞ。地の下は抜け道だらけで迷子になるほどだ」

 

「俺達を助ける目的は?」

 

「あんたらの話をこっそり聞いてた。王様なんだろあんた……って事は大金持ちだ」

 

 梟の者は信の質問に応じながら、政の方を見た。

 

「分かりやすいな」

 

「ああ、その方が信用できる」

 

「お前の顔と名前は?」

 

「河了貂だ」

 

 信の質問に梟の者は被り物を取り、短い黒髪に幼さのある顔を晒す。

 

「(女か……)」

 

 生活の中で鍛え続けた観察力で河了貂の性別を見抜きつつ、指摘はしない。ならず者たちが集まるこの黒碑村は勿論、戦乱の世では女身一つで生きるのは難しいのは想像に難くないからだ。

 

 そうして、貂の案内によって洞窟を通っていく。その中の会話で貂は西の山民族である事を知ったりした。洞窟を抜けると朝日が昇っていた。

 

「はぁ、金が無い?」

 

「ああ、無いぞ。だが心配するな、王宮に帰ったら大金を用意しておく。折を見て取りに来ると良い」

 

 政から手持ちの金は小屋に置いてきたので無いと言われ、貂は凄い不機嫌な顔をした。

 

 そんな貂に政はしれっと言う。

 

「王宮に帰ったらって一体いつ、帰れるんだよっ!!」

 

「さあ、一週間か一か月後か一年後か……はっきりとは分からんが」

 

「ふぎ……ふわああああっ、酷い、こんなの酷すぎるっ!! そう、長くなんか待てるもんか。これから、どうやって食ってけって言うんだよ」

 

「じゃあ、俺が面倒を見てやる。抜け道を案内してもらった礼でもあるし、色々と小回りが利くようだからな」

 

「やった、ありがとう信」

 

「変わり身早いな……」

 

 信の言葉にわが身の不幸を嘆いていた貂はすぐに信へと抱き着き、笑顔で言う。信は現金な性格の貂に苦笑する。

 

ともかく、信達一行は最後の合流地だという森の先へと向かう。途中、小休止を挟みながら進み続け……そうして、洞窟の中に入って進めば四百年前の秦王が造った避暑地だという建物があった。

 

そこは四百年前の秦王である穆公が中華の西にある秦より更に西にある深き山々の世界に住む山の民と交流するためのものだったという。穆公はまれに見る名君で山の民と交流を深めたが、結局そうしたのは彼一人。いつのまにか山の民との交流は忘れられていったのだ。

 

しかし、山の民はこの避暑地を神聖な地として守っているという。

 

「信、料理出来たんだな」

 

「まあ、下僕として集落の長の家で働かせられたからな……貂の方こそ中々、上手いじゃないか」

 

「一人で生きていくうちにな」

 

 そんな会話をしながら、信と貂は避暑地の中に用意されていた食料を調理し、料理をする。

 

今後の予定としてこの場所へと合流する手はずになっている昌文君を待つ間、休憩する事になり……。

 

「……来たか」

 

 信は建物の中で短い睡眠を取りながら、警戒していたが彼の直感が何かを感じ取り、抱えていた鞘から剣を抜いて……外へ出る。

 

 果物を摘み取っている貂の後ろに追手だろう顔に妙な紋様を刻んでいてミノ状の衣装を着た男が吹き矢を貂の後ろで構えていた。

 

「女に対して吹き矢で不意打ちってのはどうなんだ?」

 

「っ!?」

 

「っ、信!!」

 

 その男へ自身の内部で渦巻き、湧き上がり続けている今も尚、漂の命が奪われた事に対する怒りと憎悪、殺意を放てばその男は動きを止め、貂は信に驚きつつ、後ろの追手を見てすぐに信の元へ駆け寄っていく。

 

「っていうか信、俺の事を……」

 

「見れば分かる、だがそれでとやかく言うつもりは無いから安心しろ」

 

「あう……」

 

 信は駆け寄って来た貂に対し、頭に手を置いて安心させるとそのまま、追手の方を見て歩いていく。

 

「……お前だべな。頭巾の刺客を斬ったのは?」

 

「ああ、あいつは俺の親友で義兄弟だった男を殺した仇だった。だが、お前にとっては俺は仇になるのか?」

 

「いいや……だが、楽には殺さないべ。覚悟するだべ、小僧っ子」

 

「吹き矢は使わないのか?」

 

「あの朱凶はこのムタの吹き矢を卑怯だと馬鹿にしていたべ。だからこそ、吹き矢を使わないでムタの強さをあの世にいる朱凶に教えてやるだべ」

 

 ムタという男が吹き矢を仕舞いながら信の質問に応じ、そうして懐から二本の鉞を取り出す。

 

 

 

「俺の名は信だ」

 

「ムタだべ……」

 

 そうして、信は剣を構えるとムタは鉞を構えて対峙する。

 

 

 

「いくべっ!!」

 

 そうして素早く信へと向かっていき……。

 

 

 

「ふんっ!!」

 

 信はムタが鉞を振るうより、速くムタの腹部を横一閃の軌跡を描く斬閃にて切り裂く。

 

「お前は確かに朱凶より強かったぞ。だが、俺の方がもっと強い」

 

「ふ……そう、だべな……」

 

 ムタは後ろへと倒れ伏したのであった……。

 

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