男の娘ですが姉の代わりに聖女やります 作:TEC
いつもと変わらない楽しい日常
お父さんがいてお母さんがいて、そしてお姉ちゃんがいる。
活発でみんなから慕われている。いっつも僕に優しくしてくれる自慢のお姉ちゃんだった。
「お姉ちゃん!」
「キアラ!どこにいるの!」
今日だっていつも通りお姉ちゃんと楽しく過ごしているはずだった。
「残念ながらキアラさんは見つかりませんでした。これ以上の捜索は難しく」
衛兵さんに言われたのは残酷な現実。
「アデル!」
いつも僕を引っ張ってくれていたお姉ちゃんが突如としていなくなった。
「そ、そんなキアラ!!」
「おい!ジェーン!」
お母さんは衛兵さんの言葉を聞いた後外に駆け出して行ってしまった。お父さんも後を追いかけていく。
僕は、僕は何をすればいいんだろう。
「キアラ、キアラ…」
翌日お母さんは部屋でずっと塞ぎ込んでしまった。
「…」
お父さんもそんなお母さんの声が聞こえてくるリビングでずっと俯いている。
「ちょっと出ていてっくる」
「あぁ」
そんな空気に耐えられなくなって僕は家を出た。いつもは笑顔で送り出してくれるお父さんも空返事を返してくるだけだった。
「お姉ちゃん…」
僕だってお姉ちゃんがいなくなって悲しいはずなのに何故か涙がでてこない。
なんとなくお姉ちゃんが大好きだった丘にきた。
「見て!アデル、ここの景色最高じゃない?」
お姉ちゃんが自慢気に語っていたのが頭の中に蘇ってくる。
「お姉ちゃんじゃなくて僕がいなくなれば…」
そうすればお母さんは悲しまなくてすむし、お父さんも元気になってくれる。
お姉ちゃんの幼馴染達の人達も安心してくれるよね。
「まぁ、無理だよね」
ガチャ
「ただいま」
「キアラ!帰ってきたのね!」
お母さんに泣きながら抱きしめられた。
「ほらロイ、キアラはやっぱり帰ってきたじゃない!」
僕を抱きしめたお母さんがお父さんに叫んでいる。
どういうこと?まるで僕じゃなくてお姉ちゃんが帰ってきたみたいに
「ジェーン、何を言ってるんだ。帰ってきたのはキアラじゃないアデルだぞ!」
「アデル?誰のことを言ってるの。紛れもないキアラじゃない!」
「え?」
「ジェーン、お前…」
「キアラ、本当に良かっ、た」
バタ
「お母さん!」
すぅすぅ
「大丈夫だ。ずっと眠れてなかったから気が緩んだだけだろう」
お父さんがお母さんを抱き上げて寝室につれいていく
僕はお母さんに言われたことがまだ信じれていなかった。
ーーー
「やっぱりお姉ちゃんじゃなくて、僕がいなくなれば良かったのかな」
「ジェーンも一時的に混乱しているだけだ。そんなこと言うんじゃない」
「でも」
「アデルも少し休みなさい」
僕の言葉を遮ってお父さんはリビングから出て行ってしまった。
翌日お母さんが僕の名前を口にすることはなかった。
「キアラダメじゃない。しばらくは安静にしてなさい!」
「キアラ何かしてほしいことはない?」
ずっと僕に向かってお姉ちゃんの名前を呼んできた。
「ジェーン、キアラじゃなくてアデルだ」
「だからアデルって誰のことを言ってるの!」
お父さんも何度か注意はしてたけど意味がなかった。注意するたびに今みたいに怒鳴ってる。
僕は意を決してお父さんにあることを伝えた。
ーーー
俺は父親として失格なのだろう。
「これでいいだろう。もともとの背格好はキアラと一緒だったから髪の長ささえ一緒にすれば見分けがつかない」
最愛の娘を失い、さらに塞ぎ込み立ち直る兆しが見えない妻をみて俺は参ってしまったのだろう。
いや、すべて都合のいい言い訳だ。
息子のアデルを娘のキアラに見えるように細工をしながら俺は自己嫌悪する。
「うん。ありがとうお父さん」
そういってこちらを見たアデルは、知らなければキアラにしか見えなかった。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
本当に俺はどうしようもないやつだ
ーーー
「僕、私は今日からキアラ・キャンベルだ」
自分に言い聞かせるように呟く。
ガチャ
「おはようお母さん」
「おはようキアラ」
お母さんはいつも通りの笑顔を浮かべながら起きてきた。
「キアラあなた、セシル君たちに会ってないでしょう」
そうだ忘れてた。お姉ちゃんの幼馴染でいつも一緒に遊んでる人たちだ。
「みんな貴方がいなくなってから元気がなくなってるんだから会いに行ってあげなさい」
「そうだね。帰ってきたことを伝えてくる」
お姉ちゃんの友達と会うならしっかりと演技しないと。
トントン
「えっと、ごめんください!」
