六十四話
『飛信隊』の元に副長である羌瘣が戻ってきた事でその戦力は飛躍的に増大した。
「良し、じゃあここはこういくか」
「うん、俺もそれで良いと思う」
「全く文句のない戦略だと思います」
「私も賛成だ」
まず、今まで『飛信隊』にて戦術や戦略を練られる者が李信に河了貂、郭備の三人だったが羌瘣が加わった事で更に深く練られるようになったのだ。
「良し、お前はここで敵を抑えろ……いくぞっ!!」
実戦においても鋭い采配や指揮を担えるだけの能力を有する羌瘣が遊軍の如く、動けばそれだけで戦況を有利に出来る程の働きを見せたのだ。
「ますます強くなったな、羌瘣。それに大将軍になりたいという夢まで持っている。やりたい事が出来たのは良い事だ。じゃあ、俺も出るか」
復讐を終えた羌瘣は今後も戦いの道に身を置くならそこの頂上を目指すべきだという事で『大将軍』の座を目指すと言った。
『それにお前の女だし、剣だからな』
微笑みながら羌瘣は李信へとそう言ったのである。
ともかく、そうして『飛信隊』は次々と前線後における敵国の防衛戦を逆に突破し、近くの小城や砦などを陥落するなどして秦国の国境を徐々にといった感じで広げていく。
そんなこんなで一年が経過した始皇七年(紀元前240年)、秦と魏の国境付近である
「お前と共に戦えるとはな」
「俺も嬉しいです、蒙武将軍」
駐屯していた蒙武軍に合流すると……。
『全軍突撃だぁっ!!』
互いに壮絶なる武将二人が揃えば、下手な戦略に戦術などは必要なくなる。
「ルアアアッ!!」
「ヌウゥン!!」
李信が大矛を振るい、大斬閃の嵐を巻き起こし、蒙武が棍棒を振るって破壊の嵐を巻き起こせばそれだけで瞬く間に敵兵は碌に抵抗出来ずに切断され、あるいは破壊されていくのだ。
「分かってはいたが……圧倒的だな」
「魏軍が可哀そうになってきた……」
圧倒的な主攻を務める李信と蒙武二人の助攻を務めるのは羌瘣と『飛信隊』とは別に三千兵を率いた独立遊軍の一つとして派遣されている『楽華隊』の蒙恬であるが、始まる前に予想がついた光景が実際になされているのを見ながら、しかし想像以上に壮絶な武による蹂躙を見てどちらも苦笑していた。
「こ、こんなのどうしろというんだぁぁぁぁっ!!」
驀進の如き、勢いで将兵を蹂躙しながら本陣へと突き進んでくる李信と蒙武の二人に相手をしていた魏軍の将はそんな怒りの叫びを上げながら、やはり李信と蒙武の武威の前に散るのであった……。
二
始皇七年(紀元前240年)――『秦国』において王都である咸陽にて総出で祝う程の事が起こった。
秦王である嬴政の子を身籠った宮女が無事に出産をしたのである。
生まれた子は女の子であり、つまりは王女だ。
「じゃあ、ますます華々しい勝利で飾らないとな」
『飛信隊』は角炎での戦から二か月程の休暇を終え、再び前線へと行き……。
「王翦将軍、俺達はこう動こうと思いますが……」
「ほう……」
魏の
「……良いだろう、任せる」
目を見張りつつ、王翦は李信の戦略を許可した。
そうして、王翦軍の動きと見事連動する事で野戦を制し、更には井蘭車に床弩を使いながら、城すら陥落せしめた事で……。
「李信、お前を我が側近として幕僚に加えてやっても良いぞ」
「光栄なお誘いですが俺は秦王の剣であり、盾になると誓ったので」
「……席はいつでも空けておく」
王翦は頭を下げて自分の陣営に戻ろうとする李信へとそう言い、李信は頭を下げながら断るも去り行く背に王翦は声をかける。
「(あの凄まじき武勇に私の知についていけるだけの知であり、戦術眼……なんとしても加えたいものだ)」
李信の実力に王翦は将来的に自分の部下に加えたいと思い、そのための思考に耽るのであった。
また、魏の
「桓騎将軍……野戦も攻城戦も一切を俺達が務めましょう。その代わり、捕虜の殺害や城民の殺害はしないでいただきたい。略奪は構いませんので」
「……ふ、この俺にそんな取引か……随分とお優しいんだな」
桓騎の元へ行き、元野盗で構成された桓騎軍は捕虜殺害や城民の殺害、略奪をしていると有名なので李信は取引を持ち掛けた。
「無用な血が流れるのを見たくないだけです」
「くくく、
「自分でも滑稽な事を言ってるのは理解していますよ。ただ、それでも俺にとっては重要な線引きなので」
「しない方が楽で良いぞ」
「だからこそです」
嘲笑する桓騎に毅然とした態度で話す李信。そうして少しの間、視線を二人は交わし……。
「言ったからにはやり遂げろよ。それにもたつくようだと取引は無しだ」
「分かりました。承諾ありがとうございます」
そうして、李信は見事に野戦を制し、巨城である汲も陥落してみせた。
「なにもかも嫌になったら、俺の元に来いよ李信……歓迎してやる」
桓騎は李信との取引通り、略奪こそするものの捕虜や城民の殺害を文句を言う部下たちを威圧さえして守った。去り行くときに桓騎からそう誘われたりもしたが……。
「フォッフォ、やはりお主がいると本当に助かるのぅ李信」
「ありがたきお言葉です」
大きく勝利に貢献した李信へ蒙驁は声をかけ、李信は包拳礼をした。
その後……。
「楊端和の援軍にか」
「ああ、よろしく頼む」
一度王都である咸陽に呼ばれたので向かえば、秦王である山界制覇のために戦っている楊端和より李信への援軍要請があったと嬴政より伝えられた。
「分かった、楊端和達、山の民に秦国は大きな恩があるからな」
そうして、『飛信隊』は本軍である一万と少しの兵にて楊端和の援軍に向かったのであった……。