『秦』が『魏』との戦をし、勝利をした事で山陽の地を獲得した。それを『東郡』と称し、領土拡大の意思を明らかにした。
これに危機感を覚えた賢人が二人いる。
一人はこの中華大陸の中でも広大な国土とそれに見合うだけの国力であり、戦力を有する超大国である『楚』を一手に纏めている偉人として知られている春申君である。
もう一人は最近、『燕』の大将軍である劇辛を破った事で実力を知らしめた趙における大将軍であり、『三大天』の一人である李牧だ。
二人は秘密の会合をしながら、秦の脅威に対抗すべく楚と趙、魏に韓、燕と斉における六国連合による『合従軍』を結成し、滅ぼそうと画策したのだ。
その第一段階として一斉に最速最短で侵攻する事により、秦中枢の麻痺を狙ったのだが……。
「……おのれ、王騎……」
楚軍は秦の大将軍である王騎軍の妨害にあい、先行を担っていた将軍である臨武君を討たれ出鼻を挫かれた。
そのせいで秦の猛将である蒙武と張唐による防衛線を張られてしまい、睨み合いの形になってしまった。
だが、それだけでは終わらなかった。
「なっ、魏軍が敗走しただとぉっ!?」
春申君は自分達と連動して侵攻を開始していた筈の魏軍が秦軍の待ち伏せにより、壊滅し敗走したという連絡に驚愕した。
「(まさか、事前に我らの狙いがばれていたというのか……)」
そして更に……。
「か、韓もだとおっ!?」
韓軍もまた、秦軍の猛将である麃公とそして魏軍を蹴散らした将軍、李信によって総大将である成恢を討たれ、部隊もかなりの数をやられた事で撤退したとの事だった。
「(李信……まさか、話に聞くよりも……)」
趙においては武神と呼ばれた三大天の一人、龐煖を討ったと言われており、魏においては身を寄せていた元趙の三大天の一人である廉頗の部下である廉頗四天王の輪虎に玄峰を討ち、介子坊をもあしらい、更には廉頗との一騎打ちでは彼を撤退に追い込んだという。
とにかく最近の秦の戦において李信の武勇伝は広まり続けている。
春申君は李信を一番、秦において警戒すべき相手と判断する事にした。
そして、最後に……。
「なに、斉が王の急病により、侵攻を取り止めた? ふざけるなぁぁぁぁっ!!」
斉が侵攻を取りやめたと報告が入る。これにより、六国の合従軍による侵攻計画は破綻し、三国による連合軍でしかなくなった事で春申君は激昂する。
「(方針を変えるしかないか……)」
秦を滅ぼすという方針を変えざるを得ないと春申君は判断したのである。
そして、同じく方針を変更する事を余儀なくされた者がもう一人……。
「(お見事です。麃公将軍、李信将軍)」
無論、李牧である最速最短での侵攻をしていた趙軍の前、少し行けば城が間近という辺りで麃公と李信の軍が展開されており、待ち受けていたのである。
布陣に関してもそうやすやすとは蹴散らせないものであったし、なにより下手に仕掛ければ相当な痛手を余儀なくされるものを感じさせる戦意、殺意、鬼気、罠と策謀の気配を隠すことなく放っている。
「(麃公将軍は罠や策謀はしないと聞く……ならば、李信将軍ですか……参りましたね)」
李牧は李信の武力も勿論だが、未知数な戦術と戦略に対して警戒せざるを得なくなったのであった。
そうして……。
「仕掛けてこないか、まあ、それはそうか……」
信は常に頭の中でこの戦場での仮想戦闘を行いながら、幾多もの戦略と戦術を練っている。とはいえ、交戦すれば向こうは大軍……大なり小なり、被害は出るので睨み合いに持ち込めるように威嚇をしているのだ。
「(時間は稼いでやる。だから国として対抗策を練ってくれよ)」
そうして時間稼ぎをしつつ、秦は王都咸陽にいる政たちが国としての対抗策を練るよう心の中で告げるのであった……。