キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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二十三話

 

 『趙』によって侵攻され、壊滅の危機にあった『馬陽』であるが間一髪のところで総大将を王騎大将軍が務め、率いる十万の『秦軍』が到着した事で救われた。

 

 『趙軍』十二万が迎え撃つべく、横陣を敷くのに対し王騎は騎馬隊にとっては機動力を封じられる地形の荒地、『乾原(かんげん)』へと横進。

 

 これを放置し、『馬陽』を取ろうとすれば背後を取られる事になるので無視はできず、そうして『秦軍』と『趙軍』は乾原を戦場に陣を敷いて対峙する事となった。

 

「信、頑張れよ」

 

 軍師としての勉強に励んでいる河了貂は昌平君を同じ師とし、軍略を学んでいる兄弟子でこの戦に副将として参戦している蒙武の息子である蒙毅(もうき)、やはり同じく昌平君の元で学んでいる者たち数人と乾原近隣の古い山城跡の上からこの戦場を観察していた。

 

 軍師になるためには勉学だけでなく、戦を実際に見る事も大事。ちゃんと昌平君からの許可を取って見学に来たのである。

 

 この山城後の上からは『秦軍』と『趙軍』の陣形が見渡せている。

 

 貂は戦場を見渡しながら、この戦に『百将』として参加しているだろう信へと応援の意思を言葉に込めて送った。

 

「……ああ、頑張るさ」

 

 戦場にて信は中央の陣、二万の蒙武軍の後ろに配属されている同じく二万の第一軍の更に後ろで自分の隊と共に待機しつつ、貂がこの場を見ていて声をかけてきたのをなんとなく感じ取ったので小声で応じる。

 

「信?」

 

「何でもない」

 

 信は羌瘣の声に応じながら、意識を戦場へと戻した。

 

 戦場ではどちらも今か今かと進軍の時を待って、睨み合っているのだ。

 

「突撃っ!!」

 

「殺せぇっ!!」

 

 蒙武軍が突撃をするとそれに中央の趙軍が対抗する。そうして蒙武が先頭となって驚異的な武を棍棒に込めて振るい、向かってくる者を粉砕していった。

 

 しかして秦軍の右軍、第二軍前線を『趙軍』の猛将である渉孟(しょうもう)が先陣を切って蹴散らしていく。

 

 

 

 

「おい、王騎将軍が本陣を離れたぞ」

 

 一部の者がそんな事を言う。

 

「(重要なのは左か)」

 

 信も王騎将軍が本陣を離れて左陣へと向かうのを確認しており、彼が本陣から離れてまで向かったのであれば、重視しているのはそちらだと思考する。

 

「皆、準備しておけ。俺達に声がかかるぞ……左の戦場で奇襲しろとな」

 

『なっ!?』

 

 交戦を始めた左陣を見ながら、言う信の言葉に隊の殆どが驚愕する。

 

「当然、いきなり奇襲しろという事じゃないぞ。交戦が始まった時にだ……虚を衝くからこそ、奇襲になるんだからな」

 

「だからってたった百人で奇襲なんて……」

 

「少ない兵数だからこそ、注目されないんだよ」

 

「その通り、童、信の隊には今から左軍と交戦している趙軍二万を率いている馮忌(ふうき)を討ち取ってもらいます。童、信が言うように交戦している両軍の側面へ奇襲してもらってね」

 

 信が隊の者に返答していると王騎が現れ、信の言葉に同意し任務を与えた。

 

 

 

「重要な任務、承りました」

 

「ええ、今こそ私たちが修行をつけてあげた成果の発揮しどころですよ。貴方なら出来ると信じています」

 

「はい、ご期待に応えます」

 

「ンフフフ、ならば一つ褒美の前払いを……『飛信隊(ひしんたい)』。この名を貴方の隊に与えます。重要な任務ですから、失敗は許されません。よろしく頼みましたよ百将、信」

 

「はっ!!」

 

 背を向けて去り行く王騎の言葉に信は包拳礼で応じた。

 

 

 

 「良し、今から作戦を説明しよう」

 

 信は隊の者たちを集めて作戦の説明を始めた。

 

「今、標的の趙軍二万は秦左軍一万と交戦している。だから、今は趙軍の注意は完全に秦軍の正面に向いているんだ。良く出来た軍っていうのは指揮系統が全体を支配していてな。この状態は逆に上の指示が無ければ軍としての力は発揮できない。密集地に小隊が割り込めば混乱する。そういう部隊を貴方なら何度か見ましたよね、魯延さん?」

 

「うむ、確かにそういう部隊を見てきたよ」

 

「とはいえ、敵の側面に回り込むまでが大変だけどな。見つからないよう茂みの陰に沿って移動する。ただ茂みの中には敵も見張りを置いているだろう、羌瘣はその見張りの排除を頼む」

 

「分かった」

 

 こうして信は馬の口に板を噛ませ、馬蹄は布で包んでゆっくりと手綱を引いて歩かせるというやり方で茂みの陰に沿っての移動で隊の者たちを先導。

 

「ぐおっ!?」

 

「お見事」

 

「お前達もな」

 

 信たちが茂みの陰を移動しているその周辺や丁度、目撃できるところにいる見張りを羌瘣と別に信から指示を受けていた『朱凶』が始末していく。

 

