キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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五話

 

 秦王嬴政から王座を簒奪せんと内紛を起こし、王宮を乗っ取った王弟成蟜に彼と結託している竭丞相達は逃がした嬴政を殺したがっているのは勿論、他にも敵がいた。

 

 自分たちが王座を完全に簒奪した瞬間に襲撃するだろう呂丞相である。彼の軍勢は二十万はいて、現在集めている八万ではとても対抗できそうにない。

 

 なのでかつて、秦王であった穆公への恩から彼が『晋』という国との戦争で窮地に陥った際、恩義から二百人の兵で救援にきた『山の民』たちが残している武勇。

 

 味方された秦兵が背筋を凍らすほどに凄惨を極め、更に数千の晋兵を蹴散らして穆公を救うと敵本陣まで襲い、晋王を捕らえた勇猛ぶりから『馬酒兵』という伝説を残している山の民が王と共に三千人でかつての『盟』を復活させに来たのは渡りに船だった。

 

 そう、つまりまんまと『山の民』に扮した政に昌文君や壁、信達を咸陽のなかへと入れてしまったのである。

 

 

 

「貂、お前は残って……」

 

「いや行くよ。俺の恰好を見ても何の反応も無いから、俺はあいつらの仲間じゃないみたいだ。だったら、お前らについてって、俺も手柄を上げてやる。そして大金持ちだ」

 

「守れる状況なら、守ってはやる……だから逸って、前には出るなよ」

 

「分かってる、黒碑村で生き延びてきた河了貂様の立ち回りを甘く見るなよ」

 

 王宮へと続く内門は『山の民』の王とその従者五十人までとされ、政は勿論、昭文君に壁や王宮内の知識がある者十人を選抜し、後の四十人は『山の民』を選抜する。

 

 

 

 その中には信と信が待機するように言っても自分も行きたいと意思を示した貂もいた。

 

 その後、門を潜り王宮内に入れる最後の門『朱亀』では入る前に全員、武装を解くように云い伝えられた。なので……。

 

 

 

「山の民よ、此処で武器を預かる。全員、武装を解かれよ!!」

 

 信たちの倍の数の軍勢にその長が『朱亀』の前で待機しており、武装解除するように言った時……。

 

「ふっ!!」

 

 この戦の第一刃に相応しい政が長へと間合いを一気に詰めながら剣にて切り裂いた。

 

 そして……。

 

「おおおおおッ!!」

 

 信はその直後、動くと今まで限界知らずに内で渦巻き、湧き上がっていた怒りに憎悪、殺意に身を任せながら突き進み、暴風の如き剣捌きにて兵士を斬殺しながら、返り血を浴びていく。

 

 

 

「なッ、なんだこいつ!?」

 

「ば、化け物だ……」

 

「おおおおおおおおッ!!」

 

 異様な気迫とその暴威に兵士たちは圧され呑まれて動けなくなるが、構わず信は斬殺していき、血気盛んな『山の民』も彼に負けじと続いていく。

 

 そして、剣の握りを口に加えた信は全力で疾走し、その勢いをも加えた跳躍力にて一駆けでは届かない程に高い壁を登りきり、門壁の上を手で掴むと登り切った。

 

「なんとっ、登りきりおった!?」

 

「なんて少年だ、本当に……」

 

「凄すぎるぜ、信!!」

 

「良しっ!!」

 

『オオオオッ!!』

 

「ますます欲しくなってきたぞ、信」

 

 信の常人ならざる軽業に昌文君に壁、貂に政、『山の民』は喝采を上げて士気が上がる。楊端和にいたっては門壁を登る前の兵士たちを斬り殺し、『山の民』を惹きつけた武威に信を自分たちの元へと勧誘しようという気持ちが強くなってきた。

 

 

 

 

「な、何いいいいいッ!?」

 

 対して山の民たちを出迎えようと来てしまって竭丞相は絶望の叫びを上げる。

 

 

 

「分かりやすくて良いな」

 

 怒りに憎悪、殺意が極まり過ぎて逆に冷静な思考の中で信は遠くから肥満体で醜いが地位の高さが分かる恰好をした者が重要な標的だと判断しながら、口を開き、噛んでいた剣の握りを右手で持ちながら、門の内を守っている兵士たちの元へと飛び降り……。

 

 

 

「おおおおっ!!」

 

 そうして兵士たちを斬殺していくと門に掛かっている閂を外して外の者たちを招き入れた。

 

 

 

「良くやったぞ、信」

 

 皆が入って駆け出していく中、壁が声をかけた。

 

「ありがとうございます。そして誰か、槍を貸してください」

 

 兵士たちが階段を下りて向かってくる中、信達は政の指示の元、馬車に乗って逃げ出そうとする竭丞相を屠るために向かってきた兵士たちを倒しながら、駆け出していく。

 

 信は剣を背中の鞘に納めつつ、槍を貸すように頼むと……。

 

「槍だ」

 

 仲間の兵の一人が槍を放って来たのを受け取る。

 

 

 

 そして……。

 

「誰か、背中をっ!!」

 

「――屈めっ!!」

 

 信の意図を察した楊端和が山の民の内のとある者へ号令を出せば、その者は屈み……。

 

 

 

「くたばれっ!!」

 

 信は走りながら槍を逆手に肩高く上げながら、その背を踏み場として跳躍し宙高く飛び上がると同時に槍を後ろに引いて溜め、次の瞬間全力で投擲する。

 

 それは弩砲の如き勢いで飛来していき……。

 

 

 

「っ!!」

 

 馬車に乗って逃走を始めた竭丞相の頭部に突き刺さり、死体が馬車から落下した。

 

 

 

「竭丞相を信が討ち取ったぞっ!!」

 

『オオオオオオッ!!』

 

 信が地を転がるようにして勢いを殺して着地する中、政が竭丞相を討ち取った事を宣言し、皆が喝采の咆哮を上げた。

 

 

 

「信、良くやった。本当に良くやってくれたぞ」

 

「君が味方で本当に良かった……」

 

「大手柄だ」

 

 重要人物を討ち取った信に対し、昌文君や壁に政が称賛の声を送る。

 

 

 

 そして、竭丞相の死体の首を兵の一人が刎ねて、持ち歩き出す。

 

 

 

「良くも、良くもやってくれましたな……大王嬴政!!」

 

 信たちの前に肆氏と馬に乗った魏興率いる弩行隊が立ち塞がり、肆氏が呼びかければ……。

 

「お前たちの栄華はもう終わりだ、竭丞相は討ち取ったぞ」

 

 政は変装を解いて堂々と姿を見せつつ、兵士から竭丞相の首を受け取り、投げ捨てる。

 

 

 そうして行動は陽動……。

 

 政が肆氏たちの目を引き付けている間に信に貂、壁はバジオウや巨漢のタジフなど精鋭の山の民の戦士たちと共に本殿に繋がる『右龍』へと向かうのであった……。

 

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