『流尹平野』にて今まで行われたどの戦よりも激しい戦が行われていた。
「ぬううんっ!!」
「ルアアアッ!!」
その戦とは一騎打ちであり、対決している二人は自由自在に馬を操りながら、壮絶なる武威を込めた矛を超常の技量にて振るい、穂先や柄に石突きを相手に炸裂させて討ち果たすべく応酬を繰り広げていく。
下手に介入すれば、即座に二人の武と技の巻き添えとなって身を滅ぼされる程の物である。
いや、この壮絶なる一騎打ち、武人ならば見届けなければならないという義務や敬意を抱かされる程に凄まじいものであった。
「(フォフォフォ……信、つくづく驚かせてくれるのぅ)」
秦軍の総大将である蒙驁は自分が負け続けていた廉頗とやり合える程の信の実力に驚いているし、何より一騎打ちを互角に繰り広げている事を羨ましがってもいた。
そうして、秦軍も魏軍も結果がどうなるかを見届けている信と廉頗の一騎打ち。
「はあああっ!!」
「ヌオオッ!!」
矛をぶつけ合い、躱し合い、あるいは受け止めたり、受け流したり……矛を振り回したり、持ち手を調節するなどあらゆる技量を交わしながら二人は一騎打ちを幾度も幾度も繰り広げていく。
「(まさに歴戦の将だな……ちょっとやそっとじゃ決められない。だが、
)」
「(ヌハハ、まだまだ世の中、捨てたもんじゃないわいッ。これ程の武将が眠っていようとはなあっ!!)」
信にとって廉頗はかつて死にかけた龐煖と比べて劣る事無き、強敵だった。
なにせ、当たり前であるが相手は秦の六大将軍と何度も激戦を繰り広げた上で生き延びている。その経験の量も質も信のそれより、膨大だ。
よって、決め手には欠けていたがそれはそれ、勝利への飽くなき執念だけでなく、気合と根性を振り絞りに振り絞り、意思力をどこまでも燃やして挑む事で信は廉頗との一騎打ちに適応し始めた。
対して廉頗にとっての信も又、強敵であった。その武威に技量、武才とどれをとってもこれ以上の者が無い程に超絶的であった。
そして何より自分を討ち倒そうと燃やす意思、気合に根性……意で焼き尽くされるのではないかという程に圧倒的である。そして、実際に信は自分との戦いで自分を倒すべく、成長に進化、覚醒を始めているのだ。
「ルアアアアッ!!」
「ヌアアアアアッ!!」
そうして、信と廉頗は武威に技を幾度も応酬していき……。
「ハアアアッ!!」
「ぬぐっ!?」
限界を超えた力を込めた信の振り下ろしの大斬閃を廉頗は受け止めたが、そんなもの問題でもないとばかりに押し切られ、矛を吹っ飛ばされた。
「勝負ありですっ!!」
そうして、王騎の声がかけられた。
「信、どうか私の顔を立ててここで終わりにしてください。そもそも、私が廉頗将軍を焚き付けたのですから」
「貴方が言うなら……まあ、俺ももう止めるつもりでしたが」
「コココ……一応という奴ですよ。ともかく、ありがとうございます」
信は近づいて来た王騎に返答し、王騎は頭を下げてみせた
「ふん……お主も人が悪いのぉ、王騎……信の存在を黙りおって」
「楽しめたでしょう?」
「まぁ、のぅ……そして、この戦は儂らの負けじゃ」
廉頗に勝てる信の存在もそうであるが、そもそも信の超絶なる武威に影響されたり、度重なる勝利に士気が上がりまくっている蒙驁軍、まだまだ主力は健在で隠れながらタイミングを狙っているだろう桓騎軍、無傷で力を全く失っていない王翦軍と戦況で言えば魏軍は敗色濃厚であった。
「蒙驁ーっ!!」
「なんじゃ」
廉頗は蒙驁を呼ぶと……。
「これより、和睦じゃ。これよりは魏軍に一切の攻撃を禁止する。儂の裁量で魏軍は速やかに撤退させるし、山陽近隣の住人も退避させる故、これにも手を出すな。特に桓騎の手綱を緩めるなよ、うぬの責任じゃ」
「フォッフォ、普通、和睦の条件は勝者が決めるのじゃがのぅ」
「やかましい、言っておくがまだやりようが無い訳ではないのじゃぞ」
「お主ならばそうじゃのう……相分かった、魏軍代表廉頗の和睦申し入れ、秦軍総大将蒙驁が受け入れようぞっ!!」
こうして、和睦は成立し、秦軍と魏軍の戦いは秦軍の勝利に終わった。
「ンフフフ、相変わらず思い切りが良いですね」
「立場もあるからな……信よ、お主の活躍楽しみにしておる、もっと強くなったお主をいつか倒してみせようぞ」
「その言葉、そっくり返させてもらう。次も俺が勝ちますよ」
「良い加減、引退したらどうじゃ」
「抜かせ、死ぬまで儂は現役じゃぁっ!!」
そんなやり取りを経て、廉頗は魏軍と共に去っていき、それを信に王騎、蒙驁達、秦軍は勝者として見届けたのであった……。