『秦』と『趙』の戦は今夜、劇的な変化が訪れていた。
何故なら、今の今まで戦場に姿さえ見せていなかった『趙軍』の総大将である龐煖がなんと信たちのいる『秦』の第四軍にたった一人で夜襲を仕掛けてきたからである。
そうして……。
「しぃああああっ!!」
「むぅんっ!!」
信は龐煖と激戦を繰り広げている。
「(強いな)」
信は自身を『武神』と語る龐煖のそれは誇張ではないと実感していた。彼の振るう矛の威力は壮絶にして圧倒的であり、信が矛を使った時のそれと比べても上であり、技量も相当に卓越していた。
故に矛の間合いだけは見極めつつ、絶対に穂先とは打ち合わない。穂先より更に奥、あるいは柄の方に剣を当てるようにして受け流しているし、捌いている。
それはつまり、近距離での間合いを挑んでいるのだ。
相手の暴威が如き武威を潜り抜けつつ、的確に精巧に鋭く流麗な剣舞にて四肢や健を狙って動きを止める事から始めていた。
「小癪」
「ちっ!!」
その精巧な一撃を僅かに避けるなどして対処しながら反撃を繰り出し、信はその一撃を剣を盾に受け止めながらも勢いには逆らわない。暴風の流れに乗って舞う木の葉が如く、飛ばされながらも直撃だけは避けた。
「……ふう、おおおおっ!!」
地面を転がる事で勢いを殺して立ち上がると龐煖へと疾走し……。
「むうんっ!!」
龐煖はタイミングを合わせるようにして矛を振り払い……。
「く、ううっ!!」
信はむりやり動きを停止させる事で甲冑を削られ皮すら浅く切り裂かれながらも……。
「せやあっ!!」
「づうっ!?」
すれ違うようにして動きながらも龐煖の腕に剣を当て撫で摩るようにして剣を振るい、切り裂いていく。
「はああああっ!!」
そうしてすかさず後ろから龐煖へと信は向かっていき……。
「舐めるなぁっ!!」
龐煖が武威を込めて大きく信へと振り下ろす。
「づ、うあああっ!!」
少なくとも片腕を負傷させられているのに武威には陰りどころかさらに激増しているとしか思えない程の勢いを有しており、信は剣で受け流すのに必死で……。
「はあっ」
「が!?」
強烈なる蹴りを腹部に打ち込まれ、大きく吹っ飛ばされて転がされる。
「信!?」
「ま、負けるなぁ!!」
「信、頼む」
信と龐煖の一騎打ちが始まって少し、信は常に劣勢へと追い込まれており、何度も浅い傷や今の様に致命的な一撃すら受けている。しかし、『飛信隊』に他の秦軍の者たちは心配しながらも応援をしていた。
「ぐ、げほげほ……本当に強いな、龐煖」
何故なら、何度傷つこうとそして倒されようと信は諦めないし、立ち上がってみせるからだ。
「……何故だ、なぜお前は立ち上がれる?」
龐煖は何度も追い詰め、更には致命的な一撃ですら与えているのに未だ倒れず、しかも段々と自分との戦闘に対応し、とうとう、腕にすら攻撃を命中させた信に戸惑っていた。
「分からない? そうか、分からないか……お前は孤高の存在なんだな。誰かに応援してもらうその心強さと力を理解出来ないなんてなぁっ!!」
そうして、信は果敢に攻め込んでいき……。
「ふっ!!」
龐煖は矛を振り下ろす。これは完全に信の動きを読み取った上であり、絶対に対処できないもののはずだったが……。
「ふっ!!」
今度はこの一撃を完璧に受け流して逸らし、地面へと叩きつけられたその矛の柄へと足をかけ……。
「はああああっ!!」
「うっ!!」
一気に龐煖へと駆け上がりながら、首を撫で切り裂く斬撃に彼はなんとか首を後ろへと逸らす事で皮を裂かれながらも対応し……。
「幕だ」
そして、矛を振り上げながら信の右下から左肩までを切り裂く轟閃を繰り出す。
「っあ!?」
信は着地した直後でそれを回避しきれずに切り裂かれ……。
「見事だったぞ」
そんな信へ止めの一撃を振り下ろした龐煖だったが……。
「ああ、おまえがなっ!!」
「があっ!?」
信は龐煖が矛を振り下ろしたとほぼ同時に超速の勢いで突撃し、そして彼の胸を剣の刺突で貫き、心臓を穿った。
信は龐煖が切り上げを繰り出した瞬間、脱力する事で致命的な一撃の威力を減少させそうして、隙を晒した龐煖へ突撃したのである。
こうして、龐煖は信と共に倒れ……。
「……が、は、ぐ……わ、我が……負けた……の……か?」
「ああ、龐煖。確かにお前は強い。だがな、一人で戦うより誰かと共に戦う、或いは誰かの想いを継いで戦う。誰かと共にある者の方が強いし、勝つんだ。だから、
倒れ伏しながら、また負けた事に信じられない様子の龐煖へ信は告げた。
「……そう、か……なら、ば……」
自分を破ってみせた以上は真実なのだろうと納得しながら、龐煖の命は尽きた。
「敵総大将、龐煖……討ち取ったぁぁぁっ!!」
『おおおおおおおっ!!』
信の宣言に『秦軍』の皆が喝采の咆哮を上げる。
その後は信の伝言にて敵本陣へと向かった王騎たちが龐煖を討ち取った事を告げながら、その首を晒した。
「……ば、馬鹿な……そ、そんな、こんなことが……」
「……もう終わりだ」
総大将が討ち取られた事で今回、実は王騎を殺す事こそを目的としとある存在からそのための策も与えられていた趙荘と策については知らなかったが、ともかく勝敗がついた事を悟った李白は残りの兵たちと共に降伏するのであった。
そうして、秦軍と趙軍の戦は秦軍の勝利で終わった。
「龐煖が……討ち取られた!? どうやら、秦には何かあるようですね」
趙荘に王騎を殺すための策を授けたとある存在は驚愕しながらも自分の策を狂わせた何かに対し、考えを巡らせるのだった……。