あいあ~い、私です。いやぁ、弥生賞は激戦でしたね。
にしても、まさかプイちゃんだけではなくジャパン君もいたとは。これには私もびっくり。
(しかし、勝負は非情なもの。今回は勝たせてもらいましたよジャパン君)
まぁプイちゃんには負けてしまったわけですが。ちくせう。やっぱりUMAだよUMA。プイちゃんはUMAだね。
「おはようカイザー。今日の新聞を持ってきたぞ~」
お、壬生さんが新聞をもってやってきましたね。一緒に読みますよ~。さてさて、今日はどんな記事があるのやら。
最初こそチンプンカンプンな新聞でしたが、今では立派に読めるようになりましたよ。日増しに賢くなっていく私です。それで今日の新聞ですが、っと。これはどうやら競馬新聞らしいですね。書かれているのはお馬さんのことばかりです。
(この見分けもつくようになりました。私、賢い)
さてさて、今日書かれていることは何だろうな~っと。お、今おニューでホットな話題、弥生賞のことが書かれているではありませんか。でかでかと一面にプイちゃんの勝利が号外として載っていますよ。
というか弥生賞で思ったんですけど、プイちゃん人気すぎね。全部聞こえてましたよプイちゃんの応援の声。私に対する応援の声なんてかき消されてましたからね。会場全てがプイちゃんの応援だったと言っても過言ではありません。う~ん、やはりプイちゃんは凄い子。
(でも、初めて公式のレースで一緒に走ったな~。とっても楽しかった!)
プイちゃんと並んだのは最後の最後だけだけど、今までのレースで一番楽しかった! 次も一緒だといいな~、プイちゃんと走るの楽しいからな……あ、壬生さん次のページによろしく。顔を振ってページをめくってほしいという合図を出します。
「次のページだな。分かった」
細かい文字がびっしりと。これを好んで読む全国のお父さんには尊敬しますよ。
ほほう、弥生賞について書かれているのはトップの一面だけではないみたいですね。陣営のコメント、みたいなものも書いてますよ。プイちゃんのインタビューとか書かれてたりしない? さすがにないか。言葉通じないだろうし。
「……岳さんにもずいぶん評価されてるな、お前。凄い素質馬だよ本当に」
岳さん?……あぁ、プイちゃんに騎乗してた人ですね。物腰柔らかそうな人でした。あの人からも褒められているんですか? では、そちらに注目してみましょう。
ふむふむ、新聞にはこう書かれていますね。
(【やはりハレヒノカイザーは油断ならない相手だった。本来なら鞭も使わない予定だったのに、鞭を使わされた】……鞭ってアレか。合図出すやつ)
実はあれってあんまり痛くないんですよね。イメージとは違って驚きました。にしても、油断ならない相手ですか。次に行きましょう。
(【凄い馬ですよ。ディープに負けず劣らず、良い馬です】。ほほ~う! いいじゃないですか!)
もっと褒めて褒めて! その調子で私のことを褒めてちょうだいもっと!
「しっかし、ディープ人気は凄いな。会場もほとんどがディープインパクトの応援だったし、客入りがG1みたいに多かったし」
まぁプイちゃんは強いですからね。惹かれてしまうのもやむなし。でも、私を応援してくれてもいいんですよ? ハレヒノカイザー、ハレヒノカイザーをどうかよろしくお願いします。
なんか面白そうなものないかな~……お、岡邉さんのインタビューがありましたね。
(【相手が一枚上手でした。ですが、ハレヒノカイザーも負けていません。皐月賞ではハレヒノカイザーが勝ちます】、か)
ところどころ悔しさがにじみ出てそうなコメントを残していました。プイちゃんのことを称賛しつつ、私も負けてないぞ、みたいな。ふふん、そこまで私のことを評価されて悪い気はしませんよ。むしろ良い気分です! 今すぐにでも踊り出したいくらいですよ!
