信と河了貂は秦王暗殺計画を阻止した事で帰還する事にした。そうして、今回のような緊急事態において信と連絡が取れるよう壁は連絡員を信が住んでいる村に派遣すると伝えた。
そうして……。
「では大王様、私はこれで」
「じゃあな、政」
「ああ、今回も本当に助けられた」
「お前という奴は本当に頼りになる。儂に出来る事があればなんでも頼ってくれ。必ず力になる」
「今回も大手柄だな。信」
政に昌文君、壁らに見送られながら信は貂を前にし、馬に乗って自分たちが住んでいる村への帰還を始めた。
「それで羌瘣との話はどうだった?」
「……うん、良かったよ」
信は貂が昨夜、見せなかったのは羌瘣と話をしていたのだと分かっていた。
「あのさ、羌瘣はね……」
貂は羌瘣との話で知った彼女の事を伝える。
彼女の一族である『蚩尤』は氏族ごとに分かれ、山々に点在し素質ある者には幼少の頃より、修練を積ませる。
そうして蚩尤の名を継ぐ者を輩出するのだ。全氏族がその事だけに全てをかける。
蚩尤の名を継ぐ者が亡くなった時、次の蚩尤を決めるための殺し合い、『祭』を始めるのだ。
それは氏族は勿論、身内とも……最後の一人になるまで殺し合いをするというものである。
そして、羌瘣には『
羌瘣が眠っている中、『祭』が行われると一族の中で象は羌瘣はあまりに強すぎたために他の氏族が結託して狙われる事を黙認されたまま、象は殺された。
全てを悟り、『祭』で起こった事を知った羌瘣は現蚩尤を殺すための旅に出たのだという。
「そういう事だったか……(羌瘣、お前は俺と同じだったんだな)」
大切な存在が窮地の中、関われないままに死んでしまった羌瘣の状況は自分と似ていたために信は共感する。
「……信、俺は『軍師』になる事に決めた。『軍師』になってお前を戦場で支えるよ……なにより、お前の側にいたいから……」
「そうか、そうしてくれるのは助かるし嬉しい。お前と戦場で戦えるのを楽しみにしているぞ」
「うん」
そんな話をして自分たちが住んでいる村へと帰り、数日後に貂は家から姿を消し……。
「貂を世話してくれたようだな、羌瘣」
「こっちは命を救われたからな」
河了貂は羌瘣が食客となっている者の元を紹介されたという。そこでは十分に『軍師』としての勉強が出来るとの事だった。
「貂から話は聞いた。とりあえず、詳しく話をしないか? 俺もお前に話がしたいんだ」
「……分かった」
そうして、羌瘣は信と貂が暮らしている家へと入り……。
「俺は戦争孤児でな、奴隷だった……そして、それを受け入れてたんだ。人の指示を全力でこなす。そういう生き方をするのが性に合ってたからな」
自分の事について話始める。
「だが、俺は漂に会ったんだ。あいつは俺に何の恥ずかしげもなく、むしろ誇らしげに『剣』で成り上がってみせると言ったんだ。そして、天下の大将軍になるってな……あいつのその時の熱に俺は惹かれた。ああ、俺も漂みたいに夢を持って生きたいと思ったんだよ」
漂の存在が自分にとってどういう存在だったかを語り……。
「だから、俺は決めたんだよ。あいつと誓い合い、託された『天下の大将軍』になるという夢を果たそうってな」
「……そうか」
「象についての話をしてくれないか?」
「……私にとって象姉は……」
羌瘣は象がどういう存在であったかを信の問いに応じる事で語っていき……。
「悔しくて、辛いよな。大切な存在の窮地に何もできないどころか関われさえ出来なかったのは……」
「ああ……」
「羌瘣、俺も『天下の大将軍』に絶対なってみせる。お前も敵討ちをやり遂げろ」
「勿論だ」
「敵討ちを終えたら、そして、俺の元に来いよ。お前は俺にとって戦友であり、天下の大将軍になる上で必要な存在だ。俺も出来る事があれば、なんでも頼ってくれ」
「分かった」
そう言い合いながら、二人の距離は近づき……。
「健闘を祈るぞ」
「お互いにな」
二人は目的に向けての活力を分け合い、強めるために抱き締め合う。
「(男の温もりってこんなに……象姉がこれを知ってくれたら)」
羌瘣は象が求めていた男の温もりを体感しながら、象への思いに耽る。
「(でも悪くないし、温かい)」
そのまま、貂とは抱き合って眠っていたから落ち着かないという事で信は羌瘣を背後から抱き締めたまま眠り、羌瘣は男の温もりと伝わってくる力強さに安心感などを感じ、穏やかに眠りへ落ちていく。
「それじゃあ、頑張れよ」
「お前もな」
その後は敵討ちへと向かう羌瘣を見送り、言葉を掛け合うのであった。
「よろしくお願いします、先生」
「ええ、こちらこそ」
信はその後、壁との連絡役を担う
「すみません、渕さん」
「いえいえ」
もっとも字が読めないので渕に字を読んでもらいながらだが……。