魏軍は秦軍との戦いに負け、取られてしまった自国においても重要な地であった『山陽』を奪還する事に躍起になっていた。
「あの『飛信隊』の信が此処に……」
「ふっ、ちょうど良い……あの時の借りを返す時だ」
「ああ、目にもの見せてくれるっ!!」
「この『魏・軍師八指』と呼ばれた
特に山陽の戦で信の武威によって敗北させられた者たちの戦意や殺意は激しく、だからこそ『飛信隊』がいる里井の地に魏軍は集中的に集まっている。
恨みも勿論あるが、なにより秦軍において脅威の人物であると理解させられているからだ。
そうして今回、山陽の戦にて総大将を務めた『白亀西』や中央軍を務めた『
「報告っ!! ……の部隊がやられましたっ!!」
「報告っ!! ……様が捕らえられましたっ!!」
「報告っ!!」
「っ、あ、そ、そんな馬鹿な……」
氷鬼の指示の下、秦軍に戦を挑んだが氷鬼の戦術、策略はまったく通じず機先を制され、あるいは翻弄され、蹂躙されていく。
それは『飛信隊』による力だけではない。というより、今までの前哨戦ともいうか、そうした戦いでは『飛信隊』の部隊は出て来てすらいない。
全て他の部隊を効率的に動かしている事によるものである。
「くう、全く読めない。とんでもない軍師がついたというのか……」
氷鬼は恐れを込めた声で呟いた。
そうして、この里井の実質的な総大将となっている信の側では……。
「ふっ、他の部隊にもちゃんと手柄は与えなければいけないし自信も付けてやらないと駄目だからな」
「ふふ、そうだね」
里井の全ての地を広域の戦場として『飛信隊』の軍師となっている貂は軍略を練っていた。同じく信も勝利のための策を練りつつ、貂の策を元にしたりしつつ、臨機応変な用兵によって『飛信隊』とは別の守備隊を動かし、勝利を重ねている。
「それにしても信もしっかり、戦略や軍略に詳しいんだね。せっかく、信の力になろうと頑張ったのに」
「流石に馬鹿じゃ戦は出来ないだろ。それに十分、貂は力になってくれている。俺の代わりに采配を任せたりとかそういう事も出来るわけだからな。さて、そろそろ、『
そうして、信は自らの部隊と共に動き……。
『っ、な、何だあれはっ!?』
魏軍の白亀西や間永、特に軍師の『氷鬼』は自分達の前に立ちはだかった『飛信隊』に驚く。
何故なら、飛信隊は全体的には丸だが門の入口のように所々穴が開いている状態で、更に丸の中にバツを書いた様な奇妙奇天烈な陣形を築いていたからだ。
「あ、あんな陣形見た事無いぞ……」
「お、おい氷鬼……あの陣形はなんだっ!!」
「わ、私にも分かりませぬ」
白亀西たちは飛信隊の奇妙奇天烈な陣形に対し混乱していたし、どう挑んだものか考えるしかなかった。何せ、散々脅威を叩きつけられた『飛信隊』。おまけにこれまで何度か行った戦にて悉く、戦略と戦術に翻弄され蹂躙されたのだ。
下手に手を出せば、すぐにやられてしまうと思わざるを得ない。
そうして、陣形の攻略法を出すまで対峙するしかなかったが……。
「深みに嵌り過ぎだ。こうも手の平の上で踊ってくれて助かる」
失笑すらしながら、信は自分の麾下五百の騎兵と共に一つの巨大な獣となって戦場を駆けており……。
「て、敵襲っ!! ひ、『飛信隊』がっ!?」
『う、うああああああっ!!』
魏軍の本陣を信と麾下五百の騎兵が襲撃しながら、その武威によって食い荒らしていく。
白亀西たちは悲鳴を上げるしかなかった。
そうして降伏した白亀西、間永、氷鬼らは捕虜として捕えられる。
「……な、何だったんだ、あの陣形は……あの陣形には何の意味がっ!!」
「それは俺も気になっていた、結局、あの陣形はどういうものだったんだ」
「将軍、実は私も気になっていました。訓練ではああいうのを使った覚えも無いので」
氷鬼は勿論、信の軍師である貂、信の麾下五百の騎馬隊を除いた二千五百の騎馬隊を束ねており、戦術や軍略にも通じている郭備も信の奇妙奇天烈な陣形の意味について質問した。
「時間稼ぎのはったりだよ」
結局は注意を引き付けるためであり、本陣を奇襲するためのはったりの陣形であった。
要は蛇に睨まれた蛙状態に魏軍はされてしまったのだ。
「……ふ、っ、は、あはは……ふはは、あははははははははは……ハハハハハハハハハはははははっ!!」
その真実に氷鬼は只々笑う、彼の軍師としての自負もなにもかも壊れてしまい、狂ってしまったのだ。
「ふっ、私達が叶う相手では無かったか……」
「神算鬼謀の持ち主とは……」
そんな様子を見ながら、白亀西に間永らは項垂れた。
この戦を経て、信は里井の地を平定したのであった……。