なんか気づいたら何も見えない真っ暗闇に浮かんでいる、気がする。気がするってのはまぁ、周りがなんも見えないからなんだけど。浮いてる感覚だけはあるから、真っ暗闇で浮かんでいるのだけは分かる。
(ここはどこ? 私は誰?)
名前にもやがかかってるみたいに思い出せない。なんてこった、気づいたら名無しちゃんになってしまっていたのか。
でも何があったのかは思い出せるぞ。私は普通のJKで、確か車に撥ねられたはずだ。アレは痛かったな、うん。人生でそう経験できるものじゃないぞ、車に撥ねられるのは。
車に撥ねられたら真っ暗闇。真っ暗闇……ハッ! もしやここは、宇宙か!
(車に撥ねられて宇宙へ。つまり私は、人類史上初の宇宙で生きている人間ということに?)
こりゃあ地球に戻った時にインタビューされること間違いなしだね。今のうちになんて答えるかを考えておくか。
しかし本当に何もないな。宇宙には何もないって言われてるけど、せめて星ぐらいは見えてもいいんじゃないだろうか? てか今気づいたけど瞼が開けられん。何も見えないのは瞼が開かなかったせいか。どうやらここは宇宙ではないらしい。残念。
それからどれくらいの時間が経ったのかは分からない。ただ、気づけば光のようなものが見え始めた。
(あそこに進めばいいのかな?)
なんだか息苦しくなってきたし、しかも声が聞こえてきたし。光の方に進むと声が大きくなってきた。つまりあそこに進めばいいのだろう。何とかもがいて光の方へと進んでいくと──
「……れた、生まれたぞ」
「息もしてる、身体も震えている。大丈夫だな」
「まずは身体を拭くぞ。タオルとお湯で」
人間の声が聞こえた。しかも複数。生まれたとな。
さっきまでの謎の黒い空間、生まれたという言葉、そして意識がはっきりしている私……なんとなく読めてきた。これはつまり、転生というやつではないだろうか?
(前世の漫画で読んだことがあるぞ。これはつまり、そういうことだね!)
ただ、どこに転生したのやら。というかどこかなここは? 言葉は分かるし、もしや日本だったりします? いや、まだファンタジー世界の希望はあるかもしれない。
「ブルル……」
おっと、人ではない声が聞こえるな。てことはここは、動物の小屋かな? 病院ではなく小屋で生まれたってことは、私の今世は聖人かなにかか。これは徳を積まなければならないね。
(ひとまずお腹が空いた。何かないかな?)
あたりを見回すと、見えてきたのは人と馬。さっきの動物の声はこの馬だったんだね。人の方は記録をつけてたり、何かしようとしている。
「きょろきょろしているな。母親を探しているのか?」
「お前のお母さんはこっちだよ~」
ほほう、私の母親か。それは興味があるぞ。さて、どなたさん……え?
(ちょっと待ってください。そこにいるの、お馬さんでは?)
待って待って、どういうこと? というか、何かおかしくないだろうか? 身体が上手く動かせないし、視界もなんかおかしいし。
どうにか頑張って手と思われる部位を見る。映ったのは母親(仮)と同じ、お馬さんの脚だ。ははーん、なるほど把握。
(私の今世は馬ぁぁぁ!?)
ちょっと待ってほしい。まさか人じゃなくて馬に転生するとは思わなかったんですけど!?
どうなってるのどうなってるの!? 誰か説明してちょうだいよ! どうして神様との会話がないの!? こんな状態で放り出されても私何にも分かんないよ!
「戸惑ってるな。母親を認識できていないのか?」
「よ~しよし、大丈夫だぞ~。怖くないぞ~」
なんで! お馬さんなんで! なんでこんなことにぃぃぃ!?
