『趙軍』による『馬陽』侵攻の防衛のために駆け付けた『秦軍』の戦は始まって二日目。
中央陣を務める『秦軍』の副将である蒙武は昨日と同じく自分を先頭として突撃によって『守備』に優れる李白の陣を粉砕した。実は昨日の時点で崩壊させる事は出来たのだが、敢えて深入りしなかった。
強制で徴収された事による民兵の士気が低いために犠牲が大勢出てしまうからだ。しかし、昨日ある程度、蒙武自身の圧倒的武とそれによって押されていく敵兵の姿を見せる事で蒙武は民兵たちに自信を与え、士気を上げたのだ。
そうして、李白が包囲しようと陣形を変えながら動いてきたのですら自身の圧倒的な武とそれによって影響を受ける蒙武軍の兵の奮戦により、構わず粉砕していったのである。
『秦軍』においては中央陣を務める蒙武軍が『主攻』であり、圧倒的『個』の武が中央の戦況を一気に掴み取っていく。蒙武は十分に『主攻』の役割を果たしたのだ。
そして、同じ頃――猛将である渉孟らを主力とした『趙』の主攻が襲い掛かろうとしていた『秦』の右陣では信が渉孟へ一騎打ちを申し込み、出てきた渉孟の武に優れる隊長らを倒して信は渉孟が一騎打ちを受け入れるようにして、後はそのまま、一騎打ちにて排除したのである。
これにより、信が率いる『飛信隊』は改めて信の武威と勇姿に士気を上げ、昨日、渉孟の武威を思い知らされ、恐れなどで士気が下がっていた秦軍の士気を渉孟を討ち取る事で復活させつつ、跳ね上げた。
人を率いる上において信頼を得たり、やる気を上げたりするのに一番良いのは『武』で兵士たちの心を掴む事である。
強い者に従うというのは人間だけでなく生き物として根源的な習性のような者なのだから……。
ただし、当然これには欠点も存在する。強い者がやられればそれに率いられていた者はやる気を失くしてしまうし、恐怖してしまう。
「う、うわああッ、しょ、渉孟様までもがやられちまったあっ!?」
「あ、あのガキはば、化け物だぁぁぁぁっ!!」
隊長たちだけでなく、渉孟でさえ討ち取られた事で渉孟の兵士たちは信に恐怖し、士気が下がり、あまつさえ逃げ始めた。
「くっ、おのれよくも渉孟様をぉっ!!」
一部は複数にて渉孟の仇を取ろうと信へと襲い掛かるも……。
「はあっ、飛信隊一気にいくぞぉぉっ」
『おおおおっ!!』
返り討ちしながら『飛信隊』を率いて渉孟軍の兵士たちを掃討にかかる。
「我等も『飛信隊』に続けぇぇっ!!」
『おおおおっ!!』
無論、秦右陣の軍もこれに加わる。
「お、おのれ…し、秦軍は皆殺し、だ」
無論、これを『趙』軍は許さない。
渉孟と同じく主攻を務める長い白髪に幽鬼のような風貌の男でかつて秦の六代将軍の一人である白起が引き起こした『長平』の四十万人の生き埋めの虐殺より奇跡的に生還した万極。
無論、秦に対する憎悪は深く、激しく大きいものであり率いる部下も又、万極と同じように生き埋めから奇跡的に生還したり、『長平』にて親などを失った遺児で構成されているため死んでも秦兵を殺してみせると殺意に溢れている。
その万極軍が渉孟軍の掃討に掛かっている秦軍へと襲い掛かり……。
「ま、まずはお前からだ、し、死ね」
一騎打ちにて渉孟を討ち取った信へと長剣を持って襲い掛かり……。
「お前がな」
「がっ!?」
矛にて轟閃を振るい、彼の剣ごとその体を断裂してみせた。
「し、死ねぇぇぇっ!!」
「お前らがな、虐殺者共っ!!」
信は万極の部隊が『馬央』の地帯に住まう全ての者を虐殺した事を聞いているので彼らの憎悪と殺意を上回る領域のそれを込めて屠っていく。
「敵将、万極。飛信隊の信が討ち取ったぁぁっ!!」
敵将を討ち取った事を叫びながらも周囲に気と視線を配り、味方とて気が入り乱れている戦場を観察しており……。
「拙い、退くぞ」
万極と同じく秦軍を食い止めようと対抗している左目が失明しているのが分かる程の傷があり、歴戦の将といった雰囲気のある男、公孫龍は自分たちが押されている事や李白が退却し、そのまま残った李白軍一万を壊滅させてこちらへと来る蒙武軍を見ており、瞬時に退却しようとしていたが……。
「ふっ!!」
信が戦場の観察をしながら、頭の中では盤上化しており公孫龍がいる場所を予測していた。そうして最短の行き方を見出しながら、巧みな馬術で駆け抜けていく。
これもまた、王騎との軍略の勉強や鍛錬あっての成果だ。
そして、信は退却していく公孫龍に向けて矛を逆手に持ち替え、肩に抱え上げると大きく後ろに引いて、全力で投擲した。
「ごっ!?」
公孫龍は横腹を深々と飛来してきた矛で貫かれ、馬から落ちる。
「敵将、公孫龍。飛信隊の信が討ち取ったぁぁぁっ!!」
『うおおおおおおっ!!』
こうして、信は『趙』軍の主攻を務めていた三人の将を討ち取ったのである。その後は背の剣を抜いて指揮系統を失った渉孟、万極、公孫龍の軍を掃討に掛かりつつ、矛の元まで行って公孫龍の下から引き抜き、そのまま矛に変えて敵兵を屠っていく。
蒙武軍が加わった事もあって、数万の『趙』兵が掃討されていった。
「ンフフフ。まさか、まさか三人もの将を討ち取ってしまうとは流石に驚きですよ、童、信……実に大手柄です。ねぇ、騰」
「ハ、見事なものです」
信の大手柄に王騎と騰から称賛を受けた。
「やはり、貴様は秦にとってなくてはならない存在だ。良くやった」
蒙武もまた、信を称賛した。
「ありがとうございます」
信は王騎たちの称賛に感謝を示すのであった。
そして、今日の戦いを軍師としての勉強のために観戦していた者たちは……。
「『飛信隊』の信……この秦にとって英雄になり得る存在だ。凄まじすぎるよ」
「当たり前だろ、なにせ天下の大将軍になろうとしている男だからな」
蒙武の息子である蒙毅は信の活躍に男として惹かれており、河了貂は誇らしげな表情と仕草をしながら言ったのである。
『趙軍』総本陣の宿営では……。
「渉孟、万極、公孫龍が秦の『百将』に討ち取られただと……なんだ、それは……なんだ、それはああああああああああっ!!」
この『趙軍』の総大将代理を務める軍師が
「三人とも昨日、馮忌を討ち取った『飛信隊』の信に討ち取られたとの事で……とんでもない鬼人を秦は手に入れたようですな」
「く、蒙武でさえも凄まじいというのに……」
四人もの将を屠った信という存在に趙荘と李白は戦慄し、絶句する。
無論、兵士たちも同じく『飛信隊』の信に恐怖を抱いていくのであった……。