今回の戦における魏軍の実質的な総大将である廉頗は開戦する前から秦軍の指揮系統を乱し戦力を削ぐべく、自らにとっても剣や飛槍と呼べるほどに頼みにしている配下であり、元々戦争孤児だったところを拾い、育てたので息子のようにも思っていた輪虎を放ったのだがなんと『飛信隊』の信という者にやられたのだという。
廉頗は秦軍の戦力を削ぐつもりだったのに逆に戦力を削がれてしまった、しかも重要な武将を失ってしまったのだ。
そのため、輪虎を失った穴を埋めるためと『飛信隊』の信という者を討ち取らせるため、武力では自らにも匹敵する介子坊と変幻自在の策略を用いる玄峰というそれぞれ、武と知に秀でる自らの四天王の二人を放ったのである。
だが……。
「まさか……まさか、玄峰様が討ち取られるとは……おのれ、おのれ信っ!!」
『飛信隊』とそれを率いる信の実力は自分たちの想像を遥かに超えていた。
介子坊の武力ですら信を討ち取れず、逆に撤退へと追いやられてしまった。
玄峰の策略も又、対応された上に人馬一体の絶技を披露する事で玄峰は撤退に追いやられるどころか討ち取られてしまったのである。
「敵ながら天晴れというしか無いな」
戦傷もあり、かなりの年齢ながら活気に溢れている老将の廉頗は玄峰が討ち取られた報告を聞き、憤激する介子坊の様子を見つつ、戦場での様子を遠くから実際に見ていたので信の正に獅子奮迅の武威と勇姿に賞賛を贈る他無かった。
「(王騎の奴め……とんでもない隠し玉を用意しおって)」
実は以前、秦と魏が蛇甘平原での戦が終わった後に王騎は廉頗の元を訪れ、酒を飲み交わしていた。
その時に蒙驁と戦うように焚き付けられたのである。情報として蒙驁に彼より優れた副将が二人いる情報を掴んでいたのでどの程度の物か興味はあった。
それもあって、戦う気ではいたのだが実際、もっととんでもない将が控えていた。
「(ふっ、これだから戦は止められんわい)」
追い詰められている廉頗だが、だからこそ打ち破る意欲を燃やし猛っていく。
「(必ず討ち取ってやるからのう、信)」
そして、輪虎と玄峰の仇である信を討ち取る事を誓うのであった……。
二
魏軍と初戦を交わした秦軍は介子坊の武力に先鋒隊を軽くやられたり、玄峰の策略に翻弄されながらも信が超絶的な武威によって介子坊を撤退に追い込み、玄峰に至っては討ち取った。
被害はそれなりに出てしまったが、玄峰という厄介な策略家を討ち取れた上に伝説に語れる程の武威、人馬一体の超絶的な技を見せた事で秦軍の戦意に士気はとんでもなく上がっていた。
「……ほう、『飛信隊』か……」
「中々、活きの良い奴がいるな……それに身分は元下僕か……面白ぇ」
蒙驁軍とはそれぞれ離れた所に布陣している副将の王翦と桓騎は信に興味を示した。
「ンフフフ、やはり信の戦は見応えがありますねぇ。あのような馬術まで使うとは……本当に面白いです、ねぇ騰?」
「ハッ、順調に成長しているようでなによりです」
王騎と副将の騰も又、信の活躍を賞賛しつつ喜んでいた。
勿論、蒙驁軍においては……。
「飛信隊、そして信……良くぞやってくれた。特に玄峰を討ち取れたのは大きい」
「これからもよろしく頼むぞ」
蒙豪軍の先鋒隊指揮官である土門に第二陣の指揮官である栄備から讃えられる。
「信殿。この郭備……貴方の武勇に感服いたしました。今後も側で戦わせてください」
「よろしくお願いします」
郭備と彼の副官である楚水が信達に与えられた天幕を訪れ、そう言った。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
信は二人の申し出を受け入れるのだった。
こうして、秦軍と魏軍の戦いが始まって一日目が経過していくのであった……。