秦の王都咸陽にて王弟である成蟜と竭丞相が起こした内紛を鎮めた政と 楊端和を王とする『山の民』は勝利を祝う宴を行なっていた。『山の民』は明朝、山界へ帰る事になっているからだ。
楊端和達は山界全てを掌握している訳では無く、嬴政が中華に出る時まで勢力を強めるためだ。そして、嬴政と楊端和の間で定期的に情報交換を行う事になっている。
そんな中、信も宴には参加していて……。
「背中、貸していただきありがとうございます」
竭丞相を仕留める際に槍投げをするため、背中を踏み台にさせてもらった山の民に対してバジオウに翻訳を頼んで伝えてもらっている。
「――」
「気ニスルナ、オ陰で良イ槍投ゲヲ見レタト言ッテイル」
「ありがとうございます」
信が咸陽で見せた武勇と勇猛振りにバジオウにタジフは勿論、『山の民』たちの戦士は敬意を抱いており、友好的であった。
「ランカイ、これからはもう痛い目にあったりする事は無いからな」
「ウウ」
成蟜に虐待を受けながら処刑係に使われていたランカイは山の民に引き取られる事となっていた。信が声をかければランカイは喜ぶ。
そして、バジオウやランカイと交流をしていると楊端和が近づき……。
「信、我らと一緒に来ないか? お前ならば皆、受け入れる……それだけの勇姿を見せてもらったからな。私もお前が欲しい」
楊端和にいたっては信を山界へと勧誘する。
「いや、私には亡き親友であり、義兄弟との『秦の大将軍』になるという約束があるので……」
「あの王騎という将軍に言っていたものか……だが、私も諦める気は無いぞ。欲しいものは必ずこの手で手に入れる主義だからな」
「っ!?」
楊端和は信の唇に軽く口づけした。
「勇姿を見せてもらった礼だ」
思いもよらぬ楊端和の行為に混乱している信に艶やかに微笑んで去って行く。
「信~、政が呼んでるぜ」
「ああ、分かった」
少しすると貂が声をかけてきたのでそれに応じ、政の元へ……。
「信、お前は本当に良くやってくれた。感謝している」
「いえ、こちらこそ十分な報酬はいただいているので」
そう、今回の内紛鎮圧においての信の武功は凄まじい。よって、本来下僕なために正規兵どころか徴兵の基準に満たない。
よって徴兵の条件を満たすために戸籍登録されている家であり、ある水準を満たすだけの財も与えられる。つまりは土地に家に財を貰えるのだ。
「信、お前は私の剣だ……だが、友にもなって欲しい。だから、個人的なものにおいては友人として接してくれ」
「……分かった、政。俺はこれから、ずっと側にもいれるように今後、兵士からやっていってお前の元にまで登ってみせる」
「ああ、待っているぞ信」
信と政はそうして、友人としての握手を交わしたのである。
そうして、信はとある者と明朝、咸陽を出ると昌文君から紹介した村へと向かい、地図に記された家へと行く。
「ここが俺達の家だ、貂……これからよろしく頼む」
「こちらこそだ、よろしくな信」
実は河了貂は楊端和達とは敵対部族である『梟鳴』の生き残りだという。とはいえ、昔の話なので楊端和は河了貂を受け入れようとしたが、河了貂はそれを断り、『面倒を見る』と言った約束を守れと信についていく事を選び、こうして信と貂は二人で生活を始める事になったのであった……。