信は現在、秦の領土にある『馬央』を陥落させ、その地帯周辺の住人を軍も民も問わずに虐殺し、その勢いのままに『馬陽』へと侵攻している『趙』に対して『秦』は当然、防衛戦を行う事とした。
その戦に信は百人の民兵を率いる『百将』として参戦する。まず、自分が受け持つ民兵たちの元へと副官を務めてもらう渕と共に向かってて自己紹介をした。
とはいえ、大体の者は蛇甘平原での第四軍として共に戦をしているので顔見知りでもあったが……。
ともかく、自己紹介すると……。
「皆、この戦での総大将は王騎大将軍である事は聞いていると思う。俺の隊はその王騎将軍直属の特殊部隊になる」
『特殊部隊……』
「そうだ、他の隊と比べて困難な事をさせられ、蛇甘平原よりも激しい死地へと飛び込む事になるかもしれない。だが、その分挙げる武功に報酬はとんでもないものになる事は間違いない。そして、この俺は数か月ほどであるが、王騎将軍の元で『将』として鍛えられてきた」
『王騎将軍にッ!?』
「ああ、だから俺を信じてついてきてくれ。そうすれば必ず、お前達を勝利へ導き、栄光を掴ませる事を誓おう」
民兵たちへ信はそう、呼びかけたのである。
「とはいえ、証が無ければ信じる事も出来ないのは分かっている。お前たちの中で『武』に自信を持つ奴は出て来い。俺と手合わせだ。俺に勝てばそいつを百将にしてやる」
次に馬から降りて矛を軽く振り回して言う。
「やってやるぜ」
「甲冑着ていようと……ガキだしな」
「一つ、手合わせ願おう」
信の言葉に蛇甘平原で第四軍として参戦している者たちはもう、信の勇姿は理解しているので挑まないが、蛇甘平原で第二軍として参戦していた
『参った……』
誰もが信の矛の柄に軽く打ち据えられ、力の差を理解させられた。
「じゃあ、改めてよろしく頼む」
そうして、信はまず、二十組になる『伍』を組ませる。
「この隊には副官が二人、いる。一人はこの渕さんだがもう一人は、この戦に来るかどうかは分からない。いるという事だけ覚えておいてくれ」
信は渕を副官として紹介し、もう一人はこの場にはいないし、この戦に参戦しないかもしれないが羌瘣を副官にする事は決めているので言うだけは言ったのである。
そうして、『馬陽』に到着するのに二週間はかかる道中、最初の野営地での休息……。
「よし、陣を組め」
信は軽く自分が受け持つ隊に対し、いろんな『陣』を組んでいく訓練や色んな指示を出しながらの行軍など『隊』としての基本鍛錬をした。これをするのとしないのとでは全然、実戦での動きが違うからである。
そして、休息と共に食事をしたりする中で……。
「信、まさかお前が『百将』になるなんてな……おいらびっくりだ」
「これは里有様、お久しぶりです」
「ちょ、止めてくれよ。もうお前は俺より立場が上だし、それに強くて頼もしいんだから……漂との夢を叶えようとしてるんだな」
「ああ、誓い合って託された夢だからな。里典様には礼を言っておいてくれ、豪華な葬式をしてくれたそうだな」
「そりゃあ、漂はおいらもだけど皆好きだったからな……漂の仇は取ったんだろ?」
「あまり詳しい事は言えないが、それだけはした」
「なら、良いよ……よろしく信百将」
「ああ」
里有との会話や……。
「へへ、まさか王騎将軍に鍛えられるなんて、本当にお前は只者じゃ無くなってくるな、流石、俺が見込んだだけはあるぜ」
「期待に応えられて良かった。今回もよろしく頼む」
「おう」
尾平との会話……。
「俺、結婚したんだ」
「そうかっ、そいつはおめでとう。良かったな」
「ああ、ありがとよ」
尾倒との会話……。
「澤圭さん、よろしくお願いします」
「いえいえ、そんな……こちらこそよろしくです」
「
「それはこっちのほうだぜ、あの時よりもっと頼もしくなってよ」
「やっぱり『器』が違うな」
第四軍で共に参戦していた者たちと語らい……。
「第二軍だったんだってな。あの死地を潜り抜けたなら期待できる」
「へ、お前には手足も出なかったけどな」
他にも邦たちと語らい……。
「奥さんに子供もいるって、じゃあ守るために戦うんだな。立派な英雄だ」
巨漢で恰幅の良い体型の
「良い剣だったぞ」
祟原の剣を褒めたり……。
「ではその幾多の戦闘の経験から何かあれば、知恵をお貸しください」
老人だが幾多もの戦を経験している老兵である
そうして……夜深くになろうかという時間帯。
「ふっ、しっ、はぁっ……来てくれたんだな」
「仇は魏から趙に移っていたからな」
矛を振るっての自己鍛錬をしていた信は見知っている気配を感じたのでその者へと声をかけ、それに返答があった。
「それは俺にとっては幸運だったな。お前と共に戦えるのが一番、嬉しいぞ羌瘣」
「それは私もだよ、信」
鍛錬を終え、喜びの笑みを浮かべて羌瘣に言うと彼女も笑みを浮かべて言う。
「お前も嬉しいだろう、燕呈」
「はい、お久しぶりです『蚩尤』様」
信の問いに闇夜から『朱凶』の若き長である燕呈が姿を現す。
信はこの戦において敵陣の視察や戦場の斥候など裏方の仕事を担ってもらうために燕呈を始め、十数人ほどの精鋭をも伴っていたのである。
「止せ、『蚩尤』と『朱凶』の関係はとうに終わっているだろう。共に戦う関係にはなるようだがな」
羌瘣は燕呈にそう言った。
ともかく、その後は羌瘣の事を隊の者たちに紹介するなどして戦場へ向かって行軍……休息や就寝するための野営地では隊としての鍛錬、個人的な鍛錬は早朝や深夜に羌瘣と共にやったりもし、その他では信は百人の兵たちと常に交流をして仲を深めていく。
そんな日々の中で『趙』が虐殺をした事による恐れで千人の脱走者が出るなどの事件があった。
しかし……。
「全軍、前進っ!!」
『ウオオオオッ!!』
途中で合流した総大将の王騎が騎馬隊と共にそう号令を出すと民兵たちも気合いを入れた咆哮を上げる。士気を以前よりも湧き上がらせられたのである。
「大将軍は本当に凄いな……」
改めて信は大将軍の威風というものを『民』側の視点で感じたのであった……。