 

 

「到着したぞ、ちょうど真横だ…」

 

 信たちは丁度、交戦している秦軍と趙軍の真横に到着する。そうして羌瘣が現れるのを待ちながら、馬の口に噛ませた板を外し、馬蹄を包んでいる布も外す。

 

 そうして……。

 

 

 

「良いか、これより俺たちは突撃を開始する。皆、怖いだろう……だが、趙軍は『馬央』の者たちを虐殺した。なら他の地帯の者たちも虐殺するだろう。お前たちの家族もだ……だからこそ、奴らを此処で止めなければならない。家族を守るために戦うんだ。勇気を奮って俺に続いてくれ、やる事は今、それだけで良い」

 

『……』

 

 信の語り掛けが皆の心に響いていき……。

 

「俺が勝利への道を切り開く……皆、突撃の陣形を組め」

 

 そうして、信は馬に乗って先頭へ皆はそれに応じた陣形となり……。

 

「良し、『飛信隊』突撃だぁぁぁっ!!」

 

『うおおおおおおおおっ!!』

 

 そうして信が馬に乗って駆け走り、先導する後へ『飛信隊』の隊員たちは続いていった。

 

 

 

 

 

「ふしっ!!」

 

 信は趙軍の側方から突撃し、絶大なる武威を込めて矛を暴嵐の如く振り回し、轟閃を乱舞させていく。

 

『ぅぐああっ!?』

 

 瞬く間に次々と信の前にいる敵は屠られていく。その武威と勇姿は彼の背を追う『飛信隊』へと伝播し……。

 

『はあああああっ!!』

 

『な、何だこい……うぐあああっ!?』

 

 気合十分、戦意十分に自分たちの突撃の邪魔となる者たちを屠っていく。突然の奇襲とあって趙軍は混乱もあって対応できずにやられていく。

 

「止めろ、止めろぉぉぉぉっ!!」

 

 奇襲に気づいて止めようと趙軍は対応しようとし、信の前にも幾多もの兵や隊長などが立ちはだかるも……。

 

「しいっ!!」

 

 彼の武威の前に散っていき、突撃の速度を遅らせる事は敵わない。

 

 

 

「な、何なんだ。なんなんだよこいつらはああっ、うぎっ!!」

 

 次から次へと仲間が散らされていく事に趙軍は恐怖していき、対応しようと信たちの元へ行けば陣形は崩れてゆく。

 

 

 

「(無駄だ、信はお前達には止められんよ)」

 

 馮忌率いる趙軍と交戦しているのは王騎の配下である干央(かんおう)は『飛信隊』の突撃で乱れ始めた軍の隙を衝いて自身も馮忌の本陣へと前から突撃していく中で信が馮忌の本陣へと真横から突撃していくのを目撃する。

 

 王騎の元で修業していた信は当然、王騎の配下にも鍛えられている。故に干央は信の実力を知っているのだ。

 

 

 

「(お前の獲物だ、討ち取れ信)」

 

 干央はそう言い……。

 

「な、あれが百将だって……」

 

「やっちまえ、信っ!!」

 

 山城跡から観戦している蒙毅は信たちが百人で馮忌が率いる軍勢を真横から食い破り、そうして馮忌がいる本陣へと向かっていくのを見ながら、信の武威に驚愕しており、貂は叫んだ。

 

 

 

 

「く、くそぉっ!?」

 

「あのガキ、なにもっ!?」

 

 本陣へと迫ったために一気に加速する信の突撃を阻止しようと本陣の精鋭たちも向かっていくが、一瞬で蹴散らされていく。

 

「(お、おのれおのれおのれおのれおのれッ!!)」

 

 

 馮忌は王騎によって突撃の隙を創るように動かされた事を察し、悔しがりながら……。

 

「おのれ、王騎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

 自分の前に信が接近し、矛を振るおうとするのを見ながら馮忌は王騎へ恨みの断末魔を叫び、そうして信が矛を一閃した事で首を刎ねられる。

 

 

 

「敵将、馮忌……『飛信隊』の信が討ち取ったぁぁぁぁっ!!」

 

『うおおおおおッ!!』

 

 信の宣言に『飛信隊』と干央の軍が喝采を上げる。

 

 

 

「お、おのれぇぇ、がっ!!」

 

 信へとまだ残っている主を討ち取られた馮忌軍が向かうも返り討ちに……。

 

 

 

「蹴散らせ、『飛信隊』!!」

 

『はああああああっ!!』

 

 そうして、信は指揮系統を失った馮忌軍を『飛信隊』と共に掃討にかかり、当然、干央軍もこれに加わり、馮忌軍二万はその殆どが討ち取られたのである。

 

 

 

「良くやった、信」

 

「ありがとうございます、干央さん」

 

「信、君はどこまで凄いんだ」

 

「壁さんも良く戦い抜いたじゃないですか」

 

 信は干央、同じ戦場で戦っていた壁に対応し……。

 

「『飛信隊』、俺達の勝利だ。声を上げろぉぉぉっ!!」

 

『おおおおおおおおっ!!』

 

 そうして、信は『飛信隊』に勝利の雄叫びを上げさせたのであった……。

 

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