キングダム――大将軍を目指す男   作:自堕落無力

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九十三話

 

 

 秦軍は『黒羊丘』での趙との戦いに勝利した。

 

 趙軍の総大将で次期三大天になろうという大将軍である慶舎を討ったのである。彼の側近である金羊と岳嬰は上手く敗走したので討てなかった。

 

 とはいえ、正直李信にとってはその二人などどうでも良く、是が非でも捕えたかった者がいた。『離眼』の城主である紀彗だ。李信はあらかじめ予測していた彼の撤退場所に先回して兵を伏せつつ、そうして降伏させる事に成功したのだ。

 

 

 

 なら、捕えた紀彗達の処遇はと言えば……。

 

「俺の仲間になれ、紀彗。無論、タダでとは言わない」

 

 李信は紀彗を仲間になるようにと声をかけた。

 

「……どうすると?」

 

「これより『離眼』を攻め、略奪や侵略をしない。そして、今後も変わらず『離眼』の城主は貴方だ、紀彗」

 

 紀彗の問いになんと李信は敗将への扱いとしては破格の待遇を申し出たのだ。

 

 

 

「そ、そんな事が……」

 

「自分で言うのはなんだが、俺は秦に相当に貢献しているのでな。一つや二つは無理も通るだろうし、通してみせる。それに優秀な将が手に入るならこれぐらいはするべきだ」

 

 李信は驚愕する紀彗に対し、言ってみせた。

 

 

 

「紀彗、『離眼の悲劇』については聞いている」

 

 実は李信は慶舎に対し、忍耐勝負を仕掛けていた時、諜報部隊には情報収集をさせており、そうして得た情報の中に『離眼の悲劇』の話が合ったのだ。

 

 

 『離眼の悲劇』――それはまだ離眼一帯が治まっておらず、離眼の城主が先代にして紀彗の父である紀昌(きしょう)だった時に起こった話。

 

 当時、大きく対立していた暗何(あんか)の城主である唐寒(とうかん)を討ち、『旦虎(たんこ)』の戦いに勝利した紀昌達。

 

 しかし、唐寒の残党を紀彗軍が追っている間に唐寒の子である唐釣(とうきん)が留守中の離眼城を襲撃、旦虎での激戦で負傷し疲れ果てていた馬呈に劉冬に負傷兵たちしかいなかった事もあり、対抗できずに城内にいた女に子供、老人全員が人質となった。

 

 

 

 唐釣は人質たちの命と引き換えに紀昌と将校、兵たちの投降を迫った。

 

 そうして、紀昌はそれを了承し、仲裁に来た趙が『今後、離眼の残兵に女子供、老人への手出しを禁ずる』という条件を出す中、紀昌とその将校に兵たちは唐釣による火刑で焼き殺されてしまった。

 

 その後、紀彗は馬呈に劉冬らと力を合わせてたった五年で離眼の力を復活させ、次の三年で暗何も屈服させ、一帯の盟主となったのだ。

 

 

 

「そんな話もある以上、離眼については紀彗が治めるのが一番だと思った。それと黒羊丘の戦いで勇姿も見せてもらった。この取引はそれに対する俺からの最大限の敬意と思ってくれ」

 

「……」

 

 紀彗は李信の話に考え……。

 

「言っておくが、譲歩するのは今回が最初で最後だ。どうしてもと言うなら……分かるな?」

 

「……元より負けた身であるのも関わらず、これほどの条件を出されれば受けざるを得ませぬ。これよりは李信将軍、『離眼』の力は貴方のものです」

 

「これからよろしく頼むぞ、紀彗」

 

 取引により、紀彗と『離眼軍』は李信の仲間となったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 桓騎軍――それは元野盗で構成された軍団である。だからこそ、他の将兵から蔑むように見られたり、嫌悪されたりする事が殆どであるが……。

 

「尾平達が世話になった。感謝する」

 

「い、いえこちらこそ助けられましたし……」

 

 李信と飛信隊は違った。同じ仲間、あるいは同じ人としての敬意やら態度で接してくれる。

 