後は~、タイムがどうとか数字が並んでたりとか。目新しいものはないですね。いろんなレースの展望、みたいなものがあったり、お馬さんの情報が載ってたり。
今回も中々楽しめましたよ。明日もよろしくお願いしますね壬生さん。
「明日もってか? 分かった分かった、明日もまた持ってくるよ……まさか本当に新聞を読むようになるとは」
私をこんな風にしたのはあなたよ! 新聞の面白さに気づかせてくれてありがとうねぇ!
レース明けということで調教もお休み。馬房で音楽を聴きながらリラックスタイムです。気分は貴族ですよ貴族。う~ん、最高。
(他の子の迷惑にもならないからって、ラジカセも置いていってもらえたし。あ、そろそろ曲を変えたいな)
え~っと、このボタンを押せばいいんだったな。よし、ぽちっとな。
『~♪』
よしよし、流れていた音楽が変わりました。このまま寝転がりましょう。
で、寝転がる前に一つライフハックを。馬房に置いてある藁、新品になったこれを一ヵ所にかき集めて、と。これで良し。良い感じに集めました。
これで何をするかと言いますと……集めた藁に身を預けるようにダイブ!
(うん、思った通り気持ちいい!)
いい感じのふかふか具合、グッドです。良い仕事してますね藁職人さん。10点満点中10点をあげましょう。
音楽を聴きながらふかふかのベッドで寝る。ふふふ、なんていう贅沢でしょうか。眠っちまいそうですよ。
……それにしても、うん。
(弥生賞は楽しいレースでしたね。また味わいたいな~)
今思い出しても興奮が収まらない。今すぐにでも走りたい、って気持ちになる。私にとって、弥生賞はそんなレースだった。
多分、弥生賞だけじゃない。他のレースでもそうだった。1対1の戦いじゃなくて、多くのお馬さんが一緒に走るレースで。みんなが前へ前へって気持ちで走っている。
お馬さんとしての本能なんでしょうか? 私にもちゃんとあるんですよね。前を走っているお馬さんを抜いて、自分が先頭に立ちたいって気持ちが。人間だった頃よりも強く感じています。ま、私は賢いので。しっかりと自制できていますよ……いえ、岡邉さんがいなかったら大分怪しいですね。サンキュー岡邉さん。
ま~後は。私個人としてはね。“楽しい”って気持ちの方が強いんですよ。レースはね。
(ヒリついた空気が楽しい、一生懸命にみんなと走るのが楽しい。そっちの方が強いんですよね~)
思わず笑っちゃうくらいには楽しさを感じています。競馬場で走る独特の空気、たまらないですね。
次のレースはいつだろうな? 次も楽しいレースになるんだろうな。できればプイちゃんやジャパン君と一緒だと嬉しいな。
(ちょっと寝ましょうか。おやすみなさ~い)
ぐーすかぴー。
◇
弥生賞が終わって数日。そろそろ調教を再開していきますよっと。
「弥生賞のダメージはほとんどない。それに、ディープインパクト相手にどこまで行けるのかも試すことができた」
「富士澤さんの見立てでは?」
「勝てる、と言いたいが……いかんせん勝ち気がな」
勝ち気、かぁ。やっぱり必要なんでしょうか? 気の持ちようでなんとやらと言いますし、レースで勝つためには必要なことなのかもしれません。
「後は口を割る癖、ですよね。頭を上げるし、スタミナを余分に消耗するし」
「それで最後まで走れるあたり、とんでもないスタミナを有しているのかそれともスピードか……案外ステイヤーだったりするのか?」
「いやいや、血統的にないでしょ」
競馬で血はかなり重要らしいです。お馬さんの今後を見極めることができる、とっても大事なことだとか。コレ、豆知識ですよ。覚えておいて損はありません。
「なんにせよ、口を割る癖をどうにかして治さなければな。これまで調教中にいろいろな対策をしてきたが……」
「全部無意味だったな、一雄さん」
岡邉さんの鋭いツッコミ。ふふふ、私が悪いんですかね? コレ。私が悪いんだろうな。でも仕方ないんだ。気づいたら楽しくて笑っちゃうんだから。
「なので、次の皐月賞ではこいつをつけようと思う」
うん? なんだろう……富士澤さんが手に持っているやつ、いつものハミよりも随分と厳重そうですね。あ、ハミというのはお馬さんの口に含ませる道具です。手綱っていう紐に接続しているやつですね。
手に持って私の方へと。今日はそいつをつけるわけですね。分かりました……あの、ちょっとお待ちを。コレ、大分厳重じゃありません?
