■■島豪雨・地震から89日後⑤
「小淵家の場所は?」
そこに天見さんへの手がかりがある。
俺が問うと、少しだけ先輩が鼻から息を抜いた。たぶん、笑われたのだ。青臭いとでも思われたのだろう。
『こっちはウチのシマだ。住所は──』
運よく、聞き終えるよりも早くタクシーを捕まえることが出来た。電話からの声をそのまま運転手に伝える。
とにかく急いでくれ、と注文したい気持ちをグッと堪える。一応、警察官なのだ。法定ギリギリの運転を指示させるわけにはいかない。
頭を窓ガラスに預ける。熱くなっている頭に冷たいガラスは心地よいが同時に鼓膜の鼓動が際立つ。だいぶ頭に血がのぼっている。冷静にならないと……。
どうして天見さんの私物が夕空の自宅にあったのか……。それよりも、どうして見つけることができたのか。警察に知らせるに至るにはそれなりの理由が必要なはず。
推理するよりも先にメールが来た。真坂先輩からだった。
事の経緯が書いてある。
メールは短い。
3日前(3月11日)から夕空が出かけたきり自宅へ戻らぬまま連絡も取れぬため、3月14日に家族(母親 小淵恵美)が警察署窓口へ相談を行う。
相談を受けた係員は捜索願の提出を求め、小淵恵美は許諾。同日、窓口はこれを受理。
同日3月14日。小淵恵美より、警察官による自室立ち入りの捜査が希望される。
過去、3か月前の1度の拘留歴から巡査部長による判断のもと、東■■署勤務の女性巡査が小淵家内へ立ち入り捜査を行う。
小淵夕空の自室を調べたところ、本人かつ家族のものとは考えられにくい衣服などの物品がいくつか見つかる。
その中に、天見の警察手帳も見つかった。
最後の一文は先輩が書き足したのだろう。添付された写真には見つかったという衣服や持ち物が写っている。
天見さんの警察手帳だけ、1枚に収められている。見つかった物の中ではたしかに一番インパクトの強い。現役の警察官が関わっているとなれば、俺たちの動き方にも大きく関わってくるからだ。
メディアへ目立つよう振る舞うか、それとも警察内部でも情報の拡散を最小限に収めながら粛々と事件解決を図るか。
前者は見せしめ。後者は隠ぺいの色が強い。
俺たちの上司が決めることだが、現段階ではどのように振る舞うかは決まっていない。まだ、天見さんは巻き込まれたのか、それとも小淵夕空の失踪に関わっているのかわからないからだ。
それを調べるのが俺の仕事になった。ただの家出少女の捜索であったら、刑事が呼ばれることはまずあり得ない。できるだけ早く解決ないし、天見さんをシロにしたいのだろう。
腹の底と頭に上った熱の温度差で肺に霞のような空気がたまる。どうも俺は今、複雑な心境に陥っているらしい。