キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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合従軍編
五十四話


 

 始皇六年(紀元前241年)――南虎塁(なんこるい)

 

 秦は楚との国境に延々と連なる防衛壁を築いた。それこそが『南虎塁』である。

 

 この厳重な守りが故に楚は安易に手を出す事は無かった。越えれば即大戦になるのが分かり切っているからだ。

 

 

 

「ついに動きますか、春申君」

 

 しかし、楚は南虎塁をとうとう、越える事を決めたようだ。

 

 大軍を率いてあっという間に南虎塁を抜いてきた。しかし、楚は途中の城々には目もくれずにひたすら北上して秦南部の中間辺りが『野仙』まで進軍しているという。

 

 秦は南部防衛において蒙武と歴戦の老将である張唐(ちょうとう)を配置していたが、楚軍は第一陣の五万で中間を一気に突き抜け、防衛線の裏に抜けてから本軍が侵攻してくるという方策を取ったのだ。

 

 

 

 

 防衛戦の内側に五万もの敵兵が入るのは体内に猛毒が侵入するような物である。そのため、蒙武と張唐は防衛線を封鎖すべく、全速力での進軍を開始した。

 

「ンフフフ、すみませんが少しの間、付き合ってもらいますよ楚軍の皆さん」

 

 両将軍が防衛線の封鎖を出来るように王騎軍が防衛線が封鎖される前に抜けようとしていた楚軍の前に立ち塞がったのであった。

 

「(そちらも頼みましたよ、李信)」

 

 同じく防衛のために動いている李信へ王騎は心の中で声を送ったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 秦国東郡――楚軍侵攻の急報は伝わった。そうして、当然、東郡の守備兵を残しながらも多くの将兵たちは対楚の戦いへと向かうよう指令は飛び、それが故に秦軍は向かう。

 

 それが好機と一気に動き出した軍勢がいる。

 

 東郡こと山陽を取られた国、魏軍だ。秦の意識が向かっている隙を狙っての侵攻を開始したのである。無論、この動きは楚、更に趙と打ち合わせた物。

 

 なにせ少し前に趙の三大天であり、重要人物が李牧直々に魏国を訪れ、話を……『合従軍』結成を持ち掛けたのだから……。

 

 そうして、魏の本隊が秦の対魏防衛拠点である『剛陵城(ごうりょうじょう)』へと迫ろうというとこまで進軍していたが……。

 

 

 

 

「全軍、突撃。侵略者共を滅せぇぇぇぇっ!!」

 

『おおおおおおおおっ!!』

 

 咆哮を上げながら、一人の将と麾下五百五十の騎馬隊が一つの巨大な獣と化して魏軍本体へと駆けていき、それに剛陵城の兵たちも合わせた数万の秦軍が続いていく。

 

『う、うわあああ『飛信隊』だぁぁぁぁぁっ!?』

 

 魏においては『信来来』として恐れられている李信、そして当然、彼が率いている飛信隊も魏においては恐れられているがそれが不意を衝き、襲撃を開始してきたのだから魏軍は驚愕と混乱に満ちていく。

 

 

 

 

 しかも李信と麾下の騎馬隊の武威は激しく、圧倒的な勢いと共に次々と軍勢を蹴散らし、その中核へと迫りつつある。更に方々から逃がさぬとばかりに秦軍の軍勢が包囲してくるのだから、堪らない。

 

 

 更に最悪なのが……。

 

 

 

 

「ふっ!!」

 

「ぅぐあっ!?」

 

「お、お前達正気かぁっ!?」

 

 密かに魏兵に扮して潜入していた飛信隊の秘密部隊が襲撃を開始した事で疑心暗鬼を生じさせ、更に混乱を深めていく。

 

 因みに潜入部隊の者は秦軍が味方だと分かるものを目印に身に着けているので秦軍からの同士討ちの心配はなかった。

 

 

 

 

 ともかく、そうして魏軍は秦軍の奇襲により、指揮系統は混乱し軍勢としては壊滅状態へ、当然、逃走した敵は追撃されて討たれるし、降伏した者は捕虜として捕えられた。

 

「まあ、ここらで十分か」

 

「ああ、大勝利だ」

 

 流石に指揮官を討つまでには至らなかったが、それでも十万はいた魏軍の半数以上を討ち取ったのだから、戦果としては大勝利である。

 

しかも戦車の多く、武具に食料、更には明らかに大兵器までも多くが手に入ったのだからやはり、十分だった。

 

 信の呟きに蒙恬は笑みを浮かべて言うのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある森林の奥深く――傷だらけでぼろぼろな複数の者たちがいた。

 

鳳明(ほうめい)様、水を」

 

「んぐ、ごく……はぁ、はぁ、う、おえええっ!!」

 

 今回、魏軍を率いたのは呉慶の息子である容姿端麗な男が呉鳳明(ごほうめい)である。彼は突然の秦軍の奇襲に対抗しようとしたが向こうの奇襲のタイミング、優れた戦術と用兵、いつの間にか紛れ込まされていた敵による攪乱、何より李信の天下無双と評しても過言でない武威にはどうにも出来ず、命からがら逃げだすしかなかった。

 

 しかも自分の命を守るために親衛隊が動いてくれなければ確実に李信に討ち取られるところであった。

 

 それが故に彼は死の恐怖を味わった事で水を飲んでも吐きだしてしまう程、心身を消耗していた。

 

「おのれ、おのれ、おのれええ……しくじりおったな、李牧、春申君っ!!」

 

 どう考えても『合従軍』の事が知られていたとしか思えない待ち伏せであり、奇襲に兜を地面に叩き付けるように投げ捨てた。

 

 

 

 

「……必ず、必ず、この屈辱は返すからな李信。この私の策でお前を……」

 

 そうして、鳳明は敗残兵を待ちつつ、魏国へと撤退を開始した。

 

 

 

 当然、この敗北により李信は魏国において更に恐れられていく事になるのであった……。

 

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