(く、口が全然開かん……!)
全くではないですけど、口を開くのがかなり窮屈になりましたねコレ。なんてこった、これがさるぐつわってやつでしょうか? 呼吸はできるから問題はありませんけどね。
「母父のダイタクヘリオスも同じような馬具を装着していた。こいつで矯正に努めよう」
「……最終手段ですね」
「背に腹は代えられん。今日から併走は、こいつで調教していくぞ」
富士澤さんたちとしても結構苦渋の決断だったっぽい。嫌そうな、苦々しい表情を浮かべてますし。ここまでさせて申し訳ない。自分でどうにかできればよかったんですけど。
いや、待ってください。これは矯正の道具だと言いました。
では、こいつで矯正することができればいいのでは? というか、そのための道具ではないでしょうか? おおう、ちゃんと気づくことができました。私偉い。
(これでコツをつかんで、いずれはこれを使わなくても走れるようになれば万々歳。ふふん、私に見えますよ。この道具なしでちゃんと走っている未来の私が!)
期待しててくださいよ富士澤さん、壬生さん、岡邉さん。私頑張りますからね。今日からこれを着けて頑張ります!
「じゃあ、今日はプールトレーニングなのでこれは外しますね」
「あぁ、頼む。今回はお披露目だけだからな」
今日は併走じゃないからすぐさま外されました。うん、窮屈だねアレ。
「ちょっと窮屈な思いをさせるけど、ごめんなカイザー」
いえいえ、悪い癖は治した方がいいですからね。全然気にしなくていいですよ。むしろこれからの私の成長に期待していてください。富士澤さんがびっくりするような馬になりますので。
「それじゃあプールに移動させるぞ壬生」
「はい。大人しくしててくれよカイザー」
別のハミ、いつものやつに替えます。落ち着くね。いつも通りって感じです。
手綱を引かれてプール施設へ。レッツラゴー。
◇
いや~、今日の調教もキツかったですね。プールトレーニングの本数を増やすこと検討しているみたいですし、もっと頑張らなければ。
馬房に戻ってきてリラックス。さて、壬生さん達の話に聞き耳を立てましょう。
「そうだ富士澤さん。弥生賞の話の続きになるんですけど」
お、壬生さんが弥生賞について触れてますね。私のことを褒めてください。たくさん褒めてください。
「富士澤さん的には、今回の展開はどうでしたか? 色々と凄かったですけど」
「そうだな……壬生はどう思う?」
「俺としては、アドマイヤジャパンがひたすらに可哀想だと思いました」
うん? ジャパン君に何かあったのでしょうか? あの後、私の知らないところで何が!?
「理想の抜け出し、完璧に勝ちパターンに乗っかったと思ったのに。カイザーとディープの2頭に置き去りにされましたからね」
「あぁ。普通ならアドマイヤジャパンが勝っていても全くおかしくないレース内容だった。騎手である槙山さんも見事、と言わざるを得ない」
どうやらケガをしたわけじゃないっぽいですね。それは良かった。ジャパン君ともまた走りたいですからね。
「ただ、ディープインパクトとウチのカイザーが規格外だった。それだけのことで、全てのレースプランを台無しにされた」
「アレで負けたらどうしようもない、って感じでしたよね。お前も凄いなぁ、カイザー」
こっちにやってきて撫でてくれる壬生さん。むっふっふ~、よきにはからえ~!
「やっぱり、ディープは凄いですね。2歳王者のマイネルレコルトよりも話題になってましたし」
「間違いなく、世代の主役になる存在だろう……カイザー共々、な」
撫でて、壬生さんもっと撫でて! 富士澤さんも混ざっていいんですよ!
その後は特に惹かれるような話題はなく。社会情勢とか言われても分からんですよ。ま、撫でてくれたのでよし!
撫でられたり褒められるの大好きハレヒノカイザー。