『秦』が大きな戦を仕掛けようとしている『魏』であるが、この国には趙王とそりが合わず、内戦紛いをする羽目となり、亡命した元趙の三大天の一人である廉頗がいた。
そしてこの戦に参戦したという情報が王騎によって総大将である蒙驁へ伝えられたのだ。
実は蒙驁は廉頗と若い時から何度も戦っており、その度に負けては敗走していた。この事からプレッシャーから兵士に扮装して陣営を徘徊する癖を出していたところ、信が相談に乗り、こうして蒙驁は信に言われた『勝ち逃げ』を果たすべく闘志を新たにしたのであった。
『これより第一軍再編成を行う』
夜が明け、朝日が昇る頃に号令がかかった。
少し前に『秦軍』を襲い、信によって討ち取られた廉頗四天王の一人である輪虎によって減らされた将の不足を埋めるための再編成。
基本は副将の繰り上げだが、隊を解体して他の増兵に回す必要もあった。
「三百将を二人、臨時的に千人将へ昇格させる。この昇格に応えられるよう、しっかり、手柄を立てるように……」
そうして、『楽華隊』の蒙恬と『玉鳳隊』の王賁がそれぞれ七百人増兵しての千人将になる事となった。
こうして再編成を終えると進軍を開始する。
「千人将への昇格、おめでとう。とはいえ、そもそも元から蒙恬は千人将の筈だったんだよな?」
「まあね、爺ちゃんは過保護だから……爺ちゃんと言えば、昨日は気落ちしていたようだったのに今日はやけに気合入ってたんだけど、信が何かしたのか?」
流石は身内だからなのか、蒙恬は蒙驁の様子を分かっていたようだ。
「なんでそう思う?」
「勘だよ、そうだったら面白いなってのもあるけど」
「昨夜に偶々、二人で話せる機会があってな。出来る限りの鼓舞をしてみた」
「……そうか、それはありがとう」
「礼を言われるような事じゃない」
進軍中に信は蒙恬とそんな会話を交わしたりもした。
そんな中で蒙驁の二人の副将も奮戦をする事で秦軍は合計で十六もの城を落とす。
この三軍は足並みを揃える事で秦が魏へ侵攻を開始しておよそ二ヶ月、相対しようとする廉頗も含めて『山陽』を決戦の地に集結し始めていく。
そして、蒙驁より先に『山陽』の地にて蒙驁の副将の一人である
友軍を待つ王翦軍のそれに応じるべく、蒙驁は足を速める。
そんな中でまた、一夜の野営をする事となり……。
「信、ちょっと良いか?」
「勿論だ」
羌瘣に呼ばれて陣営から少し離れた場所へと信は二人で向かう。
「……信、私はこの戦が終わったら飛信隊を出て行く」
「敵討ちをしにいくんだな?」
「ああ、そうだ。何か月か……何年、かかるか分からないがやるべき事を果たす」
信はすぐに羌瘣の意図を悟り、問いかけると羌瘣は頷いて宣言した。
「ああ、そうしろ。その時、お前は本当の意味で俺の物になるんだからな」
「そうだな」
お互いに視線を交わしながら言い合い……。
「……ん」
抱き締め合うと誓いを交わすように深く口づけをしたのだった……。
二
秦と魏による戦の決戦場となるのは『山陽』であり、四つの城の西にある山と森、湿地帯が入り組んだ複雑な地形の
「お待ちしておりました」
「大将軍」
そう言って、蒙驁が来るのを出迎えたのは長い黒髪を後ろに束ね、妖艶とも言える美しさ、或いは色気を有する男にして元は秦南方の山々を縄張りにしていたという大野盗団の首領で一つの城邑を攻め落とし、城人全員の首を刎ね、『首斬り桓騎』という異名がつくほどに残忍な性格の副将、
「ンフフフ、お二人の実力じっくりと拝見させてもらいますよー」
副将二人に王騎も声をかけにいった。
「(あれが蒙驁将軍の……)」
信は遠目で桓騎と王翦を観察していた。
ともかく、戦が始まろうとしていたがなんと、魏軍本陣の馬練山に立つ総大将は廉頗では無く、白亀西だと情報が入った。
「やる気満々という訳か」
この戦における真の意味での強敵は廉頗だが、その彼が総大将で無いなら本陣にいる必要が無くなる。神出鬼没な戦法すらもやってくるだろうと信は考えた。
とはいえ、この流尹平野での初戦において信たち特殊部隊の中で先鋒を務めるのは千人将となったばかりの王賁率いる『玉鳳隊』であった……。