始皇八年(紀元前239年)――秦の北東にある要所が『屯留』を狙って『趙軍』が二万の兵を率いて侵攻を開始した。
『屯留』一帯は古くは趙の領土で一帯に住む人間も半分は趙の血が流れている。故に『屯留』を獲られれば一帯がこぞって趙に寝返る恐れがあった。
そして、こうした事態に意外な人物が動いた。数年前に秦王嬴政から王座を奪い取ろうと反乱を起こした王弟成蟜である。
嬴政との戦いによって負けた後、彼は幽閉されていたが呂不韋との政争に勝つため、嬴政が解放し、そうして手を組んだのである。
因みに信による仕置きを受けた結果、信の事がトラウマになっており、『裏切ったら、信を呼ぶ』と嬴政が言っただけで『わ、分かっておるわ』とビクつくくらいになっていた。
ともかく、成蟜が屯留を防衛するために進軍する事となったのだ。その要因の一つとしては『屯留』は彼の第一婦人である
結果として『屯留』に攻めてきた趙軍を成蟜軍は圧倒的な勝利にて撤退させたのである。
だが、しかしなんと『屯留』に入った成蟜は突如として反乱を表明し、軍を集結し始めた。北東における姫の瑠衣の夫である事と趙軍に陥落させられようとしたところを見事な勝利で救ったのもあってか数万の兵が瞬く間に揃ったとの事……。
嬴政は違和感を感じ、もしかすれば成蟜が罠にかけられている可能性も視野に入れつつ、討伐軍を出そうと考えていたところ……。
『屯留については俺も別に動く。出来れば、討伐軍の将は壁将軍で三、四万ほどの軍が欲しい』
「本当に頼りになるな、信」
李信による凄腕の隠密から密書が届き、その機先を制した内容に嬴政は頼もしさを感じた。因みに壁は今まで着実に戦功を積み上げた結果、将軍になっていた。
ともかく、李信の要求通りに討伐軍の将を壁に務めさせつつ、途中合流も含めて四万で討伐軍は『屯留』へと向かう。
「壁将軍はおられるか!!」
「ああ、私だ」
「李信将軍からの伝令です」
屯留前の
「本当に君は凄いな……」
それは戦略を示した物であり、壁は相手の何手先をも読む李信の知略に称賛の声を送ったのだった……。
二
『屯留』まで二日の
そして、その直後……。
「錐形にて突撃。秦軍の柔らかい横腹を食い破れいっ!!」
少し前に『屯留』を襲っていた趙軍の将軍にして長い髪を後ろに流し、口元には傷がある
明らかに反乱軍と手を組んでいる動きだったが……。
「狙いがばればれだ」
それを待っていた者が呟き、そうして……。
「突撃だっ!!」
『紅』の馬に乗る男が頭となり、その男の麾下六百の騎馬隊が後を追うようにして一つの巨大な獣と化して趙軍に向かって突撃し……。
「ひ、ひし……」
『飛』の旗を掲げた軍団を見たと思えば、直後に『紅』が自分に向かって、一瞬としか思えない速さで驀進し、瞬く間に近づかれた眛広は『飛信隊』が此処にいる事に驚愕する間もなく……。
「ルアアッ!!」
李信が大矛を一閃した事で首を刎ねられた。無論、そのまま近くにいた趙兵に対しても大矛を振るう事で肉塊に変えながら、鮮血をばら撒かせる。
『う、うわああ、ひ、飛信隊だああっ!!』
趙の三大天であり、『武神』である龐煖を破り、更には同じく三大天の一人であった李牧を撃退した李信の登場、いきなり自分の将がやられた事で趙軍は恐怖し、二万いた筈の軍は烏合の衆と成り果て、逃走していくのであった。
「今回はこれで良い、討伐軍の加勢に行くぞ」
『はっ!!』
そうして李信とその麾下六百の騎馬隊は一つの巨大な獣となって討伐軍の加勢へと向かう。
今回、李信は色んな事を兼ねて五千の兵を連れてきており、残り四千六百は勿論、討伐軍の援軍として動いている。
そうして……。
「あまり、こういうのは好かないが……」
李信は乱戦している討伐軍と反乱軍の意識の間隙を縫って動き、そうして反乱軍の将軍である龍羽が遠くから見える距離、感覚にして五百歩ほど離れた場所に止まる。
大矛の石突を地面に突き立てると紅飛に備え付けていた数人がかりでなければ引けない程の剛弓を取り出し、矢筒から矢を一本引き抜くとそのまま、弓を構えると矢を番えて引き絞り、そうして放つ。
「ばがっ!?」
凄まじい威力の矢が龍羽の頭部に炸裂して、首から頭部が捥がれる。
それを見ると素早く弓を戻し、突き立てていた矛を抜き、そうして驚愕や混乱、呆気に取られるなどで動けない反乱軍を大矛による戦舞にて屠っていった。
『こ、降伏します』
少しすると反乱軍は降伏した。
「李信……本当に君は凄まじいな。これなら、成蟜も早く」
「ああ、それならもう救出している頃ですよ。大分前から屯留には俺の部隊を潜入させていて、反乱軍を出陣させたのを狙って成蟜に瑠衣夫人を救出させ、首謀者である
そうして、実際に盟平野から『屯留』に向かえば……。
「大儀であった、李信将軍。そして、将軍は私達の恩人だ」
「ありがとうございました、李信将軍」
屯留の城内から成蟜と可憐で美しく、気風もある女性にして成蟜の第一婦人である瑠衣とその関係者たちが出迎えた。
成蟜たちは呂不韋の手先である蒲鶮に捕らえられており、成蟜は瑠衣を人質に反乱者として仕立て上げられるところだった。
しかし、潜入していた『飛信隊』によって救出され、蒲鶮の手下に対しても今回における証人となり、協力するなら三代に渡るまで厚遇するし、金も出す、更に『屯留』の英雄としての名声も与えるなどの取引で自分たちの仲間とし、そうして飛信隊の秘密部隊と共に蒲鶮を捕らえ、地下牢に拘束した。
「こ、こんな……う、嘘だ……うぐぁぁぁ……」
蒲鶮は地下牢の中で絶望に嘆くのであった……。