黒羊丘は中央の丘こそが重要な場所であり、それを巡って激戦を繰り広げていた秦軍と趙軍。
そして、中央丘の右側においては桓騎軍の五千人将で優れた弓の腕を持ち、指揮能力も高い女性である
そう、後は呼応して動くだけで大きく中央丘を取る事が出来る筈だった。
しかし、李信は『飛信隊』と桓騎軍共に待機を命じ、一夜明けてもその命令を徹底させた。
そうして、虚を衝かれた右の前線にいた趙軍が丘近くで布陣している『飛信隊』へと攻め込み、当然交戦を開始する。
待機しながらも有利な地形を取っているし、そもそも飛信隊の多くは幾度も激戦を潜り抜けてきた猛者で構成されているし、李信の武威と勇姿で育ってきた者たちが故に十分に防戦は出来る。
そんな状況でも飛信隊は援軍を送ったりせず、桓騎軍も膠着状態のままだったが……。
「(おのれ、おのれ……意地でも私に動きを補足させぬつもりか……李信、桓騎っ!!)」
丘の頂上で李信と桓騎を待ち伏せていた
慶舎にとっては李信と桓騎が待ち伏せた罠の近くで馬鹿にしているような気さえしたのだ。
そう、だからこそ……。
「(良いだろう、ならば本当に動けぬようにしてやる。合従軍の借りもあるしな)」
そうして、慶舎は丘の右側の下で『飛信隊』の方を見……。
「全軍突撃っ!!」
中央丘の頂上から慶舎は精鋭を率いて突撃を開始した。
そう、『待ちの達人』が……『沈黙の狩人』が動いてしまったのである。
「(三日くらいはかかると思っていたが、一日ちょっとしか耐えれない奴だったか……そんな奴が『待ちの達人』? 『沈黙の狩人』? 過大評価だな)」
そして、李信はそんな慶舎の動きを忍耐が足りないと嘲笑う。彼は敢えて、慶舎に桓騎と協力して忍耐勝負を仕掛け、その勝負に打ち勝ち、慶舎は負けた事でこうして李信が待ち伏せているところへ出てきてしまった。
元張唐将軍の軍含めた『飛信隊』の本体に李信麾下の騎馬隊は実は現在、丘の右側の下で交戦している飛信隊と趙軍の近くに隠れているのだ。
「獲物が罠にかかった。待たせたな、全軍突撃だっ!!」
『オオオオオッ!!』
そうして、李信率いる『飛信隊』は隠れている場所から趙軍へと突撃を開始する。
「俺達もいくぞッ!!」
そして飛信隊に続いて桓騎軍の中で随一の騎馬隊を率いる髪を逆立たせ、両目の周りに斜線上の化粧をした
「ふっ!!」
李信は紅飛で駆けながら、剛弓を構えると共に三本の矢を番えて放ち、そして慶舎の肩に足や馬を射抜く。
「ぐあっ!?」
慶舎は驚きのままに倒れながら一瞬、弓を構えた李信の姿を捉え……。
「(馬鹿な、罠にかけられたというのか。この私が……)」
李信の罠にかけられた事を悟る。
李信はそんな慶舎に目もくれず、次から次へと趙軍を凄まじい弓捌きにて射抜いていく。
こうして趙軍は次から次へと『飛信隊』と『桓騎隊』に屠られていき、しかも慶舎は……。
「敵総大将、慶舎。この厘玉が討ち取ったぁぁっ!!」
厘玉によって討ち取られた。これは元々、慶舎の首を譲るという桓騎との交渉が故であった。
「このまま攻め上がるぞぉっ!!」
『オオオオオッ!!』
弓を紅飛に取り付けている袋のようなそれに納め、莫耶刀を腰から抜くとそのまま、丘の方へ麾下の騎馬隊と一つの巨大な獣となって突撃を開始しながら、目の前の趙軍を切り伏せていく。
「良し、いくよっ!!」
「さて、いきますよ」
「いくぞっ!!」
「オオオオッ!!」
そうした李信達の動きに呼応して黒桜に左側の丘を取ろうとしている桓騎軍の参謀である
「こ、こんな……慶舎様が討たれるなど……おのれぇぇぇっ」
摩論と対峙していた慶舎の副官でもある
「慶舎様が……う、うおおおおおっ!!」
岳嬰もまた、怒涛の攻め込みに押し負けた事で慶舎の仇を取る事を誓いながら、敗走を開始した。
「これが李信、桓騎か……」
李信と桓騎の恐ろしさを感じながらも『離眼』の地に退却しようとした
「さあ、選べ。降伏か、死か……」
「っ!?」
逃走先に李信率いる『飛信隊』が待ち伏せており、囲まれてしまった。
「……降伏する」
紀彗にはとある過去があり、だからこそ『離眼』の者を守る誓いと責任がある。
故に討ち死にを選ぶ事は出来ない、よって、降伏したのであった……。
厘玉の厘はにんべん?があるのが正しいのですが、パソコンやスマホにないので『厘』で代用していますのでご了承のほど、お願いします。