◇
どうも、馬に転生した元JKです。今は牧場の方でのんびりさせてもらっています。スローライフ満喫なう。
最初はま~驚きましたね。まさか馬に生まれ変わるとは。ウマだけに。今更どうしようもないので普通に受け入れました。悪いことばかりじゃありませんし。
今はそれなりに生活ができています。母馬の言うことをよく聞いていますよ。
(体の動かし方とか目とか全然違うもんな~。今はもう慣れたけど)
生まれてから1ヶ月以上経ちましたからね。私が生まれたのが3月ぐらいで、今は暖かくなってきた5月。もうすぐ梅雨入りです。
餌も最初は母馬の乳を摂取して過ごしていましたが、最近は固形の餌が増えてきました。そろそろ母馬のお乳は卒業かもしれませんね。
それでまぁ、ひとまず現状を把握することに。
(ここは、人間さんの会話を聞く限り北海道の日高? ってところらしい。私が生まれたばかりの頃ってまだまだ雪があったから、北海道なのは間違いなさそう)
私が生まれた土地は北海道の日高という地名。しかもワールドカップとか聞いたことあるようなアイドルグループの名前とかが会話の内容にあったので、ここは日本の北海道で間違いない。まさか日本に転生するとは。何という幸運。
それで私なのだが。馬ということは家畜なのだろう。人間さんもたくさんいるし確定事項だ。
ここで問題となるのは、いったいどういう用途なのか、という問題。
(乗馬の線もあるけど、どうなんだろう?)
その辺の事情はよく分からない。牧場の人間さんはよくじぇいあーるえー? がどうとか最近のけいば? がどうとか言ってるけど、どれも聞きなじみのない単語で分からない。私にもわかるように説明をくれ。単語の説明プリーズ。言葉なんて通じるわけもないから、私の想像でなんとかするしかないんだけど。
じぇいあーるえーは多分、JRA。農業かなにかだと思う。なんか響きがそれっぽいし。つまり私は農業関係の馬、という線が太いわけだ。農業で、馬。はは~ん、なんとなく読めてきたぞ。
(そーいうことね。完全に理解した。私賢い)
少なくとも、あまり良い未来は待ってなさそうだ。せっかく転生したのに、お先真っ暗かもしれないのは結構心にクるものがある。
なんでこんなことに、な~んて思わなくもないけどさ。さっきも言ったようにもう受け入れている。
それに転生したんだから、私にはやりたいことがあるんだ。
(笑顔を見るために、人間さんが幸せになれるように頑張ろう)
私のやりたいことはずばり、みんなを笑顔にすることだ。理由は単純で、私は人の笑顔が好きだから。みんなが笑顔になっているのが大好きだから。凄く単純なものだ。
笑顔でいれば、その分だけ幸せになれる。笑顔が笑顔を呼んで、みんなが楽しく過ごすことができる。私はそう信じている。だからこの生がどんなものになろうとも、笑顔のために頑張ろうじゃないか。
今後の方針は決まった。みんなを笑顔にする目標に向かって、今日も一日頑張りますか!
んで、決意を新たにしたのはいいけれど。私は本当にお先真っ暗なのだろうか、という疑問はぬぐえないわけで。
(本当に私ってどんな用途なんだろう?)
ヒントとなる言葉には聞き覚えがないし。人間さんの言葉を必死こいて思い出してもよく分からない単語ばかりなのだ。JRAなんてのはその最もたる例。一番聞くんだけど、分からない。
他になんか言ってたかな~。確か~……きょうそうば、とか言ってたかな? 聞いたこともない単語なんだよね。
(JRA……きょうそうば……さっぱり分からん)
あれこれ考えるけど、確証は得られず。知識がないから仕方ないや。
でも、ちょっと考え方を変えてみよう。私に待ち受けている未来は分からない、それって楽しくないだろうか? 勿論悪いことだってあるかもしれないけど、良いことだってあるはず。何があるか分からない、それもまた面白いじゃない?
私の生が薔薇色ハッピーライフになることだってあるかもしれない。う~ん、いいねぇ。
「おーい、ご飯だぞー」
むふふ、楽しみが増えた増えた。今は……目の前の楽しみであるご飯に集中しよう。
「たくさん食べて大きくなるんだぞ」
たくさん食べると様子を見に来た人間さんが嬉しそうにする。その笑顔が見れるなら、私は何杯でも食べますよ。それは言いすぎか。今日もご飯が美味しいや。
餌をたくさん食べて美味しくなるとしよう。今日も元気に行きまっしょい。
世代は05世代。