 だからこそ、桓騎軍は他の将兵たちと違って、李信と飛信隊の事を受け入れているのだ。無論、李信と飛信隊の武威と勇姿もあってだが……。

 

 

 

 そして、当然……。

 

「いやー、李信将軍中々良いよなぁ。話し分かる人だし。つうか手柄譲ってくれたしな」

 

 桓騎軍の将たちもそれは同じ。

 

 今回の戦いで慶舎の首を取るという手柄を上げさせてもらった形の厘玉は特に李信に感謝しているし、敬意も抱いている。

 

 

 

「ええ、それに中々戦上手な方も多くて大変、助かりますよ」

 

 摩論も飛信隊の戦上手で助けられた事で喜んでいる。

 

 

 

「まあ、仮にもお頭と息を合わせられるのは凄いというしかない」

 

「だな、まさかお頭の戦術に対応出来る奴がいるとは思わなかった」

 

 黒桜に那貴は臨機応変に過ぎて複雑な桓騎と協力して戦える李信の戦術に一目置いていた。

 

 

 

「ちっ、そんなの偶々に決まっている……戦が強いのは認めるが」

 

 雷土は言葉に反して複雑な表情を浮かべながら、舌打ちする。援軍で窮地を助けられたのもあって李信の武力は元より、戦術も優れていると認めざるを得ないからだ。

 

 

 

「ああ、リシン強い……俺達より」

 

 ゼノウも戦狂いとあって、李信の実力を察しており、だからこそ彼なりの敬意を李信に抱いているのだ。

 

 

 

 それぞれ複雑なものはあれど、桓騎軍の将たちも李信達を受け入れていた。

 

 そうして……。

 

 

 

「蒙驁将軍に……」

 

「白老に……」

 

 李信と桓騎は最初の約束通り、天にいる蒙驁将軍へ勝利を手向けにしつつ、酒を飲み交わし始めた。

 

 

 

「蒙驁将軍は間違いなく、偉大な方でした」

 

「ああ、それは同感だ。俺が認めているのは白老とお前だけだよ、李信」

 

「それは光栄です。俺も将として貴方に敬意は持っていますよ」

 

「くく、ありがとよ」

 

 笑みを浮かべ合いながら、酒の飲み交わしを楽しみ合ったのだった。

 

 

 

 翌朝、李信はこの黒羊丘の秘境のような場所にある集落へと向かった。

 

「これより、この地は秦軍の地となりますが、だからと言ってこの集落を襲い、略奪する事はありません。普段と変わらない暮らしができるようにしますのでご安心ください」

 

「李信大将軍……貴方のような方からそう配慮していただけるとは……ご安心ください、この集落は趙軍の領土となるずっと前からここにあります。今が何人だから、何人が敵というのはぴんとこないのです」

 

「そうでしたか」

 

 集落の村長である老婆に今後についての話をして納得してもらった。

 

 

 

 その後は黒羊丘に砦を築いたり、紀彗たちと一緒に離眼へと行って、離眼の者たちに今後は秦に仕える事を紀彗本人から受け入れるよう話してもらったり、周囲の巡回やら必要な事をしていく。

 

 

 

「これから、よろしくお願いします李信将軍」

 

「良いだろう、よろしく頼む」

 

 そんな中で桓騎軍から那貴の部隊がやってきて、飛信隊に入る事を願ったので受け入れた。

 

 とはいえ、元々李信達には『什虎』での治安維持の仕事もあるので引継ぎにやって来た蒙恬に桓騎軍との事やら紀彗は連れていくものの他の何名かの離眼の将らと協力する事など言ってから、李信達は什虎へと戻っていく。

 

 

 

 更に勝利の報告と同時に咸陽へと李信は一つの提案を送っていた。

 

 

 

『趙の目と意識をこのまま西部に引き付け、隙を衝いて(ぎょう)を取る』

 

 要約すればこのような内容だった。

 

 

 

「……成程、これは確かに……李信大将軍の戦略眼は凄まじいな」

 

 昌平君は趙において王都から近く、重要な都市である鄴を取るという李信からの提案であり、戦略に彼の能力の凄さを改めて実感させられたのだった……。

 

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