キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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八十九話

 

 それぞれ、秦国の大将軍であり、歴戦の老将であった蒙驁に張唐が亡くなってしまった。それにより、多少の影響はあれど秦国の武威が落ちた訳では無い。

 

 むしろ、二人に手向けとして勝利を捧ぐが如く、秦国は戦争を開始するため、動く。

 

 攻めるは趙国の黒女川、五丘地帯の『黒羊丘(こくようきゅう)』である。

 

 

 

 そこを守るはいずれ趙国の三大天の一人として座す逸材とも呼ばれている『慶舎(けいしゃ)』である。

 

 黒羊丘を攻めるため、本軍五万を率いているのは桓騎である。

 

 その桓騎の援軍として向かうよう、咸陽より要請があった。

 

 もっとも飛信隊の役割は元々、独立遊軍であるため、こうした事態で動かされるのは大将軍の軍勢といえど、当たり前と言えば当たり前だ。

 

 

 

 ひとまず、まだ陥落させてから状況が整っていない『什虎』より二万だけを連れて李信は『黒羊丘』へと向かった。

 

「どうか、よろしく頼むぞ」

 

『それはこちらの台詞です。李信大将軍』

 

 その中には張唐の遺言もあって、飛信隊に加わった張唐軍だった者たちの姿もあったりした。

 

 そうして、まずは合流地である『拡珉(かくみん)』へと向かい……。

 

 

 

「忙しい中、援軍ありがとうございます李信大将軍」

 

「止めてください、桓騎将軍。短い間とはいえ、共に戦った仲でしょう」

 

「ふっ、そう言ってくれて感謝する……」

 

「桓騎将軍、この一戦を蒙驁大将軍への弔いとしましょう」

 

「勿論だ。この戦での勝利を手向けとしてやるさ」

 

 桓騎と李信はそう言い合うのだった。そうして、少しすると……。

 

「隊の入れ替え……」

 

「ええ、うちではいつもやっているやり方でしてね。お頭の戦いは早いし変化するので貴方の本陣にも意図が分かる者が入らないと連携が取れない」

 

「だから、貴方が入ると……」

 

「そうです。俺は千人将の一人、那貴(なき)。よろしくお願いします」

 

 桓騎軍の陣営から髪を二つ括りにし、顔の右側に刺青のある男、那貴がやって来て用件を伝えた。そうして、尾平に尾倒など何人か入れ替えに出して欲しいと言われたので応じた。

 

 先に何やらいろいろ言われていたのか、戸惑っていた尾倒以外は喜んで桓騎の陣営へと向かったが……。

 

 

 

 そうして一夜を過ごし、朝になると黒羊丘へ向かった。

 

 

 

「改めて見ると、嫌な地形だな……」

 

「本当に嫌だな」

 

 黒羊はとんでもなく広大な密林地帯であった。

 

 そうして、桓騎との軍議へと向かい……。

 

「御覧になったと思いますが、黒羊は思ってた以上に広大な樹海です。本営は今回、この地を攻略せよとの指令ですが、此処に落とすべき城というものはありません」

 

 桓騎軍の軍師であり、ちょび髭のある男である摩論(まろん)が説明を始めた。

 

「代わりに五つの丘がある」

 

「ええ、そうです。この戦いは五つの丘全てを占拠すれば我々の勝ちです」

 

 摩論は河了貂の言葉に頷き、勝利条件を言うと桓騎軍は左側を自軍の猛将の一人で短髪に左眼の周囲に墨を入れている巨漢、雷土(らいど)を出すので飛信隊は右側を担当して欲しいと要請する。

 

 そうして、中央の丘より奥に前線を作れば序盤から労せず、三つの丘を手に出来るとも言った。

 

 

 

 

「分かった……この戦は元々、桓騎軍のもの。俺達は勝利に導くために来た。助攻は任せてくれ」

 

「頼りにさせてもらう」

 

 桓騎とそんな言葉を交わして進軍準備に李信は向かうのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 趙において黒羊を守るは慶舎だけでは無かった。離眼という城より大将軍に匹敵する紀彗(きすい)なる人物が副将となって参戦していた。

 

 そしてその紀彗の側近こそ髪を短く借り上げ、顔に戦傷もある大男で戦斧を獲物とする猛将、馬呈(ばてい)

 

 もう一人の側近は黒髪の男で軍師の役割を担当する劉冬(りゅうとう)だ。

 

 二人は船を使って秦軍側の左奥の丘の辺りへと来ていた。無論、奇襲を仕掛けるためである。

 

 

 

「ふん、中々やる」

 

 そうして木々に身を隠しながら飛信隊へと奇襲を仕掛け、熱方向からも歩兵たちによる襲撃を仕掛けるも中々の対応力を見せて抵抗してきた。

 

 とはいえ、自分の武力と騎馬隊であればかなりの被害を叩き込めると向かって行ったのだが……。

 

「しいっ!!」

 

「なっ!?」

 

 木々の上から飛び降り、李信は莫邪刀より落雷の如き鋭く凄絶なる剣閃を振り下ろすと馬呈を馬ごと切断した。

 

 

 

『馬呈様ぁぁぁぁっ、おのれぇぇぇっ!!』

 

「ふっ!!」

 

 そうして剣舞を舞い踊りながら、向かってきた趙軍を李信は切り裂いた。

 

 忘れてはならない。そもそも、李信の原点は歩兵であるし獲物は剣だ。

 

 

 

 そう、紅飛や矛を手に入れてどちらも使いこなすとは言え、歩兵としての戦闘技術や剣術も捨ててはいないし、むしろ李信は磨き続けている。

 

 実際、今回は木々の上を飛び回って移動する軽功術を披露してみせたのがその証拠だ。

 

 

 

 

 

 そして、更に……。

 

「まさか、読まれていたのか私達の動きが……」

 

「飛信隊を舐め過ぎたのがお前たちの敗因だ」

 

「(申し訳、ありません……紀彗様……)」

 

 秦側の丘を手にすると見せかけ、中央丘より手前側に戦線を作らせようとした劉冬だがその動きを読まれたが如く、羌瘣たちに猛烈な勢いで攻められ、切り伏せられた事で劉冬も又、この地で散る事となったのだった……。

 

 

 

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