三十話
大侵攻をしようとした『趙』を返り討ちにし、大勝利した『秦』。
それから時は一年経過した、始皇四年である。
勢い付いている『秦』の勢いを削ごうとしていて、更に示し合わせているかとすら疑う程に『魏』、『韓』、『楚』が度々、国境を侵して戦を仕掛けてきたのである。
戦といっても国どうしの規模においては小競り合いといえるような形であったが……。
とはいえ、そうした戦での前線にて戦う者達においては命を賭けた激突で大きい戦だろうが、小さい戦だろうが関係ない。
そして、そうした『魏』、『韓』、『楚』が仕掛けてくる戦の前線にて活躍し続ける部隊がいた。
独立遊軍かつ、特殊部隊の役割を持つが故にどの戦の前線にも駆けつけられる三千の兵からなる『飛信隊』だ。
『おお、飛信隊だ』
『飛信隊だとっ!?』
『秦軍』においては『飛信隊』は頼りになる存在であり、強力な味方だ。
『敵軍』においては絶望的な相手だが……。
「はああっ!!」
まず『飛信隊』を率いる三千人将の信の人馬一体の技にて発揮される速度はあっという間で敵においては接近にすらなかなか気づけない、神出鬼没すら思えてしまう程だ。
そして何より、彼が振るう矛の武威と技は超絶にして無双の域を思わせるもの……標的となった者は碌に抵抗できず、蹂躙されていく。
そんな彼の武威と勇姿は『飛信隊』どころか『秦軍』を鼓舞し、士気に戦意を引き上げていくのだから、堪らない。
「はあっ!!」
更に副将を務める羌瘣は信の武勇によって彼に抵抗するため、意識や力を割かざるをえない敵の間隙を容赦なく衝いていくのだから、なお堪らないだろう。
「あそこに行くぞ」
「私達はあそこだ」
更に信は勿論、羌瘣の指揮はどちらも的確であらゆる戦況の変化も臨機応変に対応出来るのだから……。
無論、信と羌瘣が飛び抜けているが他の長も二人による調練などもあって良く付いていけるし、支える事が出来る。
そう、『飛信隊』は『秦』にとっては途轍もなく優秀なもので、『敵』にとっては恐るべきものだ。
「〜〜殿は此処へ、〜〜殿は此処での待機をお願いします」
まず、戦術の組み立てからして信は見事で場合によっては軍師や参謀も担当できる程である。
そうしたものだけでなく、場合によれば『朱凶』からなる部隊を用いて敵軍を視察や潜入などもさせながら……。
「くそ、夜襲だとっ!?」
夜襲を含めた奇襲もしたり、敵の斥候を排除した上での伏兵戦術、険しい場を進んでの襲撃と正攻法から奇策染みたものまで千変万化を体現した戦い方で場合によれば敗戦間近の戦況ですら、勝利へと導き続けた。
それにより、あらゆる前線にて援軍などといった形で『飛信隊』は呼ばれていき、そうして活躍していく。
そんな活躍は多くの者たちの目を惹き……。
「君が『飛信隊』の信か……」
「そうだが、貴方は?」
『韓』との戦が行われる前線に呼ばれた時、貴士族の恰好をした信と同年代の美少年が訪れてきた。
「俺は秦軍特殊三百人隊、『
「蒙武将軍の……確かに顔つきは似ていますね、雰囲気や身体つきは大分違いますが」
蒙武に比べて蒙恬は痩身で纏う雰囲気は華やかの物も纏っていた。
「そう都合良く、父上の武力は受け継げなくてね」
「とはいえ、中々の武才の持ち主だと見受ける。それなりにやりますね」
「ふふ、『趙』との戦で武勇伝を刻んだ君に言われると光栄だな……俺の事は蒙恬と気軽に呼んでくれて良いし、接してくれて良いよ」
「なら、俺の事も信と呼んでくれて良いし、接し方もそれで良い。年も近いだろうしな」
そうして、二人は握手を交わす。
「まあ、お手並み拝見させてもらうし頼らせてもらうよ。それじゃあ、武運を」
「俺もどれくらい、やるのかお手並み拝見させてもらおう……武運を」
お互い相手の武運を祈りながら、それぞれが配置された陣へと向かうのであった……。