二十一話
始皇三年二月、『秦』は二十万の軍勢を
そうして、蒙驁は快進撃を続けることで僅か、一月の間に十一もの城を落としていった。
そのまま、大侵攻を続けるかに思われたが……。
「なにッ、『
大侵攻の隙を衝いて突如、過去に『秦』の六大将軍の一人である『
そして、『馬央』の次にある都市、『
これに対抗すべく、『秦』は十万の軍勢を中央一帯に緊急徴兵令を下す事で集める。
そんな中で……。
「童、信……いよいよ戦が始まります。準備は良いですね?」
「いつでも」
「ンフフ。本当に貴方は良い返事をしてくれますね、ねぇ、騰?」
「ハ、心地良い返事です」
王騎の元で数か月、武将としての修業を施された信は王騎へと返事を返し、それに笑みを浮かべながら王騎は騰へと問いかけ、騰は頷く。
「今更だけど、ごめんな渕さん。結局この時まで付き合わせてしまって」
「いえいえ、そのお蔭で逞しくもなれましたから」
信の言うように実は渕も離れる機会が無かったのもあるが王騎が信に施す修行に付き合っており、なんだかんだ信の副官として相応しい者へと鍛え上げられたりした。
そうして、信は王騎軍と一緒にとある場所へと向かう。そのとある場所とは……。
「ンフフフ、皆様ご機嫌いかがでしょうか?」
「軍議の邪魔だ、失せろ」
王騎たちが向かったのは秦の王都咸陽の王宮であり、中では軍議が行われていたようだった。そして、王騎の前に蒙武が迫った。
「ンフフフ、これは異な事を……私はその軍議に呼ばれて参上したのですけどねぇ」
「ふざけるな、誰がお前などを呼ぶというのだ」
王騎の言葉に蒙武が問い……。
「私が呼んだのだ、『秦軍総大将』を引き受けて頂くために」
昌平君がその問いに答えた。徴兵令と同時に王騎へと依頼したが、返事が無かったので蒙武に総大将を引き受けてもらおうとしたとの事……。
丞相であるために軍議に参加していた呂不韋がなら、どちらを総大将にするかと問えば、昌平君は王騎だと迷わずに言う。
これに蒙武は当然、納得いかず反論するも昌平君は蒙武は『攻め』には優れているが、『守り』は不足だと言って、軍総司令からの決定だと無理やり、決めた。
蒙武はそうして、この場から去ったのである。すると王騎は古き作法で大王が大将を任命する時は二人だけだと言って、皆に退席するように言う。
「(大事な話か……)」
信は王騎が政と大事な話をしたいからだと建前を設けた事を悟る。
少しすると……。
「皆様、中へ……これより任命式が始まります」
「それを今までやっていたのでは?」
騰が呼びかけたがその内容に外に出ていた者の一人が混乱していた。
ともかく、王騎は政によって総大将を任命される。
「まさか、王騎の元で修業をしていたとはな」
「ああ、俺もびっくりだよ。だが、しっかりと鍛えてもらった」
此処から戦場へと向かうために準備をしている信と渕の前に政が姿を見せて、話しかけてきたのでそれに応じる。
「ああ、随分と成長したようだ。だが、気を付けて行け……今回の趙軍に関してはまだ見えてない部分があるように思う」
「ああ、気をつける……だが、俺もいつか、政に任命式をしてもらえる立場になれるよう、功も立ててくる。大将軍になれるようにな」
「……そうだな、武運を祈るぞ」
「ありがたく」
政に包拳礼で返し、そうして徴収兵が集まる場へと向かったのだった……。
二
今回の戦においては殆どの村に強制徴兵令が出され、民たちが集まっていた。
「俺がお前たち百人の隊を率いる『百将』の信だ。つまり、俺がお前たちの命を預かる身だ。だが、俺もお前たちに命を預ける。全ては俺次第であり、お前たち次第だ。皆で戦い、勝利を掴もう……最後にこの地に集った勇敢なお前たちと共に戦える事を誇りに思うぞ」
信が馬に乗り、甲冑姿、腰には鞘に納めた剣を帯剣し、手には矛を持っている姿で自分が受け持つ兵たちの元に姿を現す。
「(信、また大きくなりやがって……へ、良いじゃねえか)」
「(もう、将軍みたいだぞ信。だからこそ、共に戦えるのが嬉しい)」
信が受け持つ兵の中には蛇甘平原で第四軍として戦った者たちが大半であり、尾平と弟の尾倒がまるで『将軍』の如き威風をもつ信の姿、そして自身の心を熱くさせる声に驚愕しながらも士気は上がる。
「(尾平達が言ってた事は本当だったんだ……信、凄く大きく……)」
強制徴兵のためにこの場へとやってきた里有――戦争孤児となった信を下僕として拾い育てた里典の息子は信の姿に驚愕しつつも圧倒されるも士気が湧き上がった。
「(信……また一段と大きく……あんたの元で戦えるのは本当に嬉しい)」
「(信君、貴方はやはり器が違う……)」
田有に信が蛇甘平原での戦の時、彼の伍長を務めた澤圭なども改めて信の姿に驚愕しつつ、士気を湧き上がらせる。
他にも初めて百将である信の姿を見、声を聴く者たちもいたが……。
『(この人なら、悪く無い)』
信が自分たちの長である事を受け入れた。そうして……。
『うおおおおおッ!!』
皆が信への言葉の返答として咆哮を上げるのであった……。