マスターは語らない   作:文織

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タイトル詐欺

そして似た作品見付けたのに投稿するこの作者の図太さよ。
都合悪かったらコメントお願いします。


霧雨魔理沙は諦めない

「噂をすれば影──いらっしゃい、魔理沙」

 

「やあ、マスター」

 

 魔理沙は扉を閉じるとカウンターの端の席に腰を下ろした。

 そしてそのままカウンターに突っ伏した。

 

「はぁ~、自信なくなっちゃうぜ……」

 

「なにかあったのか」

 

 本来あまり店員から話しかけるべきではないというのがマスターの持論だが、この娘は別だった。

 こちらから話しかけないと全部自分で抱え込んでしまう、どこまでも普通で乙女な魔法使いであると理解する程度には交遊のある仲だった。

 

「今そこで霊夢とすれ違ったんだけど、完全に無視された……」

 

「ハハハ、あいつも今悩んでる真っ最中だからな」

 

「霊夢が?嘘だろ」

 

 どうやら魔理沙にとって霊夢が悩むというのは相当意外なことだったらしい、魔理沙は久しく本気で驚いている表情を見せた。

 

「本当さ、内容は内緒だがな。で注文は?」

 

 ホットの紅茶、と魔理沙は短く注文して再び突っ伏した。

 水を火にかけて沸騰させながらティーポットとカップにお湯を注いで温める。

 湯が沸騰したらティーポットに茶葉を入れ、勢いよく沸騰した湯を注ぐ、そうすることで茶葉がポット内でよく動き、美味しくなるのだ。

 あとは三分ほど蒸らせば完成だ。

 

「なあマスター、マスターは私のことどう思う?」

 

「なんだ藪から棒に」

 

「いや、変な意味じゃなくて霊夢のライバルとして、ね」

 

「そうだな、霊夢と年が近い友人なんかお前くらいだろ、そういう意味では本当に誰より適任だと思うがな」

 

「確かに、子供の頃の霊夢も知ってるけどさ……だからこそ、心のどっかでこいつには敵わないって思っちゃうんだ……」

 

「まあ、あいつは掛け値なしに天才だからな」

 

「そうなんだよ!あいつは本当に天才でさ、努力なんかなんにもしてないのに、私なんかじゃその影も踏めないくらい前に進んでるんだ……」

 

 この娘の最近の悩みはもっぱらこれだった。

 自分で霊夢のライバルを名乗っているにも拘らず、霊夢に勝てる気配がないということだった。

 

「正攻法じゃ勝てないのかな……」

 

「なに馬鹿なこと言ってるんだ」

 

 落ち込んでいる魔理沙の元に完成した紅茶を出す。

 

「お前、今までの自分の努力全部嘘にするつもりか?」

 

「そんなつもりは……」

 

「だったら今のお前のスタイルを貫き通せよ」

 

「私のスタイル……」

 

「お前の持ち味は愚直って言葉がぴったりなくらい真っ直ぐなとこだろ、何をするにしても一番手っ取り早いのはまっすぐ最短距離を駆け抜けることだ」

 

「まっすぐ、最短距離を……」

 

「お前が一番努力してることはこの俺が保証してやる」

 

 この娘は本当に努力を惜しまない娘だった。

 商人の娘という魔術からはかけ離れた家系に生まれながら、偶然見つけた一冊の魔道書に心引かれ、勘当同然に家出して修練を始めたのだ。

 魔道書というのもお粗末なオカルト紛いの本から事実を見付け出し、吸収し、技術へと昇華させる。

 一度ここのカウンターで勉強している姿を見たことがあったが、注文された紅茶にも気づかないほど真剣そのものだった。

 誰にも頼らずに一人でここまでやり抜いたのだ。

 どこまでも素直で、真っ直ぐな彼女だからこそ、ああも心引く弾幕が出せるのだろう。

 

「ったく、柄でもない人に喋らせやがって」

 

「へへっ、悪いねマスター、でも自信付いてきたぜ」

 

「そりゃよかった、じゃあこれ飲んで締めだな」

 

 魔理沙の前に新たに赤い液体が入ったコップを差し出す。

 

「これなに?」

 

 そのコップをしげしげと眺めながら魔理沙は尋ねた。

 

「それは『ブラッディ・マリィ』ってカクテルでな、先人が『断固として勝つ』って意思を込めて飲んだカクテルだ」

 

「断固として勝つ……」

 

「サービスだ、ただし負けたら払えよ」

 

「了解だぜ、勝てばタダなんだな」

 

 魔理沙はそのカクテルをグイっと飲み干して席を立った。

 

「マスター意外といい男かもな」

 

「はっ、今さら気付いたか」

 

 それじゃあ行ってくるぜ。と魔理沙は店を出ていった。

 

 

──数日後

 

 

「なんだ霊夢、随分と不機嫌そうじゃないか」

 

「別に、何でもないわよ」

 

「そうかい、注文は?」

 

 緑茶、と霊夢は短く答え再び頬杖をついて明後日の方向を向く。

 どうやら相当虫の居所が悪いらしい。

 

「そういえば最近魔理沙が来たんだがな」

 

 いつものように緑茶の準備をしながらそれとなくかまをかけていく。

 そしてそのかまかけに霊夢はあっさりと引っ掛かり、肩がピクリと動く。

 そういった反応を見せる辺り、まだまだ霊夢も子供だなと感じさせる。

 

「魔理沙が、どうしたのよ」

 

 今日会ったときから変わらない仏頂面を向ける霊夢に苦笑しながら続ける。

 

「今度こそ霊夢に勝つって言ってたからな」

 

「……」

 

「どうだ、ちょっとは魔理沙が努力してた理由がわかったか?」

 

「……ええ、文字通り痛いほどにね」

 

「そりゃよかった、ちなみに目標のほうはどうなんだ?」

 

「ええ、そっちもできたわ、あなたには内緒だけどね」

 

「なんだ、つれないじゃないか」

 

「あなたには言われたくないわ」

 

「そりゃ残念だな」

 

 いつものように霊夢に緑茶を出しながら、今日もカフェーは平常に経営している。




本編で語っていないマスターの外見について

身長:175cmくらい
年齢:不明
本名:不明
種族:人間(?)
特徴:少し赤っぽい茶髪で天パー、髭

……これ設定メモのコピー&ペーストなんだぜ。

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