■■島豪雨・地震から89日後③
マンションの前で操作方法に悩んでいると、ポケットのスマートフォンが鳴った。
「もしもし、お疲れ様です」
電話は真坂先輩からだった。
『おう、お前、天見には会えてないよな?』
「はい。インターホン押してもダメでした。ポストも溜まっているし、帰ってないんじゃないんですかね……」
先輩が短く息を吐いた。僕の返答が予想通りだった。そんなため息だ。
『いいか、よく聞け。最後まで落ち着けよ』
「なんですか、嫌な前振りだなあ」
ロクでもない話なうえ、天見さんに関することだと察する。
『天見が担当してた、あの女子高生の件があったろ』
「ああ、夕空、でしたっけ?」
『そうそう。ゆあだ、夕空。なんだか名字が思い出せないんだよなあ』
「天見さんが名前でばかり呼んでましたからね。印象が薄くて……」
先輩が名前をフルネームで覚えていないのも珍しい気もする。担当の事件でもないからこんなものか……。かく言う俺も夕空の名字を思い出せない。確かに耳にしたし、史料で見たはずなのに。ぽっかりと忘れてしまっていた。
しかし、些細な問題だ。テストのときに漢字を忘れてしまっても、長い目で見れば調べれば片がつく。
『それよりも、夕空がどうしたんですか?』
「そいつの証言で見つけた仏さんが無くなったって、さっき連絡があった」
「……今、研究と史料保管の目的で大学に渡していましたよね。無くなったのは大学から?」
『大学の研究室で保管していたらしい。一応、セキュリティはしっかりしていると思って、俺が天見に紹介したんだが……。教授が講義から戻ってきたら無くなっていたらしい』
「盗まれたんですか……?」
『まだ決まったわけじゃねえよ。ちょっと年のいった爺さん先生だからな。どこかに移したのを自分で忘れてる可能性だってある。だいたい、骨だけ盗んでどうする。骨格標本でも作るつもりか?』
「いや、そんな馬鹿な理由で……。ていうか全部なくなったんですか? たしか、5体ぐらいありましたよね?」
『全部だ』
女性の骨の総重量は8~10㎏ほど。保存状態はどれも良かったはずだから、少なく見積もっても40㎏はある。仮に盗まれたとしたら、犯人は一人で運んだ? 重量もそうだが、大きさだってバカにならない。目立たず運び出そうと思ったら、それなりの準備が必要になる。とてもじゃないが、真昼の大学構内を目立たず5人分の骨を運ぶなんてできやしない。
「あれ、無くなったのは骨だけですか? 一緒に渡した遺品は?」
『あ? ああ、そういえば何も言ってなかったな。骨が無くなったって、慌ててたからそっちは残ってんじゃねえか』
また確認してみるわ、と真坂先輩は続ける。
『まあ、大学の場所はうちの署の管轄外だからな。俺たちにできることはそう無い。一応、向こうの刑事の知り合いがいるから、何かわかったら教えてもらえるようにしておくよ』
それよりも、と先輩がトーンを下げて切り出す。こっちの話が本番なのだ。喉の奥に重たい唾を押し込む。
『天見の持ち物が見つかった』