広大な樹海と複数の丘が聳え立つ趙の土地である『黒羊丘』。
この地を攻略する事を任された桓騎軍の援軍としてやってきた飛信隊は桓騎の軍師である摩論の要請で右から攻める事となり、左側は桓騎軍が攻める事で中央の丘より、奥に前線を作る事で趙軍の侵攻を抑えて丘を奪取する作戦を取った。
樹海地帯で奇襲しやすいのもあり、強力な将が仕掛けてくると予測した李信は羌瘣と共に姿を隠しつつ、出る事にし、結果として趙軍において副将を務める紀彗軍の猛将である馬呈、軍師である劉冬を討ち取り、そうして相手の前線を崩し、相手を追いやる事に成功した。
「そんな……馬呈、劉冬……急いで立て直してまいります」
凛々しい顔つきの男である離眼の城主、紀彗にとって馬呈に劉冬は部下というより、兄弟のような関係でさえある。
そんな二人を信頼して奇襲をさせたが、返り討ちにあった事に動揺しながらも気持ちを切り替え、崩されていく左の前線を立て直しに行った。
「流石に手ごわいという事か……だが、李信も桓騎も匂いさえ嗅いでしまえば必ず討ち取ってやる」
「おっしゃる通りです」
「それでこそ、慶舎様です」
髪を丸い飾りで結びつつ、二つに分けた男で趙軍の総大将であり、三大天の座に着こうという程の実力者である慶舎は自信満々に言い、それに恰幅の良い体型の男で将軍の金毛と凄腕の槍使いで慶舎に忠を尽くしている将軍、岳嬰が頷いた。
そうして、趙の三人は中央丘へと進んでいく中……左側から侵攻している桓騎軍においては……。
『ブオオオッ!!』
当初は雷土隊だけであったが、中央の丘が山の如く巨大で砦化されるのが厄介なのもあって桓騎により、元は北で猛威を振るっていた野盗団であり、蒙武より体格は巨大で筋骨隆々、手掴みで大牛の首を捻じ切る怪力を有する禿頭で傷だらけな男、ゼノウを主とする桓騎軍の中で最強の武力を有するゼノウ一家が投入された。
破竹の勢いで趙軍を蹴散らし侵攻する桓騎軍。
「ちっ、丘を登りやがって……ゼノウ、奴ら間抜けを横腹から食い破るぞ」
「この力を導くのは、貴様の役目だ。雷土」
そうして、丘を登る趙軍を蹴散らそうと向きを変えて進むも……。
『うおおおっ!?』
道中で木々を薙ぎ倒す事による妨害と襲撃を受けた。
「ふっ……」
慶舎によって待ち伏せていた岳嬰軍である。
そして……。
「こちらも片腕を奪ってやるまで」
慶舎も精鋭部隊を引き連れ、中央丘の裾を斜めに走り、一気に樹海地を飛び越える事で雷土隊を追っていた二列目を真横から攻撃する事で後続を孤立させる。
更に慶舎軍右翼の各隊は続々とその雷土隊の方へ行軍する事で雷土、ゼノウ隊を孤立、包囲し殲滅の窮地に追いやったが……。
「はは、まさか本当にこうなるなんてなっ!!」
「那貴!?」
「慶舎様の奇襲が読まれていたというのか!?」
雷土とゼノウを襲っている岳嬰軍に対し、那貴と飛信隊の軍数千が襲撃を仕掛けた。
更に……。
「……馬鹿な、この私が匂いを嗅げなかっただと……くっ!!」
他にも飛信隊の幾つかの部隊が慶舎軍右翼に奇襲を仕掛ける事で逆に岳嬰や慶舎を窮地に追いやる結果に変えてみせ、岳嬰も慶舎も素早く、脱出した。
「雷土、ちゃんとこの借りは李信大将軍に返してやれよ」
「言われなくとも分かっている」
そうして、雷土にゼノウ、那貴の軍は中央の丘で砦を作ろうとしていた趙軍へと襲撃を仕掛けて蹴散らしたのであった。
「はははは、流石だな李信……頼りになりやがる」
桓騎はこの報告を聞き、愉快そうに笑った。
そして……。
「焦るなよ、まだまだ戦は始まったばかりだぜ慶舎」
指示を出しつつ、羌瘣と共に本陣に戻った李信は桓騎軍の動きを聞いて指示を出して対処をさせた。そして、急いで逃げたという慶舎たちにまだまだだと言わんばかりに嗤ってみせたのだった。
そうして一夜が明け、中央丘の右側を務める飛信隊は更に侵攻していく。
「ふははは、この陣は対処できまい」
紀彗の指示によって、飛信隊の対岸に布陣をした紀彗軍は高らかに言う。
実際、対岸を陣取られた渡河の戦いは橋や船でもないと難しい。
だが……。
「それがどうとでもなるんだよな」
飛信隊はしっかりとした対処法を用意していた。本来は陣を攻撃するために用意した軽量化により持ち運びしやすくした小型の床弩。
『なっ!?』
そうして、床弩で次々に一方的に攻撃する事で紀彗軍の陣を乱しつつ、速やかに飛信隊は河を、これもまた事前に河があると聞いていたので用意していた船を使うなどして渡河をしつつ、やはり紀彗軍を蹂躙していくのであった……。