ガチャ
「はい、あらキアラちゃん!」
「あ、、、どうもおばさん!」
危ない、一瞬誰か分からなかった。確かこの人はアデルさんのお母さんだ。
「キアラちゃん大丈夫だったの?行方不明になったって聞いたけど」
「はい。お騒がせしました!」
「はぁ~、何事も無くてよかったわ。ウチのセシルが探しに行くって聞かないし、妹のアーリアもそれについていこうとするし」
「あはは、ごめんなさい」
「まぁ無事で何よりだわ。今呼んでくるわね」
そういっておばさんは家の中に引っ込んでいった。バレることがなくてよかった。
ドタドタドタ
家の中から2人分の足音が聞こえてくる。
「キアラ!」「キアラお姉ちゃん!!」
「わっ」
2人がすごい勢いで扉を開けて出てきたので驚いてしまった。
「無事だったのか⁉」
「うん。見ての通りだよ!」
セシリさんが僕に詰め寄ってくるのに負けじと答える。
「本当に?本当に大丈夫なの?」
妹のアーリアさんが僕の体を見渡し確認してくる。
「大丈夫!心配かけてごめんね」
僕は両手を合わせて2人に謝罪を行う。お姉ちゃんならこうするだろうことを行う。
「みんな心配してたんだぞ。待ってろすぐに呼んでくる!」
セシルさんが余程急いだのだろう程なくしてお姉ちゃんの幼馴染の人たちが集まった。
「全く、あんた本当に心配したんだからね」
「アイシャ心配かけてごめんなさい」
「いいのよ。キアラが無事ならそれで」
「あぁ、本当に無事で良かったぞ!」
「アルジェもありがとう」
そのあとは他愛も無い話をして帰路に着いた。
お姉ちゃんからよく幼馴染の人たちの話を聞いてたから何とか話をすることが出来た。これからこれを毎日続けていかないといけないのか。
「ただいま」
「おかえりキアラ」
「おかえり」
家に帰るとお母さんと仕事から帰ってきているお父さんが出迎えてくれた。
「セシル君たちとは会えた?」
「うん。みんな会えたよ」
「なら良かったわ。ご飯にしましょう」
「キアラ話があるんだ」
お母さんが買い物でいない時にお父さんが神妙な面持ちで僕に話しかけてくる。
「今後アデルのことを聞かれたら、俺の王都にいる親戚の家にお世話になっていることにしよう。理由としてはそこで勉強したいことがあるからと」
内容は僕がいなくなったことに対しての辻褄を合わせるための話だった。
「…うん。わかった」
自分で言い出したことだし、僕という存在がいなくなった事に対しての言い訳も必要だけど何だか、おとうさんにお前はいらないと言われているようで悲しかった。
それからはお母さんだけではなくお父さんも常に僕をキアラとして扱い出した。
朝目を覚ましてリビングに行けばいつも通りお母さんが料理を作ってくれてる。
「おはよう。お母さん」
「おはよう。キアラ」
もうすっかり朝のルーティーンになった髪を整える作業。髪が伸びれば伸びるほど手入れに手間がかかる。
でも、お姉ちゃんは髪を伸ばしていたから切るわけにはいかない。
「今日はセシル君とデートなんでしょう?」
「普通に買い物に行くだけだよ」
お母さんがにやにやしながら僕に話しかけてくる。どうにもお母さんはお姉ちゃんとセシルさんが好意を寄せあっていると思っているようだ。
お姉ちゃんがどう思っていたのかは僕にも全然分からない。でも。セシルさんはおそらくお姉ちゃんに好意を寄せいている。
「おはよう、キアラ」
だって、僕に会う度に少し顔を赤らめて、でも嬉しそうに笑ってる。それに答えるように僕も笑顔を浮かべる。
傍から見たらお似合いのカップルに見えるのかな?
「はぁ」
セシルさんと買い物が終わって帰宅した僕はため息を吐いてしまった。
「どうしたの、セシル君と何かあった?」
「何でもないよ!」
お母さんが心配そうに僕を見つめてくるけど何事もなかったように返事をする。
「お父さんもしばらく仕事で家に帰ってこれないし何かあったらすぐに言うのよ」
「うん。わかってるよ」
ドンドンドン
「誰かしら」
「私が出るね」
ガチャ
「あ、神父さん」
扉を開けた先にいたのはいつも町にある唯一の教会にいる神父様だ。いつもの穏やかな雰囲気がなくなりとてもあわてているようだった。なにかあったのかな?
「おはようございます。朝早くに申し訳ない」
「あら、神父様。どうされました?」
私の後ろから遅れてやってきたお母さんが神父さんに話しかける。
「教会本部に先ほど女神様より天啓がおりました」
「天啓?」
「そう」
神父様は一呼吸おいてから天啓について話し出した。
「天啓の内容は、キアラさん。あなたが聖女であるという内容です」