秦と魏による『流尹平野』での戦い、二日目。
最前線にいる魏軍においては……。
「(今日こそ、討ち取ってやるぞ。『飛信隊』の信……輪虎、玄峰様、今仇を取ります)」
介子坊を始め、廉頗を主に輪虎、玄峰と共に戦ってきた者たちは今日こそ信を討ち取ってみせると戦意、殺意に満ちていた。そう、己の身体を犠牲にし信を討ち取るための糧になる覚悟すら抱いている。
それ以外の魏軍においてもはや怪物染みた武威と技を見せた信を討ち取る覚悟を決めている。
怪物を殺す一番の方法である囲い殺し、人海戦術と『多』を要にした必殺戦法を取る事とした。武将としての誇りは今回、捨てる。
そうしてでも殺さないと駄目だと知っているから……。
こうして、今回の前線においては介子坊を中心に魏軍において武勇を誇る隊長などを多めに再編している。
一方で廉頗は十弓に属する弓の腕を有した廉頗四天王の一人、
ともかく、介子坊たち最前線の魏軍は戦意も殺意も溢れており……。
『っ!?』
そして、次の瞬間には怒りすらも加わって更に爆発して燃え上がる。
何故なら対峙する秦軍の陣形――なんと、大胆不敵にも介子坊たちが狙っている信が文字通りの先頭にいて、後は全体的な物として錐行の陣が組まれていた。
「……突撃ぃぃぃっ!!」
「全軍、突撃っ!!」
怒りすら抱いて介子坊たち魏軍は信へと向かって行き、信もまた真っ向から敵軍へと突撃していく。
『おおおおっ!!』
魏軍はもはや総戦力という総戦力で執拗に信を狙い、武威を振るう。
「はあああっ!!」
それにやはり、真っ向から武威を振るい信は捩じ伏せていく。そう、捩じ伏せる。
矛を振るう度に返り討ち、あるいは押し返すなど常に数の利を暴威とすら呼べる武威にて破壊していた。
「うぐ、くそ……鬼人か、奴はっ!!」
「だが、それでも人の子だ。囲み続ければぁぁ……」
圧倒的多数で挑んでも敵わない信に驚愕しながらもだからこそ、必ず討ち取ってみせると決死の覚悟で信を囲みながら挑んでいくも……。
「ふっ……」
「何が可笑しい!!」
「可笑しいさ、こんなにも上手く、嵌ってくれたんだからなぁっ!!」
信が不敵に笑ったので余裕ぶってるのかと問うた瞬間、信が更に笑みを浮かべる。
そして……。
「今だ、燕呈!!」
「はっ、羌瘣様っ!!」
『うおおおお、信は殺させないっ!!』
「ったく、本当に大したもんだよっ!!」
「ちっ!!」
「本当に恐ろしい方だ、信殿っ!!」
『な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
多数で信を囲んでいた魏軍を突如現れた羌瘣と秘密部隊の燕呈、そして飛信隊の面々、蒙恬や王賁に郭備たちが包囲しながら屠っていく。
これは警戒されない程度の数の部隊を残しつつ、それより多くの部隊を事前に伏兵として配置していた事によるもの。更に信は必ず、魏軍が自分を討ち取る事を狙ってくると確信してそれ故に囮になったのである。
こうして、絶妙のタイミングで伏兵となっていた者たちは襲撃を仕掛けたのだ。
「(ば、馬鹿な……こ、こんな……こんな事が……くそおおおおっ!!)」
信を囲う事に意識を向けていたがゆえに囲まれ、退路を封じられた魏軍。
他の武将たちが犠牲となりながらも介子坊は血路を何とか開きながらも逃亡する。
しかし、多くの武将や部隊長に兵士、介子坊もかなりの戦傷を負いながらもなんとかこの戦場から逃走するのであった。
この日、魏軍は甚大なる被害を秦軍によって受けたのである。
「やったぞぉぉぉっ!!」
『おおおおおおっ!!』
信が勝利の声を上げれば皆が声を上げる。更に秦軍の士気は上がったのであった……。