キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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二十六話

 

『馬陽』での秦軍と趙軍の戦が始まり、三日目。

 

 戦局は大きく動いた。それもそうだろう、信によって馮忌に渉孟、万極と公孫龍ら趙軍の武将の大半が討たれているためである。

 

 ならばもうやる事は一つだ。

 

 

 

「全軍、突撃ぃぃぃぃっ!!」

 

 蒙武を中心に全軍が『趙軍』の総本陣へと突撃を始めたのである。

 

 信が率いる『飛信隊』は王騎の配下の中で随一の武を有する第一軍軍長の録鳴未(ろくおみ)と第四軍軍長の干央の軍に加わって進軍する。

 

 しかして趙軍は山という利を活かして砦を築いていた。その防備はかなりのもので下手に登れば、柵の隙間から槍で貫かれ、或いは矢で射抜かれ、岩から落とされと高所を取られているがゆえに不利となる。

 

 だが……。

 

 

 

「おおっ!!」  

 

 信は馬から降りると矛を片手に持ったまま、なんと岩壁を駆け跳ねた。

 

 凄まじき身軽さと速さであり、凄まじい軽功の技がそこにある。

 

『は!?』

 

 そうして柵を飛び越えて着地した信に敵兵は驚愕と混乱で動きが止まり……。

 

 

 

「しいっ!!」

 

 暴嵐の如き武威を体現する矛の轟閃乱舞により、矛の穂先により切り裂かれ、柄や石突が打ち砕かれ屠られていく。

 

 

 

 そうして、砦の防備に間隙は生まれ……。

 

 

 

「うおおおお、信に続けぇぇっ!!」

 

『おおおおっ!!』

 

 当然、飛信隊はそれに続いていき……。

 

 

 

「……山猿か何かか、お前は……我等も『飛信隊』に負けるなぁっ!!」

 

 録鳴未は信の軽技に絶句しつつも呟きながら、『飛信隊』に続いていく。

 

 

 

「まったく、頼もしいにも程がある。我等もいくぞ」

 

 干央も信が味方でいる事に頼もしさを感じて続く。

 

 

 

 そうして、山頂にある敵の総本陣へと辿り着いたのだが……。

 

 

 

「(まあ、そりゃあ姿を隠すよな)」

 

 総本陣はもぬけの殻であった。『趙軍』は総本陣を移動し、山中の中に潜む事にしたのだ。

 

 まあ、これは信もだが王騎も読んでいる。そして、だからこそ信は既に対策をしていた。

 

 戦の間に遠くから『朱凶』たちに敵陣の動向を監視させているし、当然、今は移動している『趙軍』を追跡させながら移動先の本陣を探らせている。

 

 更にこれは出来そうならという条件、無理をするなと言い含めた上で……。

 

 

 

「ひょ、兵糧庫を焼かれただとぉっっ!?」

 

「な、何故兵糧庫の場所が……」

 

 実は本陣を移動する事は決めていた『趙軍』であるが、その本陣の移動のどさくさに紛れていたらしき、『秦軍』の工作兵らしきものらによって移動しようとしていた兵糧庫を焼かれたのである。

 

 占拠している『馬央』から兵糧を要請し、運んでもらう事は出来るが兵糧庫を焼かれている時点で注意深く動かなければならない。

 

「ぐぐ……なぜ、こんなにも」

 

 想定していたよりもかなり、追い詰められている状況に趙荘は苦悩するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本陣を移動し、山中に潜む『趙軍』を追跡するためにもぬけの殻である『趙軍』の総本陣をそのまま、王騎は『秦軍』の総本陣とした。

 

 こうして、夜中……。

 

 

 

「主……お望みのものです」

 

「ご苦労……兵糧庫を焼いたのは本当にお手柄だったぞ。燕呈」

 

「主の活躍により、趙軍は怯えており、隙だらけでした」

 

 兵糧庫を焼き、今は山中に潜んでいる『趙軍』の総本陣を見つけた『朱凶』の長、燕呈がその地図を信に渡し、信は労う。

 

 

 

 そうして、『趙軍』の本陣の地図を王騎がいる天幕へと王騎に鍛錬してもらった過程で知り合いである王騎軍の者に渡してもらうよう頼んだ。

 

 

 

 後は夜の中、もしかすれば襲ってくるかもしれない『趙軍』を守備兵として備えている『飛信隊』の元へと向かっていると……。

 

 

 

 

『う、うわあああっ!?』

 

 

「っ、くそっ!!」

 

 

 

 血風、匂いに悲鳴……なにより凄まじき悪寒がして信は急いで戻れば……。

 

 

 

「ぬんっ!!」

 

 黒い長髪に巨体にしてそれに見合う逞しき肉体を修行僧のような服装で包んだ男が鎌のような形状の穂先の大矛を振るい、『飛信隊』の何人かを纏めて屠っていた。

 

 

 

「ふっ!!」

 

「ぬ……」

 

 信は更に『飛信隊』を襲おうとする大男へ向かって、矛を全力で投擲すると闇夜の中だというのに大男は反応して矛を振るいて、信の矛を弾きながらも仰け反らされたのが想定外だったのか、表情を歪めた。

 

「そこまでだ、俺は『飛信隊』の信……お前の名は?」

 

「お前か、我を呼んだのは……(われ)武神(ぶしん)龐煖(ほうけん)(なり)!!」

 

 背の剣を抜きながら信が名乗り、相手へと尋ねれば威風堂々と龐煖は名乗る。

 

 そして、龐煖という名は……。

 

 

「龐煖って、趙軍の総大将の……」

 

 そう、今回の趙軍を率いる総大将の名であり……。

 

 

 

「(この男が王騎将軍の大切な人を奪った……)」

 

 信は王騎から今回の総大将は王騎の妻になる筈の人物の命を奪った仇であると少しだけ教えてもらっている。

 

 

 

「その武神様が何の用だ?」

 

「知れた事、我が内に潜む荒ぶる神は他の強者の存在を一切許さぬ。故に子供であろうと命を貰うぞ」

 

 龐煖は信の問いにそう答える。

 

 

 

「ふっ……ふくくくく……そういう事なら、堂々と戦場に出てきて戦えば良いだろう。なのに夜襲なんて狡からい真似して、弱い者虐めして……大した武神様だなぁ、龐煖んんっっっっ!!」

 

 その問いに信は含み笑うと反論しつつ、次の瞬間激情に殺意と憎悪を込めて龐煖へと向かっていったのであった……。

 

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